達也に対する気まずさが無くなったため、昼は幹比古と美月も一緒に摂るようになった。ちなみに、今日の達也の弁当を作ったのはエリカだ。
「テロリストに対する非難声明?」
食事を終えた幹比古が、たった今流れたニュースに食い付いた。十師族が魔法協会を通じて出した声明に、幹比古は疑問を覚えたのだ。
「幹比古、何がそんなに気になるんだってんだ? テロを許さないと思うのは十師族当主でも同じってだけだろ」
「そうなんだろうけど……十師族の当主たちは、精一杯救助活動を行ったはずなんだ。なのに非難されているからテロリストを許さない、そう聞こえる感じがするんだ」
「それはミキが歪んでるからじゃないの? そもそも十師族の当主たちに、救助活動を強要する事は出来ないはずでしょ? あの人たちだって一般市民であることには変わらないんだし、自分たちの身の安全が確保できていないのに、他人を助ける余裕なんてないもの」
三人の会話を聞きながら、達也はテロ現場の惨状を思い浮かべていた。十師族の当主たちが抑えたため、死者は奇跡的にも出なかった。だがそれでも、負傷者ゼロとまではいかないのだ。これは力不足とかではなく、瓦礫が掠ったり慌てて逃げようとして転んだりと、避難時に起こりうる状況が影響したのも大きい。
だがそれすらも魔法師の所為だと言い張るメディアが後を絶たない。テロを起こしたのが魔法師で、それに巻き込まれたのだから魔法師が悪いと。
「全ての魔法師が関わってるわけじゃないのに」
「反魔法師集団がメディアに関わってるのかもしれないな」
「そんな……」
雫の当然の考えに、達也が可能性で答える。その達也の答えを聞いたほのかの顔が、テロに関係ない魔法師の普通の反応なのだろうなと、達也はそんなことを思っていた。
「メディアに踊らされて、反魔法師思想の人たちが増えるかもしれないね」
「他人事のように言ってるが、デモ運動でも起こったらそれを抑えるのは警察だろ? お前の兄貴だって警察じゃなかったか?」
「和兄貴の事? 別にあいつは良いのよ。それが仕事なんだから」
あっけらかんと言い放つエリカに、他のメンバーは様々な感情で視線を向けた。
「とりあえず、何かをされるかもしれないから、放課後などは出来るだけ集団で下校した方が良いだろう。深雪、後で生徒会でも話し合うから、とりあえず考えはまとめておくように」
「もちろんです、お兄様」
深雪の「お兄様」呼びにも誰も反応を示さない。むしろ「達也さん」と呼んだ方が周りの反応は大きいのだった。
生徒会での話し合いの後、達也は犯人捜索の為に動く。といってもまずは情報の共有、交換が優先されるので、克人に呼ばれた通り彼の家を訪れた。
「お待ちしておりました。こちらでございます」
チャイムを鳴らすと、古風な感じの侍女が彼を出迎え、恐らく当主の間だと思われる部屋を素通りしてリビングへと案内された。
「司波達也様をお連れしました」
「ご苦労」
リビングの扉の前で声を掛け、侍女はそこで一礼して達也をリビングへと通し、自分はそのまま去って行ってしまった。
「久しぶりね、達也くん」
「この前、喫茶店でお会いして以来ですね」
「まぁ座れ」
先に来ていた真由美と言葉を交わしていた達也に、席に着くように促し、侍女が持ってきたお茶で口を湿らせてから、克人がゆっくりと口を開いた。
「司波、七草、今日はわざわざ来てもらってすまない」
「いえ、大して距離があるわけでもありませんから」
「達也くんも来てくれたことだし、十文字くん、ご用件を聞かせてくれる?」
達也は真由美がこの場に呼ばれた理由を知らない事に驚き、克人を見る。克人がいまだかつてないほどの緊張感を漂わせているのを見て、達也は口を挿むのを止めた。
「昨日のテロ事件の捜査に、お前たちの力を貸してほしい」
「達也くんは分かるけど……私も? うちの兄が手伝うことになってるんじゃないの?」
「そうだ。だから七草には、智一殿にこちらで得た情報を伝えてもらいたい。もちろん、智一殿の方で得た情報をこちらに伝えてもらう役目も頼みたい」
「メッセンジャーって事? それくらいなら別に良いけど、非効率的じゃない? 総責任者が十文字くんで、主力部隊を率いるのが家の兄だなんて」
真由美はそうなった理由を知らない。達也はなんとなく察しているし、弘一の陰謀の所為で結構面倒な目に遭わされたのでそれが原因だろうと知っている。克人も達也がなんとなく察している事に驚きは見せなかったし、こうなった原因を真由美に告げるほど無神経でもなかったので、曖昧に濁して話を進めた。
「今後のミーティングの場所だが、俺と七草だけなら魔法大学の側が良いが……」
「それで構いませんよ。ですが、魔法大学の側に適当な場所がありますかね」
「それは俺が手配しよう。情報交換を行うのは明後日からにしたい」
「了解よ」
「承知しました。何時に、どちらへ向かえばよろしいでしょうか」
「……十八時に、魔法大学の正門前に来てくれ」
達也の質問に、克人は少し考えるそぶりを見せてから場所と時間を指定した。
「分かりました」
十八時なら生徒会を休めば、一旦家に帰ってから向かうことが出来る。そう頭の中で素早く計算した達也は、頷き克人の案を受け入れた。
「司波には面倒を掛けることになるが、よろしく頼む」
「母上からも捜査に加わるよう言われていますし、標的に母上も入っていますから」
「達也くんが『母上』って呼んでるの、新鮮よね。ずっとご両親の事は触れなかったから」
「深雪が気にしますからね。母親が死んですぐに再婚した父親の話題になるので」
パラサイト事件の時、真由美は意図せずその事を達也から聞かされていた。一方初耳だった克人は、一瞬眉を上下させたが、それ以上の反応は見せなかったのだった。
克人の精神力、半端ないな……