劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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七草家だけで九島家まで行かなかった……


師族会議 中編

 真夜の発言に、八代家当主である八代雷蔵が手を上げて発言する。

 

「周公瑾とは、三国志で有名な呉の周瑜の事ではありませんよね?」

 

「横浜中華街を根城にしていた、大陸出身の古式魔法師です。道士、と言うのでしたわよね、九島殿」

 

「あ、ああ。大陸の古式魔法師はそのように呼ばれる事が多い」

 

 

 真言は身体が震えださないように全力で自分を押さえつけている。

 

「九島殿、如何なされた? 顔色が悪いようだが」

 

「いや、何でもない、六塚殿」

 

 

 温子は真言の不審な態度に首を傾げながら、真夜へ顔の向きを戻した。

 

「それで、その周公瑾なる者が何か?」

 

「反魔法国際政治団体『ブランシュ』。香港系国際犯罪シンジケート『無頭竜』。横浜事変を引き起こした大亜連合破壊工作部隊。そして東京を中心に吸血鬼事件で世間を騒がした『パラサイト』。これらを手引きし、援助して我が国に混乱をもたらした黒幕、と申しますか、黒幕の日本における代理人を務めていた人物です」

 

 

 真夜の発言に、会議室にざわついた空気が流れ始めた。十師族の当主から落ち着きを奪うだけの衝撃が、今の真夜のセリフにはあったのだ。

 

「四葉殿、今『務めていた』と過去形で話されたのは、周公瑾を既に処分済みだからですか? それとも国外へ逃亡済みだからですか?」

 

「周公瑾は昨年十月、一条将輝殿、九島光宣殿の協力を得て、達也が仕留めました」

 

 

 真言が意外感を表した。剛毅はこの件を将輝から報されていたが、真言は光宣から聞いていなかった。

 

「光宣殿、というと、九島殿の末のご子息ですな?」

 

「一条家の将輝殿、四葉家の達也殿、九島家の光宣殿……何とも頼もしい事です」

 

 

 三矢元が手放しで賞賛する。

 

「そうですわね。優秀な次世代が育ってくれることは、本当に喜ばしい限りです。日本魔法界の将来は安泰だと思えます」

 

 

 二木舞衣も、それに同調した。

 

「私や十文字殿からすると、次世代というより後輩になりますが。頼もしいのは確かだ」

 

 

 六塚温子の言い分が、年長組の笑いを誘った。しかしその和やかな雰囲気は、真夜の次のセリフですぐに霧散した。

 

「七草殿。貴方は周公瑾と共謀関係にありましたね?」

 

「……四葉殿。それは確かな根拠があっての御言葉ですか?」

 

 

 五輪勇海が掠れた声を絞り出す。弘一はまだ何も言わない。

 

「七草殿。貴方が配下の名倉三郎氏を使い、周公瑾とコンタクトを取り、昨年四月に民権党の神田議員を間接的に使嗾して反魔法師運動を煽った事は調べがついています。何か反論がお有りですか?」

 

「四葉殿、私も、根拠を伺いたいですね」

 

 

 弘一がゆっくり口を開いた。弘一と真夜が冷ややかに睨み合う中、最年少の克人が口を開いた。

 

「発言してもよろしいでしょうか」

 

「構いませんよ」

 

 

 自分に集まる視線をものともせず、克人は落ち着いた口調で証言を始めた。

 

「七草殿が反魔法師運動を煽っていたのは事実です。私はそれを七草殿ご本人から伺いました」

 

「七草殿、何か弁明はありますか?」

 

 

 温子が弘一を鋭く詰問する。弘一はフッと余裕を感じれる笑みを浮かべた。

 

「十文字殿の言われたことは事実ですよ。四葉殿の言われたことも概ねその通りです。ただし、順序に誤解があるようですね」

 

「順序? それが何だと言うのだ」

 

「私が部下を使って周公瑾とコンタクトを取ったのは、反魔法師運動が第一高校の恒星炉実験によって小康状態になった後です。ああ、そう言えばあれも四葉家の達也殿のお手柄でしたね。あの実験をローゼンの支社長が高く評価した事で、世間の風潮ががらりと変わりました。実に優秀なご子息だ」

 

「だからそれがどうした」

 

 

 苛立たしげに剛毅が弘一を詰る。弘一はそれ以上話を長引かせて剛毅を煽るような真似はしなかった。

 

「私が周公瑾とコンタクトを取ったのは、魔法師全般を対象とするマスコミ工作を止めさせる為でした。無論、取引材料は必要でしたが、日本魔法界の不利益になるような代償は差し出しませんでした」

 

「ああ、そうでしたね。反魔法師運動を煽った後に、周公瑾と手を組まれたのでしたね。ですが、周公瑾がそれ以前からこの国に害をなしていたのは紛れもない事実でしょう? そのような者と手を組んだという事実そのものが、十師族として相応しからぬ行いだと私は思うのですけど。皆様、そうではありませんこと?」

 

 

 弘一の主張を認めても、真夜の余裕が崩れなかったのは、まさにそこが問題だったからだ。

 

「然り」

 

「四葉殿の仰る通りです」

 

「残念ながら、その通りですな」

 

「七草殿、私はあの時も、止めるべきだと申し上げました」

 

「七草殿にもお考えがあったのでしょうが……」

 

「私には七草殿を弁護出来ない」

 

「七草殿。どのような意図があろうと、超えてはいけない一線、手を組んではならない相手というものがございます」

 

 

 剛毅、温子、雷蔵、克人、勇海、元、舞衣の順に真夜の意見を支持する中、真言だけが態度を明らかにしていない。それを不審がった剛毅、温子、雷蔵、克人、元、舞衣の視線が真言へと向かう。

 最後に舞依が弘一に告げた言葉は真言にも当てはまる。弘一とは事情が異なるとはいえ、真言も周公瑾と結託していたのだ。

 

「入らせてもらっても構わないだろうか」

 

 

 防音されているはずの扉の向こう側から聞こえてきた声は、全員が良く知る老人のものだった。扉に最も近い位置に座っている克人が立ち上がり、一座を見回す。頷く者はいても、首を振る者はいなかった。

 克人は出入り口に歩み寄り、ノックされたドアを開けた。扉の向こうに立っていたのは、引退したはずの九島烈だった。

 

「老師、ご無沙汰致しております。それにしても、本日は如何なされまして?」

 

 

 舞衣が丁寧に烈を迎え、克人が自分の席を勧めようとするが、烈は笑って手を振った。

 

「すまないが、今の話は聞かせてもらった」

 

 

 笑みを消した烈は、いきなり本題へ入ったのだった。




このペースで行くと、原作に追いつきそうだな……

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