劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ここでもちょっと話し合い……


司波家での討論会

 十師族がテロリストを非難する声明を出したすぐ後、テロ首謀者であるジード・ヘイグの犯行声明が発表され、今回のテロは十師族を狙ったものであるということが、日本中に知れ渡る事となった。

 十師族の声明とヘイグの声明を受け、世論は大きく割れる事となった。十師族を非難する人間と、テロリストを非難する人間の二極化が見られる中、司波家では主の帰りを待つ三人の少女たちがその事について話し合っていた。

 

「テロリストの狙いは、十師族の声明を皆の記憶から消し去り、全員が『十師族が悪い』と思わせる事なのかしら」

 

「それは不可能だと思います。いくらテロリストの声明が与える衝撃が大きいからと言って、全ての人間に十師族が悪いと思わせる事は出来ないと、テロリスト本人も理解していると思いますし」

 

「ですが実際には、二極化しているとはいえ反十師族派の方が多いと報じられてますし、狙いとしては成功したと言えるのではないでしょうか」

 

 

 報道番組を見ながら、深雪の呟きに水波とミアが答える。二人の考えを聞いて、深雪は少し考え込むような仕草を見せてから、自分の考えを二人に伝える。

 

「私は十師族の一員だから仕方ないとは思うけど、十師族の方々が悪いなどとは思えません。そもそも狙われた側である十師族の当主の方々が、何故非難されなければいけないのか、それが分からないわね。十師族の当主の方々が尽力したお陰で、幸いにも死者が出なかったのは紛れもない事実。それをマスメディアに踊らされてその事実を無かったことにするなんて、随分と都合の良い考えだと思うの」

 

「深雪様のお考えはもっともだと思います。ですが、全員が全員、深雪様のように考えられるわけではございませんよ。死者は出ずとも負傷者は大勢出てしまったのですから、テロに巻き込まれたという立場を考えるのでしたら、十師族の当主様たちも当然『被害者』です。ましてや救助を手伝う義理など無いお立場ですが、魔法師ではない人、また十師族ではない魔法師からすれば、十師族の当主は人助けをして当然だ、と思い込んでいても仕方ないのではないでしょうか」

 

 

 深雪の考えを肯定しながら、水波は世間一般の動向を踏まえた考えを深雪に告げる。その考え方はよく周りを見てから考えられたもので、深雪も水波の意見には納得できる部分があった。

 

「でもね、水波ちゃん。十師族の当主だって公職についているわけじゃないのだし、テロ現場に居合わせたのだから他の人を守る義務がある、なんてことは無いのよ。それは分かってるとは思うけど」

 

 

 十師族だって不死身ではない。怪我をすることもあれば、当然死ぬことだってある。その事を無視して、十師族当主は一般市民を守るべきだったと報じている番組に苛立ちを覚え、深雪はテレビを消した。

 

「ミアさんはどう思いますか? USNA軍だってこのように報じられたら苛立ちだって覚えると思うのですが」

 

「十師族とUSNA軍は立場が違いますから、あくまで私個人の考えになりますが」

 

 

 そう前置きして、ミアは自分の意見を二人に述べる。

 

「心情的には魔法師ではない人の考えも理解できます。魔法師を狙ったテロに巻き込まれたのですから、魔法師が悪いと思ってしまうのも仕方ないのかと……ですが、全面的にその考えが正しいのかと言われれば、そうではないと思います。魔法師――十師族の当主の方々もテロの標的とされたわけですから、言ってしまえば被害者です。負傷した魔法師ではない人と変わりはありませんし、避難するための通路を確保したり、身動きが取れなくなった方々を救助したのも事実です。その事を無視して非難している人は、人間主義者的思考を持っているのでしょう。万が一USNA軍がこのように非難されたのでしたら、私は憤りを感じると思いますよ。軍属とはいえ魔法師も人間です。怪我もすれば死ぬこともある、その事を無視して一方的に非難される筋合いは、USNA軍にもありませんからね」

 

 

 ミアの意見を聞いた二人は、彼女も日本の魔法師の一件を真剣に考えてくれているのだと理解し、ミアに笑いかける。

 

「ミアさんは日本の問題を自分の事のように考えられるんですね」

 

「達也様のお陰です。ステイツの問題に尽力してくれたお方の側に仕えているのですから、そういった考え方が身についてしまうのも当然です」

 

「確かに達也様はアメリカの問題を自分の問題のように考えておられましたからね。実際被害が出ていたので無関係とまでは言えませんでしたが、達也様が尽力する義理は何処にも無かったのですから」

 

 

 魔法師が狙われていたとはいえ、四葉家には直接的な被害は無かったので、達也がパラサイト事件に首を突っ込む義理は無かったし、実際幹比古から救援要請が無ければ手伝うつもりも無かったのだ。

 

「私たちがいくらこうやって考えても、世間の風当たりはきつくなるでしょうね。ミアさんも出かける時は十分に気を付けてくださいね」

 

「承知しております。ですが私は、深雪様や水波さんの方が心配です。達也様がご一緒でしたら問題ないでしょうが、これから達也様はテロリスト捜索で幾度となく家を空ける事があるでしょう。その時に襲われたら、いくら魔法力が高いお二人でも無傷で済むかどうか……」

 

 

 ミアの懸念を受けて、水波が難しい顔になる。ミアのセリフの中にあった「達也が家を空ける」という事態を想定して、自分がガーディアンとして任命されたのだから、何としても深雪だけは守り通さなければならないという使命感が強まったのだった。

 

「何があろうと深雪様だけはお守りいたします」

 

「ありがとう。でも、水波ちゃんも危ない事はしないでちょうだいね。また私を守るために人が死ぬのは見たくないから」

 

 

 深雪は五年前の沖縄での一件を思い出し、水波によく似た――同じ調整体シリーズなのだから当然だが――穂波の事を思い出し、そしてその流れで達也の心の傷を思い出したのだった。当時から数少ない達也の味方であった穂波は、自分が殺された復讐の為に敵陣に向かった達也を守るために命を落とした。つまり、結局は自分の所為で穂波が死んでしまったのだと、深雪は今でも思い込んでいたのだった。

 だからではないが、自分を守るために水波が死ぬのは避けたいと願っているので、このような言葉が自然と口から出たのだった。




久しぶりに穂波さんの名前を出したな……

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