劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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女子の考えが正しい気もする……


周りの考え

 この日の昼、将輝は深雪と同じテーブルにはつかなかった。彼はまずA組の男子と親睦を深めることを優先したようで、森崎のグループに混ざっている。それを少し離れた席で見ながら、エリカが呟いた。

 

「意外ね。てっきり深雪にくっついてくると思ったのに……」

 

「いきなりそれじゃ、男子にも女子にも嫌われちゃうよ」

 

「リーナは女の子だから深雪と一緒でもそれで当然という感じだったけど、一条さんは男子だもんね」

 

 

 エリカの正直すぎる感想に、幹比古が苦笑いを浮かべながら反論し、ほのかもその意見に同調した。

 

「それもそっか。初日から女の子のお尻を追っかけ回してるようじゃ、プリンスのイメージがた落ちだよね」

 

「エリカちゃん、お尻って……」

 

 

 少々品が無い表現を示したエリカを、美月が恥ずかしそうに宥める。その表情を見て、エリカがにやりと笑った。

 

「何か変だった?」

 

「だからお尻……」

 

「お尻、ダメかな? じゃあおケツ」

 

「エリカちゃん……」

 

 

 エリカと美月のやり取りを見ていた雫が、視線を達也に向ける。

 

「どうかしたのか?」

 

「達也さん、一条くんが深雪に交際を申し込んでいるって本当?」

 

「雫は知ってるんじゃないのか?」

 

 

 雫の質問に対し、達也は意外感から質問で返してしまった。だが雫は気にした様子も無く、小さく頷いた。

 

「噂程度はね。でも、実際はどうなってるのかは知らない」

 

「噂自体は本当だし、深雪が――というより四葉家が返事をしていないのも本当だ。母上には何か考えがあるようだが、深雪の気持ちは本人から聞いた方が良いだろう」

 

「答えるまでもありません、お兄様――達也さん」

 

 

 どうしても癖が抜けない深雪は、お兄様と口にした後、慌てて達也さんと言い直す。先日その理由を聞いた雫とほのかは微笑で済ませたが、エリカと美月はそうはいかなかった。

 

「深雪、何時まで達也くんのこと『お兄様』って呼ぶの?」

 

「仕方ないじゃない。今年のお正月までは、本当のお兄様だと思っていたのだから」

 

「でも、深雪さんが達也さんの事を『お兄様』と呼んでる限り、他の人は可能性があると思ってしまうのではないでしょうか?」

 

「私ははっきりとお断りしてくださいと叔母様に言ったのだけど、まだ時期じゃないって言われてしまったのよ」

 

「時期? 何か企んでるってこと?」

 

 

 エリカの質問に、深雪は目を伏せて首を左右に振った。

 

「叔母様のお考えになってることは、私には分からないもの」

 

「そっか……達也くんは? 何か聞いてないの?」

 

 

 深雪がダメだと判断して、エリカは矛先を達也へと向けた。

 

「俺も何も聞いていない。そもそも、気にする事でもないだろ」

 

「そうなの? 婚約者候補筆頭を、横から掠め取られるかもしれないのに」

 

「掠め取るも何も、深雪が一条の方が良いと判断したなら、それはそれで仕方がないだろ」

 

「そっか……でも、天地がひっくり返ってもそんなことはないでしょ? 深雪は達也くんが本当のお兄様じゃないと知らない時から、達也くんの事しか見てなかったんだから」

 

 

 エリカがからかおうと言ったセリフは、深雪の顔を真っ赤に染め上げるには十分すぎるものだったが、達也は顔色を一切変える事無く、深雪の反応を眺めていたのだった。

 

「そう言えば達也、一条君が一高に来た理由って?」

 

「テロリスト捜索に加わる為だろう。俺と一条は、十文字先輩の指揮下に入ってるからな」

 

「僕も手伝おうか?」

 

「いや、幹比古は反魔法師団体の方に注意しておいてほしいんだが」

 

「反魔法師団体?」

 

「当校の生徒が、盗撮や暴言の被害に遭ってると教えてくれたのは幹比古だぞ」

 

「あ、ああ。あの件か……あんなちょっとした雑談をよく覚えていたね」

 

「俺はむしろ、よく忘れていられたなと思ったぞ」

 

 

 達也が呆れたのを隠そうともしなかったので、幹比古は急激に居心地の悪さを覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、達也は二年A組の教室を訪れた。

 

「お兄様、お迎えに来てくださったのですか?」

 

「ああ。一条に話しておくこともあったからな」

 

「一条さんですか? 分かりました。お呼びしますね」

 

 

 達也の返答に、深雪が少しがっかりしたが、それでも笑顔を絶やすことなく身を翻し、教室の中へ戻っていった。

 

「司波、何の用だ?」

 

「一条、任務の件で十文字先輩がミーティングを開いているのは知っているか?」

 

「いや、聞いていないが……」

 

 

 東京に来たばかりの将輝は、その事を知らなかったようで、達也に対するライバル心を一瞬忘れ、きょとんとした表情を浮かべた。

 

「ミーティングといっても、十文字先輩と七草先輩と俺が情報交換をしているだけなんだが、一条も来ないか?」

 

「そうだな……差し支えなければ、俺も参加させてもらおう」

 

「そうか。今日のミーティングは十八時からだ。地図を転送するから端末を出してくれ」

 

「あ、ああ」

 

 

 将輝としても、恋敵である達也と一緒に行動するのは避けたいと思っていたのだが、まさか東京に来たばかりの相手に別行動をさせるのかとびっくりしてしまったのだった。

 

「データはちゃんと届いたか?」

 

 

 達也は将輝が何を思っているのかに気づいていたが、その事には一切興味を向けずに、事務的な確認だけをしたのだった。

 

「問題ない」

 

「では十八時に。深雪、ほのか、行こうか」

 

「はい」

 

「ええ」

 

 

 将輝の背後で達也に声を掛けられるのを待っていた深雪とほのかに声を掛け、達也は生徒会室まで二人を送っていくことにしたのだった。

 

「では一条さん、失礼致します」

 

「生徒会、頑張ってください」

 

 

 将輝に軽く会釈をして、深雪とほのかが彼の隣を通り過ぎ、達也を挟むようにして生徒会室へ向かっていく。

 

「深雪、早く断った方が良いんじゃない?」

 

「叔母様から許可が下りなければ、私だけの感情で一条家との関係を悪化させるわけにもいかないのよ」

 

 

 家の都合で断れないと嘆く深雪に、ほのかは同情的な視線を向けるのだった。




将輝と達也が一緒に行動してたら、美月歓喜でしょうね……

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