劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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色々と無理があるかもしれませんが、お気になさらずに


再びの特殊任務

 突然の訓練中止に、リーナは戸惑いを覚えていた。彼女が記憶している限り、訓練中に呼び出される事は無かったのだから仕方のないことだろう。リーナの同行者はスターズ第一隊隊長のベンジャミン・カノープス。リーナが最も頼りにするスターズのナンバー・ツーだ。

 

「ベン、いったい何の用だと思いますか?」

 

「正直なところ、予想が付きません。ですが、最近は何も壊してませんし、司令官殿にお叱りを受けるようなことは無いと思いますよ」

 

「そ、そうですよね」

 

 

 スターズは訓練中に、よく物を壊す。戦闘訓練中の事だからある程度は仕方ない事なのだが、スターズの、特に隊長クラスの場合は「仕方がない」の範疇を超えている。そのせいでリーナは基地司令からよく愚痴と嫌味を聞かされるのだ。

 小声で自らを勇気づけるリーナを、カノープスは微笑ましげに見ている。彼にはリーナより二歳年下なだけな娘がいて、そのせいでリーナに対してついつい保護者のような気分になってしまうのである。

 

「バランス大佐殿!?」

 

 

 指令室の扉をノックし、入室の許可をもらったリーナが自分で扉を開けたのだが、中にいた意外な人物の姿に思わず声を上げてしまった。

 

「少佐、何をしている。入り給え」

 

 

 同じく大佐である基地司令のウォーカーに苛立たし気な声で命じられて、リーナは慌ててデスクの前へ進んだ。

 

「シリウス少佐、カノープス少佐、楽にしてよろしい」

 

「ハッ」

 

「バランス大佐から貴官らに話がある。ではバランス大佐」

 

「ウォーカー司令。お部屋を少しの間お借りします」

 

 

 ウォーカーとバランスが同時に敬礼し、ウォーカーが司令官室を出ていく。リモコンで扉に鍵を掛け、バランスは漸くリーナと向き合った。

 

「シリウス少佐。私が何故ここにいるか察しているな、昨日の件だ」

 

「ハッ」

 

 

 バランスからどのような事を告げられるかと、リーナは緊張した面持ちで待ち構えた。普通に考えれば、自分はスターズの総隊長で戦略級魔法師だ。そう簡単に国外に出る事は出来ない。

 

「今回はカノープス少佐と二人で動いてもらう事になった」

 

「はっ?」

 

 

 だからバランスの口から告げられた、意外過ぎる答えにリーナは間の抜けた返事をしてしまった。そんなリーナの事を、バランスもカノープスも微笑ましげに眺めている。

 

「貴官が昨年、日本で親しくしていた司波達也が四葉の次期当主に決まった事は、昨日話したな」

 

「はい、お聞きしました」

 

「彼はスターズの調査でもその尻尾を掴ませなかったくらいの大物だ。戦略級魔法師である疑いも晴れていない」

 

「しかし大佐、タツヤは精神干渉魔法の使い手の疑いの方が強いと思われます」

 

 

 リーナが見た事は、誰にも報告していないのだが、彼女は達也の事を戦略級魔法師ではなく、精神干渉魔法に長けた魔法師ではないかという報告はしているのだ。

 

「何か根拠があっての報告だとは思うが、その根拠を示してくれないと我々は納得できない。だが、少佐の報告は今回の発表を受けて、真実味が高いと考えられるようになった」

 

「と、いうのは?」

 

「彼の母親――正確には伯母に当たる司波深夜は、精神構造干渉魔法に長けた、世界で唯一の魔法師だった人物だ。そして本当の母親である四葉真夜は、極東の魔女とも称されるほどの魔法師。その息子である司波達也が精神干渉魔法に長けていてもおかしくないと私は考えている。そして四葉家は、彼は司波深夜同様に精神構造干渉魔法が使えるとも発表している」

 

 

 その話を聞いたリーナは、達也の顔を思い出し、彼が当然のように隠し事をしていた事を思い出した。達也は自分の正体に気付きながらも、その事を誰にも話さず、自分の得意魔法ブリオネイクを真正面から打ち破った実力者であることも、リーナは痛いほど知っていた。そのすべてが、四葉の関係者だったからという一言で納得できるくらい、四葉の名前はUSNAでも大きな意味を持っているのだ。

 

「貴官は日本の魔法師界のトップ、九島家の縁者として日本に向かってもらいたい。表向きは、スターズを退役し日本に帰化したことにして、司波達也に近づくのだ」

 

「テロリストの件はどうするのですか?」

 

「そちらはカノープス少佐が中心となって調べてもらう。こちらは船で、日本の海域付近まで近づき調査してもらう」

 

「畏まりました」

 

 

 カノープスはバランスからの命令に瞬時に了解の意図を示したが、リーナはまだ少し混乱していた。

 

「大佐、司波達也に近づいて、私は何をすればいいのでしょうか?」

 

「貴官には司波達也が戦略級魔法師かどうかの調査を再開してもらう。だが、表向きは四葉家が募集している彼の婚約者候補として動いてもらいたい」

 

「タツヤの婚約者!? ……失礼しました」

 

 

 どれだけ願ってもあり得ないと思っていた、一時だけでも達也の婚約者になれると言う事に、リーナは上官の前だと言う事を忘れて大声を出してしまった。

 

「日本の九島烈殿には既に話はつけてある」

 

「万が一、タツヤが戦略級魔法師であった場合は、どのようにすればいいのでしょうか」

 

「貴官の魔法によって殺してしまって構わない。これ以上日本の魔法師が大きい顔をするのを、我々USNA軍は黙って見ている事が出来ないのだ」

 

 

 同胞殺しも務めたリーナだったが、この命令にはかなりの抵抗を覚えた。仮にも婚約者候補として近づく相手を簡単に殺せるほど、リーナの心は強靭ではない。ましてや本当に好いている相手なのだから、どのような理由をつけたとしても、彼女は手に掛ける事が出来ないだろうと思っていた。

 

「自分の恥を晒すようで気が引けるのですが、私は一度、司波達也に敗れています」

 

「報告は聞いている。だが、二度負けるような訓練はしてきていないはずだ」

 

 

 違うかと視線で問われ、リーナは頷くしかなくなってしまった。

 司令官室から出て、各々が準備の為に宿舎に戻ったのだが、カノープスと分かれてすぐ、リーナは頬を緩ませるのだった。

 

「またタツヤに会える。今度は敵としてではなく、婚約者候補として」

 

 

 浮かれきったリーナは、必要最低限の荷物をバッグに詰め込み、早く出立したい気持ちでいっぱいになっていたのだった。




リーナ正式参戦?

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