劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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九月になってしまいましたね……


リーナの質問

 真夜への報告を済ませ、大型二輪を停めた場所まで夕歌の車で戻り、達也は帰宅した。そしてすぐに、リビングから不穏な空気が流れているのを感じ取った。

 

「お帰りなさいませ、達也様」

 

「水波、リビングには誰がいるんだ?」

 

「深雪様、亜夜子様、文弥様、そしてアンジェリーナ様です」

 

「なるほど」

 

 

 気配を探れば一発で分かるのだが、達也はあえて水波に確認を取り納得する事にした。この不穏な空気は三人が醸し出しているものであり、その場にいる文弥にとっては居心地の悪いものであると理解した達也は――

 

「一度部屋に戻ってからリビングに顔を出す。それまで文弥には我慢してもらってくれ」

 

 

――すぐに助けるのではなく、着替えてから顔を出すという選択をしたのだった。

 

「かしこまりました」

 

「深雪とリーナはもう少し穏便になってもらいたいものだ」

 

「同じ立場ですからね」

 

 

 水波の言葉に、達也は小さく頷き、そして自室へと向かっていく。その後姿を見送ってから、水波はリビングに向かい、お茶のお替りを持って行った。

 

「水波ちゃん。今お兄様がお帰りになられたわよね」

 

「はい。着替えてから顔を出すと仰られまして、今は部屋にいます」

 

「そう。お兄様に変わったご様子は無かった?」

 

「何時も通りだと感じましたが、達也様が本気で隠そうとしたのであれば、私などでは見抜くことは出来ません」

 

 

 深雪ならともかく、自分では達也の小さな変化など見抜けないと水波は答え、空のカップにお茶を注ぎ入れる。

 

「ところで深雪お姉さま、水波さんはもうメイドではなくお姉さまの護衛になられたのではなかったでしょうか? それにしては家事もやられているようですが」

 

「基本的にはミアさんと水波ちゃんが家事をしてくれているのよ。ミアさんもここにきてまだ日が浅いから、水波ちゃんが色々と教えてあげているのよ。もちろん、ミアさんが一人でこなせるようになったら、水波ちゃんも晴れてメイド卒業となるんだけどね」

 

「そうでしたの」

 

 

 リーナの耳を気にしてか、亜夜子は「ガーディアン」という言葉を使わなかった。その配慮を無駄にしないよう、深雪も亜夜子に倣いメイド卒業としか表現しなかったのだった。

 

「そう言えば文弥君。さっきから黙ったままだけど、具合でも悪いのかしら?」

 

「い、いえ! 大丈夫です。僕の事は気にせずに」

 

「そう? 何だか顔色が悪いから、てっきり具合でも悪くなったのかと思ってしまったわ」

 

 

 文弥が居心地の悪い思いをしていると分かっていながら、深雪は文弥に声を掛ける。これは苛めているとかではなく、本気で逃げ出したいと思っているのなら、深雪は退席しても良いと思っているからだった。

 

「すまない、待たせたな」

 

「達也兄さん!」

 

 

 着替えを済ませリビングに顔を出した達也を、最も歓迎したのは文弥だった。

 

「文弥、少し外の空気を吸ってくるといい」

 

「いえ、達也兄さんが来てくれたお陰で楽になりました」

 

「そうか」

 

 

 深雪が腰を浮かせて上座を譲ろうとしたのを手で制して、達也は空いている下座に腰を下ろす。家主であり次期当主でもある達也が下座に腰を下ろしたのに全員が顔を顰めたが、本人は気にした様子も無く話を始めた。

 

「皆の力添えもあって、今回の箱根テロ事件の首謀者である顧傑を確保する事が出来た。身柄はUSNAが持って行ったが、十師族が捕獲に尽力した事と、捕獲の際に俺たちが手を貸した事を公表してもらった事で、魔法師への風当たりは多少は柔らかくなるだろう」

 

「お兄様、身柄をこちらで引き取ることは出来なかったのですか?」

 

「ベンジャミン・カノープス一人なら可能だっただろうが、USNA軍全てを敵に回すのは得策ではなかったからな。それに、母上は生死は問わないと言っていたし、今回の目的は顧傑そのものではなく、テロリスト捕獲に十師族が尽力した事を世間にアピールする事だからな。十分に務めは果たしたさ」

 

 

 達也としてはここまで表に立って動くつもりは無かったのだが、思いのほか七草家の動きが鈍かったのと、一条があてにならなかった事もあって、表と裏の両方で派手に動いたのだった。

 

「丁度良いから聞きたいんだけど」

 

「何だ?」

 

 

 達也の話題が一段落ついたと判断したリーナが、手を挙げて口を挿んだ。

 

「まず初めに、タツヤが真っ二つになった大型二輪を元通りにした魔法……あれは、ワタシがブリオネイクを達也に放った時に見せた精神干渉魔法なの?」

 

「いや、俺はリーナと戦った時に精神干渉魔法は使っていない。あの時はまだ使えなかったし、今も完全にコントロール出来るわけではないしな」

 

「じゃあ、あれは何? 焼け焦げた腕を元通りにしたり、真っ二つになった大型二輪を一瞬で元通りにする魔法なんて聞いた事ないわ」

 

「そりゃそうだろうな。一般的な魔法ではないから」

 

「お兄様!」

 

「いや、問題は無いよ。リーナは正式に婚約者として決まったと、先ほど母上から言われたからな」

 

 

 達也の言葉に、リーナは喜び、文弥は祝いの言葉を述べ、亜夜子と深雪は少しつまらなそうな表情を浮かべた。

 

「俺が使ったのは『再成』という魔法だ。対象エイドスに干渉し、外傷なら二十四時間以内、洗脳や魔法的影響を受けている場合はほぼ無制限で遡り、対象エイドスを書き換える事が出来る魔法だ」

 

「……そんなの聞いた事ないわ」

 

「一般的ではないと言っただろ。俺がもう一つ自由に使える魔法『分解』とともに、最高難度に位置付けられている魔法だからな」

 

「じゃあ何故、タツヤは二科生だったの? そんな魔法が使えるなら、ミユキやホノカと同じA組になれたんじゃないの?」

 

「表立って言える魔法ではないからな。その点では手を抜いていたと疑った教師が正しかったんだが、それを抜きにしたら、あれが俺の実力だったんだよ」

 

 

 達也の説明を受け、リーナは首を傾げながらも一応は納得したように頷いたのだった。




説明が大変だ……

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