劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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なんか一番デートっぽい……


IF生存ルート その3

 家にいたら深雪や水波の精神衛生上よくないという事で、達也は穂波を連れて外へ出かける事にした。

 

「こうして達也君と二人きりでお出かけは初めてね」

 

「まぁ、昔は互いにミストレス持ちでしたからね」

 

「深夜様は達也君の事を絶対に認めようとはしなかったしね」

 

「今となっては思い出でしかありませんけど」

 

「達也君、昔から達観してたもんね」

 

 

 変にくっつくでもなく、ちょうどいい距離感を保って達也の隣を歩く穂波は、婚約者の誰よりも達也の隣にいるのが自然に思えるくらいだった。

 

「それで、達也君は何処に連れて行ってくれるのかしら?」

 

「特に予定もなく外に出たので……どこか行きたい場所とかありませんかね?」

 

「そうなの? じゃあ、とりあえずお茶にしましょうか」

 

 

 そう言いながら穂波が指差したのは、いわゆるファストフード店、穂波はもちろん達也も入ったことは無い。

 

「あそこでお茶飲めるんですか?」

 

「噂に聞いただけだけどね。お茶以外にもいろいろあるみたいよ」

 

 

 穂波の言葉に関心を抱きながら、達也はファストフード店へと足を運ぶ。

 

「随分とにぎわっているんですね」

 

「この時代まで廃れてないということは、それだけ人を惹き付ける何かがあるのよ、きっと」

 

 

 注文を済ませ、達也と穂波は二人掛けの席に腰を下ろし、人生初のジャンクフードを口にする。

 

「大雑把な味付けですが、それがまた人を惹き付けるのでしょうか?」

 

「どうなんだろうね。でも、これならたまに食べたくなるのも分かる気がするわね」

 

 

 普段こういったものを食べない二人は、じっくりと味わうように食べ進めていく。

 

「ごちそうさまでした。なんだかハマりそうな感じがしたわ」

 

「食べ過ぎは身体によくなさそうですが、手軽に食べられますしこうして若い人に人気なのも分かった気がします」

 

「若い人って、達也君高校生じゃない」

 

「あまりそう言った目で見られませんけどね」

 

 

 苦笑いを浮かべながら肩を竦める達也を見て、穂波は笑いをこらえる事が出来なかった。

 

「笑う事ないじゃないですか」

 

「ゴメンね。でも、今のは達也君が悪いわよ」

 

「俺は別におかしなことを言った覚えはありませんが」

 

「確かにおかしい事は言ってないけど、達也君が言うと妙に実感が籠ってて面白かったのよ」

 

「別に笑わせるつもりは無かったですし、面白い事を言った自覚もないんですが」

 

「ゴメンって。達也君が若い人とかいうと、おかしな気分になるっていうかさ……機嫌直してよ」

 

「別に怒ってませんよ。さて、次は何処に行きましょうか」

 

「この辺りにレトロなゲームセンターがあるって聞いたんだけど、そこに行ってみない?」

 

 

 急に出かける事になったのだが、穂波は妙に行き先を指定してくる。それだけ二人きりで出かけたかったのか、それともこの展開が穂波の思惑通りなのかは達也には分からなかったが、とりあえず穂波が指定した場所へ移動すべく、二人は腰を浮かせファストフード店を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次なる目的地であったゲームセンターに到着した達也たちは、まず周りを見渡し意外と人がいる事に驚いたのだった。

 

「レトロな雰囲気ですが、意外と客は入ってるようですね」

 

「何だかうるさいくらいの音量だけど、これくらいじゃなきゃ聞こえないのかしら?」

 

「色々な音が混ざってますからね。どれかを識別するためにはこれくらいで無ければ駄目なのだと思います」

 

「えっと……なんだか白熱した勝負をしてる人たちがいるんだけど」

 

「レオから聞いたことがありますが、格闘ゲームというやつですね」

 

「格闘ゲーム? 座ったまま格闘が出来るのかしら?」

 

「ヴァーチャルの世界のキャラを動かして戦うらしいですよ」

 

「そんなものがあるのね……でも、ヴァーチャルじゃ訓練にならないわね」

 

「普通の人はそこまで身体を鍛える必要も無いですから」

 

 

 特殊な環境で育ってきた二人からすれば、身体を鍛えるのは当然ではあるが、一般人はそこまで鍛える必要も、また鍛えてもその肉体を使って戦う事もほとんどない。

 

「それで、このような場所に来た目的は何ですか?」

 

「目的ってほどの事じゃないんだけどね。ゲームセンターには恋人同士が写真を撮る場所があるって聞いたから」

 

「俺と穂波さんの関係は恋人ではないですが」

 

「うん。だから気分だけでも味わいたいなと思ったの……ダメかしら?」

 

「別に駄目じゃないですし、それくらいなら普通に言ってくれれば撮りますよ」

 

 

 達也の返事に満面の笑みを浮かべた穂波は、達也の腕を引っ張り目的の筐体の前まで移動した。

 

「これがその機械ですか?」

 

「確か『プリクラ』というみたいよ」

 

「どんな意味があってそんな名前に?」

 

「詳しい事は私も分からないけど、写真を撮る機械だってことは聞いてるわ」

 

「誰からそんな知識を仕入れたのかは知りませんが、撮るなら早いところ済ませましょう」

 

 

 場違いな空気を感じながらも、達也は穂波とプリクラを撮るために筐体の中に入る。意外と狭い空間では、自然と二人の距離が近くなり、撮影した写真は、穂波の頬が若干赤くなっているような感じがした。

 

「シールになってるんですね」

 

「いろんなところに貼ったり出来るみたいね」

 

「あまりペタペタと貼るには恥ずかしい気もしますがね」

 

「達也君でも、そんなことを思うのね」

 

「我を忘れるような強い感情を持てないだけで、一般的な羞恥心はありますが」

 

 

 達也のムッとした表情に、穂波はやっぱりおかしそうに笑ったのだった。




やっぱりお似合いだな……調整体じゃなければ……

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