劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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何時もとは違う結末で……


IFルート泉美編 その3

 深雪、そして真由美から人となりを聞いた泉美は、今日も達也の事をチラチラと盗み見ていた。本人はさりげなく見ているつもりなのだろうが、生徒会室にいる全員にその事はバレている――もちろん達也にも。

 だが誰も泉美が達也の事を盗み見ている事を指摘する事は無く、むしろ達也以外は生温かい視線を泉美に向けていた。

 

「会長、今日の分は終わりましたので俺はこれで」

 

「あっ、司波君にお願いがあるんですけど」

 

「何でしょうか?」

 

 

 あずさが自分に頼み事をするなんて珍しいと思いながら、達也は少し距離を置いて目線を合わせた。あずさと会話する時、達也は怖がらせないように距離を取り、そして目線を合わせるようにしている。この気遣いも、泉美には意外に思えていた。

 

「実は……発注ミスがあったようでして、必要な備品が届かなかったらしいんですよ。購買にも置いてませんし、今から買いに行きたいんですけどこの書類の量……」

 

「分かりました。俺で良いなら行きますよ」

 

「ゴメンなさい、お願いします……それと……」

 

「まだ何か?」

 

 

 言い淀んだあずさを心配してか、達也は続きを促した。達也から聞く事で、あずさの心労を減らそうとしたのだろうと泉美は思っていた。

 

「また同じような事が起きても大丈夫なように、七草さんを連れて行ってくれませんか?」

 

「私ですか?」

 

「はい。深雪さんや光井さんは場所を知っていますが、七草さんはまだ行った事がありませんよね? 少し入り組んだ場所ですので、初めてだと迷う可能性がありますので」

 

「つまり、司波先輩に付き添い、場所を覚えろと」

 

「そんな偉そうなことは言いませんが……その通りです」

 

「でしたら会長、私が泉美ちゃんの案内を――」

 

「深雪さんはまだ仕事が残ってますし、泉美さんの分を私たちで分担する方が良いと思うのですが」

 

 

 普段弱気なあずさが、深雪の言葉をぶった切った事に達也は意外感を覚えた。何か裏があるのではないかとすら思えるほどの違和感だ。

 

「俺はどちらでも構いません。泉美、お前が決めろ」

 

「それでは、司波先輩に案内をお願いします。皆さんにはご迷惑をおかけしますが、残りの仕事をお願い出来ますでしょうか」

 

 

 普段の泉美ならば、間違いなく深雪を選んだだろう。だが今の泉美は達也の事を気にし、そして知ろうとしているのだ。

 

「ではそのように。それから会長」

 

「はい、何でしょう?」

 

「七草先輩から何を頼まれたんですか?」

 

「な、何も頼まれてませんよ……?」

 

 

 小声で達也に問われたあずさは、明後日の方を向きながら小声で答えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物自体は大して重くないのだが、量が多い為に荷物は達也が七割、泉美が三割持つ事になった。本当は泉美が五対五を申し出たのだが達也が却下してこの割合になったのだった。

 

「(やっぱり分かりませんわね……ただの後輩にここまで優しくするような人には見えなかったのですが……まだ風紀委員の吉田先輩の方が分かるんですよね)」

 

 

 泉美から見ても、幹比古は優男という判断が出来る雰囲気だった。一方の達也は無愛想というか無関心のように思えていたのだが、ここ数日でその評価は覆されるまでに至っていた。

 

「(深雪先輩やお姉さま、それに光井先輩や北山先輩が気にしてるのが何となくですが分かるようになってきましたね……他にも司波先輩を想ってる人は大勢いるようですが)」

 

 

 ここ数日観察しただけでも、かなりの数の女子生徒が達也に色っぽい視線を向けているのが泉美には分かった。だがそのどれもが多少なりとも遠慮しているようにも思えていて、泉美は首を傾げていたのだった。

 

「泉美、さっきから何だ」

 

「何の事でしょう?」

 

「生徒会室にいた時も思ったが、俺を見て何を考えている」

 

 

 まさかバレているなんて思ってなかった泉美は、達也に指摘に僅かな時間固まってしまった。もちろん、その間達也は視線を逸らす事無く泉美を見ている。

 

「先日香澄ちゃんを気遣った発言を聞いてから、先輩の人となりが気になったのです。それで深雪先輩やお姉さまから聞いたのですが、二人とも最後には『自分の口からはこれ以上言えない』と。いったい司波先輩は何を隠してるんですか? どれが本当の先輩なんですか?」

 

 

 泉美はついに達也に気になっていた事を質問した。敬愛する深雪や姉である真由美も言い淀むような秘密があるようには思えないのだが、間違いなく達也には隠している事があると泉美は確信していた。

 

「何を隠してる……か。悪いが何も隠してはいない」

 

「ウソですね。司波先輩は間違いなく何かを隠しています。それも、かなり大きな事を」

 

「……何故そう思うんだ」

 

 

 達也の発言は、泉美の妄想を事実だと答えたようなものだったが、達也の声音が、達也の視線が泉美にそのような考えを起こさせないようにしている。一つ年上の先輩だが、泉美にはかなり歳の離れた大人に睨まれているような感覚が与えられていた。

 

「み、深雪先輩の魔法力もですが、司波先輩のあの魔法……私たちの魔法を打ち消した魔法……先輩のサイオン保有量は普通の魔法師では無いように思えるのです。それこそ、十師族の関係者だと言われた方が納得出来るくらいに」

 

「……さすがは七草先輩の妹さんだな。同じような事を考える」

 

「どういう事です?」

 

 

 達也の視線が和らいだ事で、泉美は過度の緊張感から解放されていた。

 

「別に教えても良いが、命の保証は出来ないぞ?」

 

「では、先輩の側に常にいれば安全ですね。先輩とお付き合いすれば、深雪先輩とも一緒にいられる時間が増えますし」

 

「……何故そんな考えに至った」

 

「先輩の事、もっと知りたくなったんです。そして前々から申し上げているように、深雪先輩と一緒にいたいからです。もし先輩と結婚すれば、深雪先輩は私の義妹になり、あんなことやこんなことを……」

 

「泉美さん?」

 

 

 妄想に耽る泉美に呆れた視線を向けながらも、達也は泉美の要求を呑む事にしたのだった。そして泉美は、真実を聞いた事を後悔するのだった。




付き合いはしましたが、深雪との時間を増やす目的で……まぁそのうちお兄様の魅力に絆されるでしょうがね。

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