国立魔法大学付属一高等学校生徒会室、入学式前で忙しいのだから役員全員が忙しなく働いている――
「こら真由美!」
――訳では無いようだ。
生徒会長で真由美と呼ばれた彼女は、PCを使って情報収集をしていた。
「お前は……」
「摩利にとやかく言われる筋合いは無いわよ。貴女だって野次馬でしょ?」
「だからと言って中条や服部が忙しそうにしてるのにお前が暢気にPCを弄くってたら士気に関わるだろうが!」
摩利と呼ばれた女性の言う通りで、会長である真由美が遊んでいたら他の生徒のやる気にも関わってくるのが普通だろう。
だが……
「いえ、会長にはまだ見ていただく段階ではありませんので! この書類が書き上がったら精査していただけますか?」
この生徒会役員は全員が非常に優秀なので、会長である真由美が遊んでいようが何をしていようが仕事はしっかりとこなすのだ。
もちろん真由美も普段はしっかりと仕事をこなす会長だからこそ遊んでいても役員から文句は言われないだのが。
「分かった? だから摩利が心配するような事じゃ無いのよ」
「分かった分かった! それで、いったい何のニュースを見てたんだ?」
真由美に降参を示した後、興味を抑えられないような感じでPCを覗き込む摩利。何だかんだ言って彼女も気になっていたのだ。
「魔法協会関東支部脱走兵の襲撃を受ける? 犯人は元防衛軍曹長の魔法師?」
達也と深雪が片付けた事件がもうニュースに上がっているほど、あの事件は重要な意味を持っているのだ。
魔法師が起こした事件はそれだけで取り上げられるのだが、その魔法師が襲ったのもまた魔法関係の場所だったので、メディアはこぞって騒いでいるのだ。まぁ、それなりに大きな事件なので取り上げられても別におかしくは無いのだが。
「随分と物騒だな」
「嫌な話よね、魔法師同士で争うなんて」
近頃は魔法排斥運動などが再び熱を帯びてきているので、こう言った事件はその思想の持ち主たちからすれば良いネタになるのだ。魔法があるからこんな事件が起こるのだと。
他の魔法師からしてみれば、こんな自分の首を絞めるような事件の事をとてもじゃないが面白いとは思えないのだ。
「そんな事いっても真由美、やけに面白そうにこのニュースを見てた気がしたが?」
摩利が指摘したように、真由美は魔法師にとってあまりありがたく無いニュースを面白そうに見ていたのだ。
「じゃん!」
「何々……勇気ある謎の美少女魔法師のおかげで……なるほど、少しは骨のあるヤツが居るんだな」
「ちょっと無謀かなって思うけど、この正義感は頼もしいわよね」
「それで、何処の誰なんだ? 謎のって事は詳細は分かってないのか?」
「そうなのよ……何故だか粗い画像しかなくって」
「おかしな話だな」
深雪の鮮明な画像が残って無いのは、達也が魔法を使ってあやふやにして、真夜が流失を抑えたからなのだが、高校生がそんな事を知る由も無いのだ。
「だけどね……コレを見てくれる?」
「何だ、随分と粗い画像だな……ん?」
目を細めて画像を見た摩利が何かに気付いた。真由美もその事を待っていたとばかりに別の画像を取り出した。
「似てると思わない?」
「確かに……新入生総代なら頷ける」
「ほんと頼もしいわよね、こう言った子が当校に入学してくれるのは」
真由美が出したのは新入生の写真。ぶっちぎりの学年トップの成績で入学を決めた深雪の画像だった。
「コイツは生徒会に入れるんだろ?」
「当然よ! なんて言ったって主席なんですから!」
「主席入学が生徒会に入るのは伝統だからな……そうじゃなきゃ風紀委員に欲しかったのに」
「でもでも、最終的に取り押さえたのは同年代の男の子らしいわよ」
「あぁこれか、謎の美少女のピンチに現れた王子様ってやつだろ」
「この女の子も凄いけど、この男の子も凄いわね」
「だが、コイツは魔法じゃなく力技で取り押さえたんだろ?」
「まぁね」
記事に書いてある通り、達也は魔法を使わずに犯人を殴り倒したのだ。別に達也が魔法を使えないから殴り倒したのではなく、達也の魔法では犯人を『倒す』事は出来ても『捕まえる』事が出来ないのだ。
だがその事を知らない人間から見れば、達也は武闘派に見えるだろうし実際に記事でもそう書かれている。
「もしコイツが当校に入学してきているのなら、無理矢理にでも風紀委員に引き込むんだがな」
「無理矢理って……面白そうね」
ニヤリと顔を向き合わせて笑みを浮かべる真由美と摩利を見て、生徒会役員の1人がコッソリとため息を吐いたのだが、真由美は摩利を、摩利は真由美を見ていたのでその事には気付かなかった……
「だがそっちの男の子の画像は、全く無いのよね」
「さっきの粗い画像でも無いのか?」
「そうなのよ……問題の殴り倒したシーンだって、遠巻きに見てた人の証言からだしね」
「何者なんだ、その男は……」
「彼女の事を助けたって事は、それなりに関係のある男の子だとは思うんだけどね」
「恋人か?」
「如何だろう……ついこの前まで中学生だった彼女に恋人が居るとは思えないんだけど」
「真由美、それはお前に未だに彼氏が居ないからだろ」
「摩利!!」
気が置けない友人、本人たちは悪友と称しているが、周りから見れば2人の関係は親友同士だ。その2人が恋人の有無を把握していてもなんら不思議は無いのだが、真由美は知られている事に驚いた。
家庭の事情も多分にあるのだが、真由美は男性と付き合った事は無い。もちろん女性ともだ。
「高校3年にもなって未だに付き合いが無いとは悲しき高校生活だな」
「摩利は事情を知ってるでしょうが!」
こうして生徒会室で会長の叫び声が響き渡り作業が中断されてしまったのだが、問題無く入学式を迎える事になった。
つまり、波乱の幕がついに上がるのだ……
次回から漸く『劣等生』に移ります。『優等生』側も少しは使って行きたいと思ってますので、お付き合いください。