劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

548 / 2283
頭良いですからね……


幹比古の考え

 翌日の一時限目と二時限目の間の休み時間、達也は幹比古から呼び出しを受けて風紀委員会本部を訪れていた。

 

「あっ、達也。悪いね、呼び出したりして」

 

「いや。それで急にどうしたんだ」

 

「時間が無いから手短に言うよ。昨日の帰り、柴田さんが狙われた」

 

「美月が? そんな素振りは無かったが」

 

「柴田さんは気づいていない。式神や遠見で見張られていただけで、そいつらの術は僕が全部破ったから」

 

「そうか」

 

 

 ホッとした声を出して聞かせた達也を見つめる幹比古の目には、彼を責める色があった。

 

「達也の予想通りになったね」

 

「ああ。お前がついていてくれて助かった」

 

「でも、おかしいじゃないか。何で柴田さんがあんな連中に狙われなければならない? 彼らは単なるチンピラじゃなかった。一流とは言えないけど、犯罪行為に手慣れていた感じだった」

 

「プロの犯罪者だったと?」

 

 

 達也の問いに、幹比古は一瞬答えにくそうに顔を背けたが、すぐに達也に向き直った。

 

「彼らは『裏』の魔法師だった。そんな奴らが何故柴田さんを狙う? 論文コンペが目的なら、五十里先輩なり中条先輩なり三七上先輩なりが狙われるはずだ。達也、君は僕たちに何か隠してないか!? この前見せてくれた改造式神の起動式も偶々見つけたものじゃない。達也たちが襲われ柴田さんが付け狙われている一連の事件絡みだろう!?」

 

 

 達也からの答えは無い。沈黙に耐えられなかったのは幹比古の方だった。

 

「達也……君は何時も『そんな必要はない』って否定するけど、僕は君に恩を感じている。僕が魔法師としての自分と力を取り戻したのは君のお陰だ。だから僕は、君の不利益になることはしない。君が力を貸せというなら僕にできることは何でもするし、君が秘密にしたいというなら誰にも決して喋らない。でも何が起こっているのか分からなければ、僕は柴田さんを守りようがない!」

 

「詳しい理由は言えない」

 

「達也!」

 

 

 幹比古は声を荒げて達也に詰め寄る。

 

「去年の横浜事変で敵工作員の手引きをした外国人魔法師が『伝統派』に匿われている。俺はそれを追っている。すまない、俺に言えるのはそれだけだ」

 

「いや……僕の方こそすまない。そして、話してくれてありがとう。伝統派って言ったよね」

 

「ああ。ターゲットがそこに匿われている事までは分かっている」

 

「……だったら役に立てると思う。放課後……は駄目か。夜、話が出来ないかな? 柴田さんを送っていって、もう一度学校に戻ってくるから」

 

「分かった」

 

 

 夜の約束を取り付けて、達也と幹比古はそれぞれの教室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室で溜まっていた課題を片付けていた達也は、生徒会室に来訪者を告げるチャイムが鳴るとピクシーにその対応を任せた。

 

「達也、お待たせ」

 

「いや、ちょうどいい息抜きになった」

 

「……早速だけど、朝の続きだ」

 

 

 モニターに並ぶレポートのリストが気になったが、幹比古はツッコミを入れるのを我慢した。

 

「一つ確認しておきたい。達也、そのターゲットが伝統派に匿われているというのは間違いない事だね?」

 

「信頼できる筋の情報だ」

 

「じゃあ、吉田家としても今回の件は捨て置けない。旧第九研に参加した伝統派と僕たち吉田家は、魔法に対する考え方が根本的に違う。吉田家が目指すのは神への術法だからね。力が増せば何でも良いと考えていた彼らとは対立関係にある。だから今回は、他の色々な事を別にしても、僕の事を当てにしてもらって良い。もし達也が望むなら吉田家としても全面協力出来るよ」

 

「いや、それはちょっと……もし吉田家に協力を要請するなら、話さないわけにはいかないからな」

 

「それもそうだね」

 

 

 達也と幹比古では「話せない事」の内容が違っているが、それを知っているのは達也だけだった。

 

「分かった。じゃあ別のプランだ。達也が詳しい事情を話さずに済む手を考えてみたんだ。幸か不幸か、今回の論文コンペの舞台である京都には伝統派の本拠地がある」

 

「そうらしいな」

 

「元々現地の状況確認の為に、警備チームを派遣する予定だったけど、僕もそこに加わろうと思う」

 

「それで?」

 

「達也もそれが目的で警備チームに回ってくれたんだろう?」

 

「そうだ」

 

 

 幹比古は達也の問いかけに質問で応え、達也は回答を急かさずに幹比古の問いに答えた。

 

「だから達也は、市内を自由に動いていいよ。去年みたいなことが無いように、会場周辺を広く見て回る、という名目にしておくから」

 

「それはありがたい。で、お前は?」

 

「僕は囮だ。会場の新国際会議場から派手に捜査用の式を打って、伝統派の神経を目一杯逆撫でしてやろうと思う。伝統派が手を出して来たら正当防衛成立だ。そうなれば達也の仕事では無く吉田家の喧嘩になる」

 

 

 自信に満ちている幹比古に、達也は細かい内容は任せてもよさそうだと判断した。

 

「美月はどうするんだ?」

 

 

 この質問に、自信に満ち溢れていた幹比古の顔が曇った。その分かりやすい変化がおかしかったが、達也はそのことを表に出すことは無かった。

 

「……柴田さんを連れていくのは危険すぎる」

 

「では、美月の護衛は俺が手配しよう」

 

「頼めるかい?」

 

「もちろんだ。元々は俺のとばっちりだからな」

 

 

 幹比古がホッと胸を撫で下ろしているのは、達也が国防軍から護衛を手配すると考えたからだろう。実はすでに八雲の弟子が美月の護衛についているのだが、達也は念のためにもう一組、幹比古が予想したのとは別のところから魔法師を派遣させるつもりだった。

 

「何時この話をする?」

 

「風紀委員会として、学校側に根回しして……金曜日かな」

 

「分かった。生徒会の方でも手を回すよう、深雪に言っておく」

 

「……いや、達也も生徒会役員だろ? 自分でやろうよ」

 

 

 達也はそれに応えず、ただ人の悪い笑みを浮かべた。幹比古も苦笑いを浮かべ席を立つ。彼の心情をあえて言葉にするなら――

 

「達也がやると根回しじゃなく脅しみたいだもんね」

 

 

――だろうか。

 とにかく幹比古と達也の間で話は纏まったので、達也は残っている課題を終わらせるために残り、幹比古は生徒会室から去ったのだった。




最後までは踏み込めない……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。