劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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新たな秘薬が……


母子IFルート その3

 真夜と達也が普通に外出しても問題は無かった。だが真夜は失われた時間を取り戻そうと必死になっていたのかもしれない。

 

「母上、歩きにくいのですが」

 

「そんなこと言わないの、たっくん」

 

「はぁ……」

 

 

 見た目は子供だが、中身はいつも通りの達也なので、容姿不相応な喋り方をしている。それが真夜は不満に思い、かねてから研究を重ねていたある物を達也に飲ませた。

 

「何を……」

 

 

 喋り方や魔法力はそのままでも、身体能力はかなり落ちているため、真夜の暴挙に対して反応する事が出来なかった達也は、あえなくその薬を飲んでしまった。

 

「さぁ、たっくん。今日は思いっきり楽しみましょうね」

 

「何を、言って……」

 

 

 何を飲まされたのか分からないが、可及的速やかに薬の成分を分解しなければと思っていた達也だったが、次第に思考に靄が掛かる錯覚に陥る。

 

「薬の効き目は二、三日で終わるから、それまでは私の我が儘に付き合ってちょうだい」

 

「………」

 

 

 反論しようにも、思考が上手くまとまらず、口も回らない。命に別状はないため、オート術式は発動しない。

 

「これで、失われた時を取り戻すことが……」

 

 

 真夜が何に固執しているのか、達也は知らない。知ろうともしなかった。だが、この身に起きた様々な状況を鑑みれば、普段の達也なら理解出来ただろう。

 

「たっくん、私は貴方のなに?」

 

「……お母さん」

 

「その呼び方でも良いけど、今日は『ママ』って呼んでね」

 

「……ママ?」

 

「そう、ママよ」

 

 

 真夜が達也に飲ませた薬は「対達也用幼児退行薬」と名付けられたもので、名前の如く達也を幼児化させるものだったのだ。だが、この薬で幼児化させられるのは思考だけで、見た目を幼児化させるまでには至らなかった。なので八雲に協力を求め、遂に真夜が夢見た達也が完成したのだった。

 

「あぁ、たっくんが私の事をママと呼んでくれる……この手で育てることが出来なかったたっくんを、疑似的に育てることが出来る……」

 

「ママ、何言ってるの?」

 

「今のたっくんには分からないわよね……何でもないわよ」

 

「そうなの?」

 

 

 あの達也が子供っぽい喋り方をしているだけで、真夜は鼻血が出そうになるのを堪えなければならなくなってしまった。

 

「計算外だわ……この破壊力、私にとっては『質量爆散』並に危険だわね」

 

「?」

 

 

 真夜がブツブツ言っているのを見て、達也は小首を傾げた。その姿を見た者が消していた気配を表してしまう程に、その姿は愛くるしかった。

 

「誰かしら?」

 

「っ!」

 

 

 真夜としても、自分が外出するのに誰もついてきていないとは思っていなかったが、気配を掴むことが出来ずにいた。だが、達也のお陰で相手の気配に動揺が生まれ、ようやく捕まえることが出来たのだった。

 

「あら……貴女吉見さんじゃない」

 

「………」

 

「黒羽の貴女が、何故こんなところに?」

 

「……葉山殿から頼まれました」

 

「お姉ちゃん、その恰好熱くないの?」

 

「はぅ!」

 

「?」

 

 

 いつも通り体型も、性別も分かりにくい恰好をしていた吉見だったのだが、達也に一瞬で女性だと見抜かれてしまい驚いた、のではなく、彼女も単純に達也の愛くるしさに心を掴まれてしまったのだ。

 

「仕方ないわね……吉見さんには色々と働いてもらっているし、今日だけ特別に一緒に行動しましょうか」

 

「ですが、ご当主様のお楽しみを邪魔するわけには……」

 

「お姉ちゃん、行っちゃうの?」

 

「ひゃぅ!」

 

「ママ、このお姉ちゃんも一緒にお出かけするの?」

 

「ええ、そうよ」

 

 

 母子に外堀から埋められてしまい、吉見は逃げ出すことが叶わなくなった。

 

「じゃあ吉見さん、くれぐれも邪魔だけはしないで頂戴ね。私としても、貴女を失うのは惜しいのだから」

 

「か、畏まりました……」

 

「? ママとお姉ちゃん、何話してるの?」

 

「何でもないのよ。それじゃあたっくん、行きましょうか」

 

「はーい」

 

 

 差し出された手を素直に握り、達也と真夜は進んでいく。その数歩後に、戦々恐々とした雰囲気を纏った吉見が追随するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が真夜たちと出かけている頃、司波家では氷河期が訪れていた。

 

「み、深雪様! 魔法をお停めください」

 

「水波ちゃん、私は魔法なんて使ってないわよ?」

 

「そのセリフは、現在進行形でものを凍らせている状況で言わないでください」

 

 

 水波の障壁でも、深雪の魔法を完全に防ぐ事は難しい。何時自分が凍らされるか分からない状況に怯えながらも、水波は主を止めようと必死になっていた。

 

「小さくなったお兄様と、叔母様があんなことやこんなことを……うらやま……いえ、けしからん状況になるのは明白……」

 

「深雪様の思考がけしからん状況になっています! とにかく落ち着いてください!」

 

「水波ちゃんは良いのかしら? お兄様が叔母様に食べられたとしても」

 

「何を言ってるんですか!? 淑女としての嗜みは何処へ行ってしまわれたのです!」

 

「お兄様の前以外で、自分を偽ることを止めただけよ。あぁ、お兄様……あの愛くるしい顔が叔母様の所為で朱に染まるかと思うと……」

 

 

 達也が攫われたことで、思考がよりおかしくなってしまったのだと水波は思っている。普段から、達也が絡むと正常な思考は働いていなかったが、現状はさらに酷い事になってしまったのだと。

 

「……っ、そうだ! 達也さまがお戻りになられる場所を、このような状況にしてしまっては、帰ってくるに来られませんよ!」

 

「帰ってくるのかしら……もしかしたらそのまま叔母上と……」

 

「あぁ……涙と鼻血と涎が同時に……」

 

 

 とても人に見せられない表情をしている深雪を見て、水波は更なる絶望感に打ちひしがれたのだが、何とか深雪の暴走を止めようと奮闘したのだった。




破壊力抜群のショタ達也くん……

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