劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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切って繋げてをしてたら、途中で分からなくなったので全てやり直しました。


兄妹の認識差

 達也が買ってきたチョコレートケーキを満足そうに食べていた深雪だが、聞きたい事が山ほど一日で出来たのでフォークを置いた。

 

「お兄様、お聞きしたい事があります」

 

 

 このチョコレートケーキは達也が深雪の機嫌を取るために買ってきたのだが、それだけでは深雪の興味を逸らす事は出来なかったようだ。

 

「なんだい?」

 

「お昼に生徒会室で話されていた……」

 

「あぁ。あれは深雪にも教えておくべきだったね。キャビネット名『ブランシュ』オープン」

 

 

 達也の音声認識でリビングに反魔法国際政治団体の情報が集められたものが映し出された。達也が独自に調べたのと、「実家」から得た情報を一つに纏め上げたものだ。

 

「ヤツらが掲げているのは魔法による差別の撤廃だ。さて、此処で言う差別と何だと思う?」

 

 

 達也は深雪に何も考えないような事はしてもらいたくないので、説明している時も必ず途中で自分で考えさせるようにしている。

 深雪も心得てるのでこう言った質問に備えているのだが、今回は兄がどの様な答えを待ってるのかが分からなかった。

 

「一般的に考えると分からないかもな」

 

「本人の実力が社会的な評価に反映しないと言う事でしょうか?」

 

「差別と言う意味では正解かもしれないが、一般的ではないんだよ」

 

 

 達也は深雪が間違った答えを出しても怒る事は無く、間違えた上で分かりやすい解説をする事で深雪の知識の幅を広げるようにしているのだ。

 今回の話題になった「差別」、これは普通のサラリーマンと比べて所得水準の高い魔法師を非難する事によって、魔法そのもをを非難するように仕向けているのだ。魔法師は苦労せずに利益を得ている、これは魔法師と非魔法師を差別してるのだと。

 

「魔法師の所得水準が高いのは、希少スキルを有している魔法師が居るからだ」

 

 

 絶対数の少ない魔法師の中に、相対的に高い割合で高所得者が居るから平均収入が高く見えるだけで、実際はその為に努力もしているし、挫折した魔法師も大勢居るのだ。

 

「魔法の素質だけで裕福な暮らしが出来る訳ではない。それは分かるね?」

 

「はい、存じております」

 

 

 ブランシュの主張は差別の撤廃だが、本当に言いたい事は魔法師は無償で世間に奉仕しろと言う事になってるのだ。

 

「それでお兄様、何故魔法科高校の生徒が魔法差別に賛同してるのでしょうか?」

 

「そうだね、自分より才能のある人が羨ましい。自分には出来ないのにあの人には出来る。こう言った考えをする魔法師は大勢居るだろう。魔法師だけじゃないかな、どの世界にも才能の差を怨む人は居るね。自分が評価されないのは才能の所為だと決め付け、優れた人もそれ相応の努力をしてる事を考えない。評価されないのは耐えられないけど、その世界から離れたくない。他の才能があるかも知れないのにそれを探そうとしない」

 

 

 淡々と話している達也を、深雪は少し苦しそうな表情で見ている。

 

「評価されない事を生来の才能の所為にしてそれを否定する。まぁ、そう言った弱さは俺の中にも確かにあるんだけどな」

 

 

 自虐のようにつぶやいた達也のこの言葉は、深雪には耐えられなかった。

 

「そんな事ありません! お兄様は誰にも真似出来ない才能があるではありませんか! ただ周りと同じ才能が無かっただけで、お兄様はその為に何倍もの努力を積み重ねてきたではありませんか!」

 

 

 達也を否定する事を、深雪は如何しても許せないのだ。例え達也自身が否定しても、深雪はこのように激昂するのだ。

 

「それは俺に、別の才能があったからだ」

 

「あっ!」

 

 

 上辺だけを掬って激昂したのが恥ずかしくなり、深雪はその場に音を立てずに座った。達也は人間の弱さについて話していたのであって、達也自身の話では無かったのだ。

 

「もちろん俺に別の才能が無かったら、平等と言う耳障りの良い言葉に騙されていたかもね。それが幻想だと分かっていても」

 

 

 深雪が激昂したのにも動じず、達也は再び淡々と話し始める。

 

「良くも悪くも魔法は力だからな。ヤツらの背後にはこの国の魔法師が弱くなれば良いと考えてるヤツらが居るって事だろうな」

 

「まさか彼らの背後には……」

 

「そうだろうな。だが、そんな連中をこの国の魔法師が放って置く訳が無い。十師族、特に四葉家がな」

 

 

 四葉の名前が出て、深雪の表情は青ざめたようになっていた。もちろんその言葉の本当の意味を理解してるからこその表情なのだが、達也は今回だけは深雪を放っておいた。

 

「さてと、それじゃあ俺は部屋に戻るよ」

 

 

 普段ならこのような表情をしてる深雪をこのままにしておくはずも無いのだが、これ以上この場に居ると自分に不利な展開になると理解している達也は、さっさと退散を決め込もうとしたのだ。だが……

 

「お兄様、まだお話は終わってませんよ?」

 

 

 達也の考えを察知した深雪は、震える腕で達也の腕を掴んだ。今達也がリビングから居なくなるのも嫌だったのだが、それ以上に深雪は達也に聞きたい事があるのだ。

 

「今日の放課後、お兄様は風紀委員本部で作業してるとお聞きしてましたが、実際はどちらに行かれてたのですか?」

 

「カウンセラーの小野先生に呼び出されてカウンセリング室に。その後保険医の安宿先生に掴まって保健室に」

 

「お兄様の実力なら振りほどけるのではありませんか?」

 

「教師に暴力はマズいだろ」

 

 

 深雪の追及を難なくかわしていく達也だが、内心は穏やかでは無い。ありもしない疑いをかけられて平気でいられるほど、達也も異常ではないのだ。

 

「それに、随分と安宿先生とは親しげなようですね?」

 

「如何もあの人相手だと調子が狂うんだ。何時の間にか間合いに入られて、気付いたら腕を組まれてるんだ」

 

「お兄様以上に体術の心得があるとでも?」

 

「さぁ? そこまでは言わないが、それなりに心得はありそうだな」

 

 

 達也に気付かれずに間合いに入る事など、八雲の弟子でも出来る事では無い。その点で怜美は油断ならないと達也は思ってるのだが、深雪は別の解釈をした。

 

「お兄様はワザと腕を組まれてるのでは無いのですか?」

 

「は?」

 

「ですから、安宿先生は胸の大きな女性ですから」

 

「深雪さん? 何か勘違いしてないか」

 

「お兄様も健全な男子高校生、そう言った趣味がおありでもおかしくありませんものね!」

 

「お~い」

 

 

 暴走し始めた深雪を見て、達也はため息を吐きたくなる衝動に駆られた。如何やらこの妹は兄を変態だと思い始めたのだ。

 

「ですからお兄様! そんな衝動があるのなら、私に……」

 

「深雪に?」

 

 

 不意に言葉を切った深雪を不思議そうに達也は眺めている。この妹は何を言おうとしたのかを探ってるような視線だと、深雪は感じていた。 

 実際は唯単に呆れてるだけの達也だったが、深雪の勘違いはそのまま進んで行った。

 

「お兄様! これ以上安宿先生と親しくされるのはお止め下さい! 叔母様も黙ってないかもしれませんから!」

 

「叔母上は関係無いだろ……それに、気をつけろと言われても如何しようも無いんだが……」

 

 

 何時もいきなり現れて何時の間にか引っ張られてるのだから、達也には対処しようが無いのだ。

 

「まぁ、一応は気をつけるよ」

 

 

 深雪の頭を撫でながら達也はそう言って、そのまま自分の部屋に戻って行った。深雪はと言うと、達也に撫でられた頭を満足そうに触りながらその場に立ち尽くしていたのだった。




何だかんだで深雪は達也に逆らえません。

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