劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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IF剣士娘ルート その2

 エリカとのデートの翌日、紗耶香はエリカからどのようなデートをしたかの内容を聞いて安心していた。

 

「良かった、エリちゃんのことだから、キスくらいしたのかと思ったわ」

 

「そ、そんなこと出来るわけないでしょ! あたしがすれば、他の人だって我慢しないだろうし……」

 

 

 現状として、達也とキスした経験のある婚約者はエリカの知る限り深雪と夕歌の二人だけだ。それ以外の婚約者はチャンスを窺いつつも他の婚約者の事を気にして出来ていない状況だ。さすがのエリカも、そこを切り込んで行く勇気はなかったようだ。

 

「七草先輩とか、してそうだけどね」

 

「でも、七草先輩がキスしてたら、市原先輩や平河先輩が黙ってなかったと思う」

 

「その二人が七草先輩に買収されてる可能性も捨てきれないけどね」

 

 

 散々達也から真由美の本性を聞かされてきたエリカにとって、真由美ならそれくらいしかねないという疑念は捨てきれない。だが、それを達也本人に聞く勇気はなかった。

 

「さーや、何気なく聞いて来てよ」

 

「えっ、私が!? そんなの無理よ」

 

 

 エリカに無理難題を押し付けられ、紗耶香は余計な緊張感を背負う羽目になり、浮かれ気分が一転して胃の痛い思いをすることになってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間になり達也と出かける為門まで向かうと、ちょうど摩利たちも出かけるようで修次と摩利とすれ違った。

 

「壬生じゃないか、お前も達也くんと出かけるのか?」

 

「はい。渡辺先輩たちもお出かけするのですね」

 

「シュウがまた海外出張だからな。今日だけしか出かけるタイミングが無いんだ」

 

「お忙しそうですものね」

 

「まぁ、それだけシュウの実力が世界に認められていると言う事なのだと割り切っているがね」

 

 

 摩利の言葉に、紗耶香は達也が忙しい理由の一つを思い出し、そういう理由なら納得出来るのかもと割り切っている摩利に尊敬の眼差しを向けた。

 

「それじゃあ、お前たちも楽しんでくるんだな」

 

 

 終始無言だった修次は、軽く会釈をして摩利と一緒に先に出かけて行った。紗耶香は、自然に腕を組んだ摩利の行動力に関心し、それくらいだったら自分もと意気込むのだった。

 

「お待たせしました。随分とお早いのですね」

 

「無駄に緊張しちゃって、部屋でジッとしてられなかったのよ」

 

「そうでしたか」

 

 

 対する達也は、特に緊張した様子もなく、何時も通りの面持ちである。それに不満を抱くことは無いが、年下の達也が冷静なのに対し、自分は緊張しているのが何だか情けなく感じたのだった。

 

「どうかされましたか?」

 

「何でもないわよ……ちょっと経験の差を目の当たりにしてるだけだから」

 

「はぁ……」

 

 

 紗耶香が何を気にしているかに心当たりがない達也は、ただそう答える事しか出来なかった。

 

「行きますか。何時までも突っ立ってるのも時間がもったいないですし」

 

「そうね」

 

 

 そう言って歩き出した達也の腕を凝視し、小さく息を吐いてから紗耶香は腕を組もうと達也との距離を詰めた。

 

「壬生先輩?」

 

「な、なに?」

 

「いえ、ただならぬ殺気を感じたもので」

 

「べ、別に殺気なんて出してないわよ……」

 

 

 凝視し過ぎたのか、達也は紗耶香の気配を殺気と認識し戦闘態勢を取りかけている。自分が意気込み過ぎたと反省し、紗耶香は素直に腕を組ませてほしいと提案し、達也の了承を得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリカ同様女の子女の子した服装など似合わないと思い込んでいた紗耶香だったが、達也の勧めと店員の話術に陥落し、一着買う事にしたのだった。もちろん、達也の払いで。

 

「ごめんなさい、司波君。なんだか乗せられちゃったみたいで……」

 

「気にしないでください。エリカにも言いましたが、よくお似合いでしたし」

 

「エリちゃんは可愛らしいから似合うかもしれないけど、私のような武骨な女に、あんな服は似合わないわよ」

 

「武骨ですかね? 先輩だって綺麗な女性だと思いますが」

 

 

 照れもせず、何の前触れもなく褒めて来る達也に、紗耶香は顔を真っ赤にして逃げ出したい気持ちに駆られる。だが自分から腕を組んだ手前、逃げ出そうにも逃げ出せず、ただ顔を背ける事しか紗耶香には出来なかった。

 

「ところで壬生先輩」

 

「なに?」

 

「先ほどからチラチラと俺の口元を見ていますが、何かあるのですか?」

 

「!?」

 

 

 無意識だったのか、紗耶香は達也に指摘されて大きく肩を跳ねさせた。出かける前にエリカに聞いてみてと頼まれたことを、紗耶香は心の何処かで気にし続けていたのだった。

 

「えっと……司波君はキスの経験があるのよね?」

 

「まぁ、数回ほど」

 

「数回? 深雪さんと夕歌さんとの二回じゃなくて?」

 

 

 その二人以外、達也とキスした婚約者はいないはずだと、紗耶香は前のめりに達也に問いかける。もし、自分たちの知らない間に誰かが達也とキスをしたというのなら、自分たちも自重しないという気持ちが前面に出たからだった。

 

「中学生の時に、一度だけ。命の恩人で、恐らく初恋の相手と」

 

「し、司波君にもそんな人がいるんだ……」

 

「いちゃいけませんか? まぁ、既に他界しているので、ライバル視する必要は無いですけどね」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 心の何処かでその相手に嫉妬していた自分に気付き、紗耶香は数度頭を振って残りのデートを楽しむためにその事を頭の中から追いやったのだった。

 後日、エリカからその相手の事を詳しく教えてほしいと頼まれた達也だったが、頑なにその事は口にしなかったのだった。




穂波さんのIFもやりたいな……

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