劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作では学校休んだリーナですが、ここでは登校してます。


憂鬱なリーナ

 リーナの本来の目的である脱走兵の行方を知らされ、リーナは憂鬱になりながらも学校に来ていた。脱走兵の行方と共に、フォーマルハウト中尉の事で分かった事があるから、学校が終わり次第アメリカ大使館に来るように言われているのに、更に憂鬱になっている。

 リーナの様な美少女が憂鬱な雰囲気を醸し出していれば、周りが心配しないはずもない。だが今の彼女に声を掛けられる猛者は、それほど多くないのだ。

 

「リーナ、どうしたんだ?」

 

「タツヤ……」

 

 

 トボトボと歩いているリーナに、隣に深雪を連れた達也が話しかける。彼は意外と――必然かもしれないが――落ち込んでいたり、鬱状態になりかけてる人相手でも普通に話しかけられるのだ。

 

「今日は予定があるって聞いていたのだけど?」

 

「その予定は放課後になったので……」

 

「……じゃあなんでそんなに憂鬱そうなの?」

 

 

 声をかけたのこそ達也だったが、話しているのは深雪だ。クラスメイトであり同性でもある深雪の方が話しやすいだろうという、達也の考慮なのだが、リーナが視線を向けているのは深雪ではなく達也だ。

 

「タツヤ、少し時間ありますか?」

 

「別に問題は無いが……」

 

「ちょっと相談したい事があります。二人きりで話せませんか?」

 

 

 達也は深雪と顔を見合わせて、ただ事ではないと目で語り合い、二人同時に頷く。

 

「分かった。今からで良いんだな?」

 

「ええ。お願いします」

 

「深雪、先に行っていてくれ」

 

「畏まりました」

 

 

 すれ違いざまに、リーナにプレッシャーを掛ける事を忘れずに、深雪は達也を置いて先に学校へと向かった。

 

「それで、相談したい事って何だ?」

 

「タツヤは、信頼している相手がいますか?」

 

「いきなりだな……まぁいるぞ」

 

 

 話しの内容が良く見えないので、達也はリーナの質問に大人しく答える事にした。

 

「じゃあ仮にですけど、その信頼している人が裏切り、または暴走した時、タツヤはなんて考えますか?」

 

「……質問の意図は何だ?」

 

「何か訳があったのかもしれない。もしくは誰かに操られてるのかもしれない。そうは考えませんか?」

 

「………」

 

 

 達也は、アンジー・シリウス少佐の仕事内容を思い出していた。彼女の仕事には、裏切り者の粛清が含まれているのだ。

 

「訳があるのかもしれない、操られてるのかもしれない。そんな事を考え出したらきりが無い。話合いで解決するならまだしも、リーナが信頼している相手、というのは立場的にマズイ情報を知ってる可能性があるんだろ? 既に敵に情報を流した後かもしれないのなら、話合いでは解決しないだろ」

 

「……タツヤは何の事を言っているの?」

 

「さぁね。俺はただ可能性の話をしてるだけだ」

 

「……やっぱり嫌な人ね、タツヤって」

 

 

 自分の事情をほぼ知られている、というか自爆で知られたリーナとしては、達也がシリウスの仕事内容を知っていてもおかしくは無いと思っていたので相談したのだ。

 結果として、自分の行いを肯定してもらえたのだが、リーナとしてはそんな事をしてほしかったわけではないのだ。

 

「さて、そろそろ急がないと遅刻になるぞ」

 

「タツヤ」

 

「なんだ?」

 

「この事はミユキには内緒よ」

 

「話せる内容ではないからな」

 

「じゃあ行きましょう」

 

「お、おい?」

 

 

 いきなり腕を組まれ若干慌てる達也。だが彼が慌てたのは若干であり一瞬だ。次の瞬間には何事も無かったの様にふるまえている。

 

「折角日本に来たんだから、青春? を満喫しなきゃ!」

 

「……A組の男子でも良いだろうが……」

 

「駄目よ! だってつまらないでしょ?」

 

 

 能力ではなくリーナは自分とまともに会話出来る――自分の意見に従わない相手との青春を楽しみたいのだ。その点だと、A組の男子はリーナと一緒にいられるだけで舞い上がり、彼女の意見に頷くだけなのだろうな、と達也は考え、大人しくリーナのエスコートを務めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が教室に着くなり、友人たちは面白そうに達也に話しかけてきた。

 

「達也君、何時の間にリーナと仲良くなったの?」

 

「何の話だ?」

 

「惚けないの。朝一緒に登校してたでしょ? 腕を組んで」

 

「あれはリーナがした事だ。振りほどくのも可哀想だったからな。ちなみに、深雪も知ってるからからかおうとしても無駄だからな」

 

「ちぇ、残念」

 

 

 事情は先に深雪に伝えてあるので、この場でのエリカの弄りは回避できる。だが、家に帰った後で深雪に事情説明と釈明をしなければいけない事を考えると、達也は頭を押さえたくなるのだった。

 

「ところで達也君、今朝のニュース見た?」

 

「吸血鬼騒動の事か?」

 

「そうそう。世の中物騒よねー」

 

「おっ? 何の話だ?」

 

 

 達也よりも後に教室に入ってきたレオが、エリカの話に喰いついた。

 

「あら、遅かったわね。吸血鬼事件の話よ」

 

「……またか」

 

「また?」

 

 

 レオの呟きの意味を聞こうとしたエリカだったが、そのタイミングで始業のチャイムが鳴ってしまったので自分の席に戻る。

 

「レオ」

 

「なんだ?」

 

 

 前の席であるレオに、達也が声をかける。レオとしては、達也が声を掛けてくるのが珍しく、何か楽しい事でもあるんじゃないか、と言わんばかりの表情で振り返った。

 

「あまり危険な事に足を突っ込み過ぎるなよ」

 

「……お見通しってわけね。さすが達也」

 

「別に止めはしないさ。レオが選んだんだろうし」

 

「そこまで分かるのかよ……」

 

「さっき『またか』といっただろ? てことは、あれより前に吸血鬼事件の事を聞いていたって事になる。だけどレオは昨日野暮用で夜更かしして寝坊ギリギリだった。じゃあ何処でその話しを聞いたのかと考えただけだ」

 

「さすが達也、恐ろしいほどの名推理だぜ」

 

「少し考えれば誰でも分かるだろ」

 

 

 推理は的確なのに、世間とはかなりズレている友人に、レオは苦笑いを浮かべて右手を数回左右に振った。

 

「それだけの情報であれだけ的確に言い当てるなんて、他の連中には無理だぜ、達也。相変わらずそこら辺はズレてるよな、達也って」

 

 

 レオの評価に苦い笑いを浮かべ、達也は自分と世間のズレを改めて認識したのだった。




機密情報かもしれませんが、恋する乙女にはそんな事関係ないんですよ……

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