劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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かなり難しいし、甘く出来なかった……


初IFルート

 九校戦が終わり、生徒会業務も特にないのに、達也は生徒会室を訪れていた。機材などの片付けは、既に終わらせているのにもかかわらず、達也は深雪を連れずに第一高校に登校していた。もちろん、達也が何かヘマをして呼び出されたとかでは無く、普通に聞きたい事があるからと呼び出されたのだ。

 

「ゴメンなさい、司波くん。休みの日にわざわざ呼び出してしまって」

 

「別に構いませんよ。それで、俺に聞きたい事とは何でしょうか」

 

 

 呼びだした相手を真正面に見据えながら、達也はなるべく怖がらせないように注意している。もう一年半近い付き合いになるが、あずさは未だに達也相手にビクつく節が見られるので、彼女と言葉を交わす際にはなるべく距離を取り目線を合わせている。

 

「今年の九校戦を見て確信したのですが、司波くんは『トーラス・シルバー』なのではありませんか?」

 

「何故そうお思いに?」

 

「去年見せてくれた完全マニュアル調整に始まり、氷炎地獄、フォノンメーザー、ニブルヘイムと起動式の公表されていない術式を組み上げ、能動空中機雷という新魔法を作りだしたり、公開されたとはいえそんな簡単ではない飛行術式を九校戦で披露したりと、高校生レベルを超えた整備能力ですし、それに試合用のCADで最大限能力を発揮させられるのだって、司波くんが正式な技術者としてなら納得出来ます。真由美さんや摩利さんも気付いていないようでしたけど、司波くんの並みはずれた技術力が『トーラス・シルバー』のものだと言われれば納得出来るのです」

 

 

 興奮気味に語るあずさに、達也は若干気圧されていた。デバイスオタクと真由美が言っていたのを聞いているし、実際シルバー・ホーンに並々ならぬ興味を抱いていたのも見てきていた。だがここまで観察眼が優れているとは達也も思っていなかったのだ。

 

「もし俺が『トーラス・シルバー』だったとして、中条先輩はどうするおつもりなんですか?」

 

 

 半分以上肯定しているような質問だが、達也はあずさが周りに言いふらすような性格では無い事を知っているし、彼女がシルバーファンだという事も知っている。そのイメージを崩さないように誤魔化す事も出来るように、この質問をしたのだった。

 

「もしそうなら、私に指導してもらえないでしょうか! シルバー様にご指導してもらえるなんて……もう死んでも良いくらいです!」

 

「……さすがに死なれるのは困りますよ。中条先輩は貴重なスキルを持っていますし、技術者としてもかなりの腕ですからね。魔法技師界の為にも、貴女は生きてください」

 

「それじゃあ……」

 

「ご推察の通り、俺は『トーラス・シルバー』の『シルバー』の方です。あの名前は連名としての名ですからね。俺だけなら『シルバー』と呼ぶべきなのでしょうね」

 

 

 全てを話すわけにはいかないが、あずさの推理力と観察眼に敬意を表し、達也は自分がシルバーである事を打ち明けた。その言葉を聞いたあずさは、その場で固まって動かなくなってしまっている。

 

「中条先輩?」

 

「……ハッ! すみません! 感動のあまり意識を失いかけてました」

 

「それで、何を指導してほしいのですか? 中条先輩には、俺が指導するような箇所は無いように思えますが」

 

「そんな事ありません! 折角シルバー様にご指導していただけるんですから! と、とりあえず私の調整を見てもらえますか?」

 

 

 さっきまでは近づいてこなかったあずさだが、相手が後輩では無くシルバーだと思うようにしたのか、手が届く範囲まで近づいてきている。警戒心の強い小動物が警戒を解いたのだろうと、達也はそんな事を考えていた。

 

「えっと……シルバー様?」

 

「今まで通りで良いですよ。それに、あまり人に知られたらマズイ事ですから」

 

「ご、ゴメンなさい……それじゃあ司波くん、今から調整しますから、見ててください」

 

 

 あずさが調整を始めたのは、九校戦で水波が使っていたCADと同じもので、同じ起動式をあの中にセットするようだ。水波が使っていた魔法は割と普通のものが多く、あずさのレベルなら何も問題無く調整できるものだ。

 だが達也の前で緊張しているのか、先ほどから何度かつまずいているように達也には思えていた。

 

「中条先輩、場所を変えましょう」

 

「えっと……ゴメンなさい」

 

 

 あずさが何を気にしてるのか達也には分からない。だが彼女の才能を生かす為には、このままではいけないと思ったのだろう。達也はあずさを後部座席に乗せ、乗って来たバイクで自宅を目指した。

 

「お帰りなさいませ、お兄……様? 何故中条先輩がご一緒なのでしょうか?」

 

「シルバーの事が中条先輩にバレて、指導してくれと頼まれた。水波の測定をして本格的に整備してもらう為に、地下室を使うんだよ」

 

「地下室? 本格的な整備? 司波くんの家はどうなってるんですか?」

 

 

 絶賛混乱中のあずさを放置して、達也は水波を連れて先に地下室へと向かう。慌てたようにあずさも深雪にちょこんと頭を下げ地下室を目指した。

 

「これ……中央機関や本格的な研究施設にあるような測定機じゃないですか……さすがシルバー様……」

 

「達也兄さま、私はなにをすればいいのでしょうか?」

 

「中条先輩のスキル向上の為、少し付き合ってくれ」

 

「分かりました」

 

 

 水波を測定したデータがあずさの前に表示されるが、当然の如くグラフでは無く数字の羅列。これを理解出来るようになるまであずさは必死になって努力する事になった。一秒でも無駄にしない為司波家に居候する事にして、高校卒業を期に本格的に達也に弟子入りする事を決意したのだった。

 その結果学校でも、あずさは達也に対して懐いていた恐怖心を完全に払拭し、周りからは付き合っているのではないかと噂されるまでになっていたのだった。

 

「中条先輩、学校ではあまり近づき過ぎないほうが……」

 

「何言ってるんですか! 後輩を怖がってたら良い先輩じゃないですよ!」

 

「……非常に今更感が凄いんですけど」

 

「気にしないでください! それよりも、今夜もお願いします!」

 

「その言い方は誤解を招きそうなんですが……」

 

 

 事実、あずさが去った後にほのかや雫、エリカやエイミィなど、同級生の女子から質問責めにあったのだが、あずさはその事を知らないのだった。




あーちゃん難しい……

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