劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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男子が出ないのは珍しい気が……


乙女たちの考え

 作戦会議を行う為に、深雪たちは校門でエリカたちと合流し、行きつけの店であるアイネブリーゼへと足を運んだ。

 

「いらっしゃい。おや? 今日は女の子だけなんだね」

 

「店長、明日が何日か調べれば、このメンツも納得いくと思うわよ」

 

「明日……あぁ、そう言う事か。だったら、奥の席を使っていいよ」

 

 

 女子しかいない理由に思い当たった店長は、笑顔で深雪たちを奥の席へと案内した。あそこなら、万が一レオや幹比古が入って来ても気づかれないし、また入って来た側からも座っている相手の顔は確認出来ない。深雪たちは笑顔で会釈し、奥の席へと腰を下ろした。

 

「深雪は良いわよね。からかわれる事なく、家で渡すことが出来るんだから」

 

「その代わり、渡した後にすぐ逃げれないから、気まずさはエリカたち以上だと思うけどね」

 

「気まずさも何も、達也くんが深雪がくれた物で不機嫌になるとは思えないんだけど」

 

 

 エリカのこの言葉に、他のメンバーも頷き同意した。

 

「お兄様は兎も角、私は気まずくなるのよ……去年までは兄妹として渡してたのに、今年はそう言う訳にもいかなくなっちゃったんだし……」

 

「元々本命に近い義理だったんでしょうし、今更緊張する事もないと思うんだけど?」

 

 

 雫の何気ない一言に、深雪は少し俯いてから首を振った。縦にではなく、横にだ。

 

「未だに『お兄様』と呼んでしまっても、達也さんは気にした様子も無く返事をしてくれるわ。だけど、本命チョコを渡してしまったら、もう呼び間違いは許されなくなってしまうんじゃないかって」

 

「達也さんがそんな事で深雪を責めるとは思えないけど」

 

「そうだよ。達也さんはそんなに心が狭い人じゃないって、深雪が一番分かってるでしょ? 悔しいけど、私たちの誰よりも、深雪が達也さんの事を理解してるのは事実なんだから」

 

 

 雫とほのかの励ましも、今の深雪にはあまり効果が無かった。ついこの間までは、達也の事を一番理解しているのは自分だという自負もあった。だが慶春会前に知らされた、達也が自分の兄ではなく従兄だという事実が、深雪の中にあった自負を粉々に砕いてしまったのだ。

 実の兄という、誰にも負けない繋がりがあったからこそ、ほのかや雫、エリカたちが達也に甘えても堪える事が出来たのだ。その繋がりがなくなり、自分もほのかたちと同じ関係になってからというもの、深雪には達也に他の女子が近づいてきた時、前まで持てていた余裕が無くなってきているのだ。

 

「気にし過ぎだと思いますけどね。司波先輩が一番大事に思ってるのは、兄妹であろうがなかろうが司波会長だと思いますけど」

 

 

 香澄の一言に、水波も頷いて同意する。水波は達也と深雪の関係が変わる前から、二人の側に仕えていたのでその事を一番よく理解しているのだ。

 

「達也様はどれだけお帰りが遅くなろうが、必ず深雪様にご連絡を入れています。これは達也様が常に、深雪様の事を思っているからだということだと思いますが、深雪様はそうはお思いではないのですか?」

 

「お兄様は――達也さんは元々、私のボディーガードだったから、その延長で私の身を案じてくれているのではないかという疑問がぬぐえないのよ。そんな事ないって、心のどこかでは思ってるくせに、どうしてもその不安を拭い去れないのよ」

 

「だったら、その事を達也くんに直接聞けばいいじゃない。元護衛対象だから気に掛けてるのか、それとも婚約者だから気に掛けてるのかをさ」

 

「エリカ。私はまだ、みんなと同じ婚約者『候補』でしかないの。下手に機嫌を損ねてしまったら、その候補から外されることだってあるのよ」

 

「そんなこと、天地がひっくり返っても無いから安心しなよ。達也くんが深雪を避ける事なんてありえないって」

 

 

 根拠のない言い分だが、エリカの言葉に深雪は心に余裕を持つ事が出来るようになった。とにかく今は、達也がどういう理由で自分の事を案じてくれているのか、それを確かめようと心に決めたのだった。

 

「さてと、さっきから黙ってるけど、美月はミキにチョコをあげるんでしょ?」

 

「っ!? ごほごほ……え、エリカちゃん!?」

 

「隠したって無駄よ。てか、全然隠せてないからね」

 

 

 美月が誰を想っているのか、そんなことはここにいる全員理解している。下級生の香澄や水波ですら、美月と幹比古の関係はじれったいと思っているほど、分かりやすいものなのだ。

 

「互いに意識してるのバレバレなんだから、いい加減告白しちゃいなさいよ。ミキだって悪いように思わないだろうし、むしろ飛び上がって喜ぶんじゃない?」

 

「ある意味、達也さんと深雪以上に分かりやすかったもんね」

 

「達也さんは表情に出さないからね。その点、吉田くんはすぐ顔を赤くするし」

 

「お兄様曰く、男の子はみんなシャイらしいですからね。吉田くんの反応が一般的なのかもしれないわよ」

 

「そうなの? レオなんて全く顔に出さないし、達也くんは何考えてるのか分からないから、ミキの反応が普通だって思えないんだけど」

 

「西城くんは結構分かりやすいと思うけど」

 

 

 雫の言葉に、ほのかや深雪は同意したが、エリカは首を傾げた。

 

「アイツは表情に出ないわよ? 口には出すけど」

 

「だから分かりやすいんだよ」

 

「なるほど。隠し事が出来ないタイプって事ね」

 

 

 表情に出なくても、レオは口に出るタイプだ。エリカもその事は重々理解していた。だが表情という点だけで考えていたので、レオも分かりにくいタイプだと思っていたのだった。

 

「あたしがブルマーを穿いてた時も、ミキは顔を真っ赤にしてたし、レオは余計な事を言ってたわね、そういわれれば……あの時も、達也くんだけは何とも無さそうな顔をしてたもん」

 

「エリカがメイドさんの格好してた時にも言ったけど、達也さんは女の子を外見で判断したりしないもの」

 

「そうだよね。達也くんはあたしたちの内面を見てくれてるから」

 

 

 その後も想い人の話で散々盛り上がり、いつも以上にアイネブリーゼでのお喋りが長引き、香澄の電話が鳴った事でお開きとなったのだった。




女子会とはまた違うんだろうな……

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