比べるまでも無く、二人にとってその相手が一番なのだが、真由美と摩利は互いに競い合ってきた仲なので、どうしても相手と比べたがってしまう節がある。
「修次さんって妹のエリカちゃんに頭が上がらなかったのね」
「達也君だって司波には甘いじゃないか」
「それはほら、お母様がお亡くなりになられてすぐお父上が再婚した所為もあるでしょ」
「シュウだって、色々な事情があるんだ」
現在相方は飲み物を買いに行っている為に、二人は互いの相方について話しあっている。話しあっているというか、自分の相方の方が上だという事を相手に認めさせようとしているのだ。
「お待たせしました」
「摩利、おまたせ」
そんな事が行われていたなどと知らない達也と修次は、自分の分も含め両手に飲み物を持って現れた。彼女同士は比べたがっているが、彼氏側の方は友好な関係を築こうとしている。歳の差はあるが、精神的に大人な達也は、修次と上手く付き合えそうな感じがしていたのだった。
「達也君!」
「はい、何でしょうか?」
「次はアレに乗りましょう!」
「回転木馬…ですか?」
「同じ馬にのるのよ!」
「はぁ……」
何故そんな事を言い出したのか理解出来なかった達也は、事情を知っているであろう摩利に視線を向ける。だが摩利も真由美に張り合うように修次に迫っていた。
「シュウ! あたしたちも一緒の馬に乗ろう!」
「え、えぇ!? 摩利、あれは嫌だとか言ってなかったかい?」
「そんな事は言っていない! さぁ、行くぞシュウ!」
「ちょっと! 摩利、引っ張らないで」
摩利に引き摺られていくように回転木馬へと向かう修次の背中を見送ってから、達也は真由美に視線を戻す。
「何を張り合ってるんですか?」
「べ、別に張り合ってなんか無いわよ……」
「ウソですね。真由美さんが嘘を吐く時、若干ですが視線が俺からズレるんですよ」
「……やっぱり達也君には敵わないわね。実はね――」
先ほどまで摩利と争っていた内容を達也に話す真由美。それを聞いた達也は一つため息を漏らして真由美を正面に見据えた。
「俺と修次さんは別の人間です、比べるのは意味がありません。そんなこと、真由美さんにだって分かってますよね」
「うん……でも、どうしても摩利とは張り合っちゃうのよね」
「十文字先輩同様、渡辺先輩も三年間ライバルだったから仕方ないでしょうけども、張り合うのは精々成績に止めておいてください」
「うん、そうするわ……ところで、摩利たちは本当にアレに乗るのかしら?」
真由美の視線の先には、回転木馬の前で何やら言い合っている摩利と修次の姿が見て取れる。達也は読唇術で二人の会話の内容を拾い、そして苦笑いをして真由美と別の乗り物に乗ろうと提案したのだった。
遊園地デートは意外と楽しいものだったらしく、真由美も摩利も、互いに張り合っていた事を忘れたように笑顔を浮かべている。
「それにしても、本当に二人で乗るなんてね」
「お前が言い出した事だろ! なのにお前たちはあっさりと別の乗り物に……」
「まぁまぁ、摩利。あれはあれで思い出になっただろ?」
「それはそうだが……おい、何故笑っているんだ」
「だって、摩利ってば本当に修次さんと同じ馬に乗って、しかも思いっ切り抱きついてたんだもの」
三人の会話を聞くだけの達也は、この四人の中で一番年下には見えなかった。むしろ、この中の誰よりも大人な雰囲気を持っているのかもしれない。
「達也君、君の彼女はあたしの事をバカにしているのか?」
「そんな事は無いと思いますよ。渡辺先輩の事を認めているからこそ、こうやってからかったり出来るんだと思います」
摩利だけでは無く、真由美まで黙らせるような事を平然と言ってのけた達也を、修次は若干の尊敬を込めた目で眺めていた。
「さて、次は何処に行く?」
「あそこなんでどうだ?」
「えっ……何であんなものがあるのよ」
摩利が指差したのは所謂お化け屋敷、真由美は少し後ずさりながら達也にしがみつく。
「なんだぁ? 真由美、もしかして怖いのか?」
「そっ、そんなわけないわよ! 達也君、行くわよ!」
「……どうなっても知りませんからね」
真由美に引っ張られるようにしてお化け屋敷に入る達也と、勝利を確信して修次と楽しそうにお化け屋敷に向かう摩利。中であった事は二人の名誉の為に伏せるが、お化け屋敷から出てきた二人は、共に彼氏にしがみついて足を震わせていたのだった……
恐怖から立ち直った二人は、最後に乗ろうと決めていた観覧車へ向かっていた。ここまで来ると修次も達也も、互いに対して同情と、自分の彼女に呆れるほど引っ張り回されている。
「最後はゆっくりしましょう」
「そうだな。別のゴンドラに乗るんだ。張り合う事も無いだろう」
今まで張り合っていた事を摩利も隠そうとはしなくなったので、修次は苦笑いを浮かべて達也に視線を向ける。その視線を受けた達也も、苦笑いを浮かべて修次に応えた。
「それじゃあ、終わったら帰るとするか」
「そうね。じゃあまた後で」
まずは真由美と達也たちが乗り込み、その後で摩利と修次が乗り込んだ。
「ごめんね、達也君。何か捲き込んじゃったみたいで」
「別に俺は、真由美さんが楽しかったならそれでいいですよ」
「もぅ……達也君って本当に私より大人っぽいわよね」
「そうですか? 真由美さんだって立派に大人だとは思いますけど」
「年齢じゃなくて精神的に、よ……摩利と張り合っちゃって、何だか子供みたいじゃない」
ちなみに、このゴンドラは後ろの摩利や修次からも見えている。達也もその事は知っているが、ションボリとした真由美を抱きしめる。
「達也君、何を……」
「俺は、真由美さんのそんなところも好きですよ。だから、気にし過ぎないでください」
「何だか複雑だけど、ありがとう」
自分からは届かないので、真由美は目を瞑った。それが合図だと理解した達也は、背後のゴンドラであわあわしている二人を意識から除外し、真由美の唇に自分の唇を重ねたのだった。
実際どっちが人気なんだろう……