劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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甘さ倍増?


激甘ラブラブIFルートpart1 その2

 雫におねだりされるまでもなく、達也は九校戦後の数日は雫の為に使う予定だった。だが深雪と同等かそれ以上を求められると、達也もスケジュールが厳しくなってくる。

 

「四六時中は無理だが、なるべく一緒に生活しよう」

 

「条件は、私と一緒のベッドで寝る事と、三日に一回は一緒にお風呂に入る事」

 

「……五日にならないか?」

 

「毎日でも良いよ?」

 

「分かった、三日に一回で良い」

 

 

 無表情に見える雫だが、達也には彼女が楽しんでいるのが見て取れた。それくらい達也は雫の事に敏感になったし、雫の方も達也が本気で困るようなことはないように抑えているのだ。

 

「深雪やほのかにばっかり感けてた達也さんには、誰が達也さんの彼女なのかを理解させなきゃいけないから」

 

「ちゃんと雫が彼女だって分かってるし、周りだって知ってるだろ?」

 

「うん。でも私が彼女だって知ってても達也さんの事を狙ってる人は大勢いる。新規では香澄や泉美」

 

「新規って……」

 

「ただでさえ強敵が多いんだから、少しでも達也さんの側にいたいの。……ダメ?」

 

 

 上目遣いでそう訊ねる雫、この表情にはさすがの達也も敵わないのだ。

 

「ダメじゃないし、俺だって雫と一緒にいたいと思ってる」

 

「うん……ありがとう」

 

 

 視線を逸らしながらお礼を言う雫。照れている顔を見られたくないのだと理解している達也は、ちょっとした悪戯を思いついた。

 

「雫、コッチを向いてくれないか?」

 

「イヤっ、恥ずかしいもん……」

 

「俺だって相当恥ずかしい事を言ったという自覚はある。だが照れている表情の雫を見たいんだ。ダメか?」

 

「……ズルイ。達也さん、分かってて言ってるでしょ」

 

 

 先ほどの仕返し、ではないが、雫が使った表現を真似たセリフで雫に頼む達也。案の定雫は照れた表情のままで達也の方に振り返った。

 

「可愛いよ、雫」

 

「達也さんがそんな事を言うなんて思わなかったよ」

 

「ああ、俺も驚いている」

 

 

 達也自身も、自分がこんなセリフを吐くなどとは思っていなかったし、雫以外に言えるかと聞かれれば、間違いなくノーと答えるだろう。それくらい、達也は雫に心を開いているのだ。

 

「到着。ここが暫く私と達也さんの生活拠点となる別荘」

 

「……広くないか?」

 

「これでも小さい方」

 

 

 北山邸を見た事があるので、雫が小さいと表現するのも理解できるが、達也の感覚ではこの別荘は十分広い。ましてや二人で生活するのだから、こんなに広くなくてもと思っても仕方ないのかもしれない。

 

「HARに掃除とかはしてもらってるから綺麗だよ」

 

「いや、そこは心配してないが……まぁ、いいか」

 

「?」

 

 

 コテン、と首を傾げる雫だが、彼女には達也が何に引っかかっているかなど理解出来ないだろう。普段から豪邸で生活している雫は、庶民感覚を持ち合わせていないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別荘に到着してすぐ、雫は一緒に入浴しようと提案してくる。達也はCADの整理があるからと断ろうとしたが、雫もこればっかりは譲れないと食い下がる。

 

「……せめて水着か何かを着てくれないか?」

 

「湯着を着れば良いの? 達也さんになら見られても恥ずかしくないよ?」

 

「俺が恥ずかしいんだよ……」

 

 

 達也に羞恥の感情は無いが、それでも年頃の女子と一緒にお風呂というのは緊張するのだろう。処理出来る限界を超えれば感情は隔離されるので、客観的に物事を見る事が可能になるのだが、客観的に見れてもその状況はマズイだろう。

 

「達也さんでも恥ずかしいって思うんだね。ちょっと意外かも」

 

「雫は俺を何だと思ってるんだ? 俺にだって性欲はあるし、羞恥心だってもってるんだ」

 

「深雪で見慣れてるんじゃないの?」

 

「俺と深雪は兄妹だ。一緒に風呂に入るなんて事は無い」

 

「子供の頃――あっ」

 

 

 そこで、雫は自分がある事を失念していたことを思い出した。達也と深雪が四葉の人間であり、幼少期の達也は、四葉内に自分の居場所を持たず、深雪とも離れて生活していたという事を……

 

「別にそこまで気にする事じゃない。昔の事だし、それが悲しいと思った事も無いからな」

 

「……思わないんじゃなくって、思えないんじゃないの?」

 

「かもしれない。だが、俺はそれを気にしない。だから雫も気にするな」

 

 

 ションボリと俯いた雫の頭を優しく撫でる達也。深雪でもこれ程頻繁に撫でてもらえないのだが、そこはやはり彼女の特権なのだろう。

 

「じゃあ、気を取り直して一緒にお風呂に入ろう」

 

「……復帰が早くないか?」

 

「達也さんに撫でてもらえれば、どんなことだって吹っ切れるもん」

 

「そうか」

 

 

 多少苦めではあったが、雫の態度に達也は笑みで応えた。

 

「あっ、そう言えば晴海従兄さんが紹介してきた黒羽姉弟って……」

 

「察しの通り、四葉の分家である『黒羽家』の人間だ。そして弟の文弥は、次期四葉家当主候補でもある」

 

「立場的には深雪と一緒、って事?」

 

「まぁそうだが、文弥には自分が当主になるなんて考えは無いだろうな。アイツはそう言った事を考えない性質だから」

 

「達也さん、彼と親しいの?」

 

「一応再従兄弟だからな。それなりには親しいと言えるんじゃないか?」

 

「ふーん……」

 

 

 何かを懸念している様子の雫に、達也は首を傾げる。自分は何か雫に心配させるような事をしたのだろうかと考えるが、彼には雫が何を気にしているのかなど考えもつかない。

 

「(何となくだけど、あの弟の方からはほのかと同じ匂いがした……達也さんになついてるわけじゃ無く、尊敬してるような感じだったけど……)」

 

「雫?」

 

「ううん、何でも無い。それよりも、相変わらず達也さんの身体はおっきくて硬いね」

 

「鍛えてるからな……それよりも、くっつき過ぎじゃないか?」

 

「そんな事無い。一センチは空いている」

 

「……それはくっつき過ぎと表現しても良い距離じゃないか?」

 

「ううん、これでも十分離れてる」

 

 

 雫の主張に対抗するのも疲れるので、達也は大人しくその距離を保つことにした。離れることはあっても、これ以上は近づかれないように……




IFなので、達也も若干改変してます

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