劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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三十話連続投稿達成! つまり一月ですかね?


闘技場

 エリカと一緒にクラブ活動を見て回ると言う事を、達也は甘く見ていた。風紀委員の自分が一緒に居るのだから、そんなに問題のある事にはならないだろうと思っていたのだが――

 

「ちょっと離してよ!」

 

 

――達也の目の前ではエリカが大勢の人に囲まれていた。

 非魔法系クラブで、エリカの事をマスコット的なポジションで欲しがるクラブがエリカの事を取り合っているのだ。

 

「俺は、面倒事を自分で引き受けたのかもな……」

 

 

 エリカと一緒に行動すると言う事を、達也は甘く見ていたのだ。エリカは深雪とは違ったタイプの美少女であり、玉砕覚悟で交際を申し込まれるタイプなのだ。

 そのエリカを広告として使いたがる非魔法系クラブがあったとしてもおかしく無いと何故約束をする前に気付けなかったのだろうと達也はため息を吐いた。

 

「ちょっと! 何処触ってるの!」

 

「そろそろマズイか」

 

 

 単純に勧誘してる分には自分の仕事では無いと思っていた達也だが、変な場所を触ってるようでは最早勧誘と呼べなくなっている。

 達也一人ならあの人垣を誰とも触れずに抜け出す事は可能だが、エリカにそれが出来るとは思えない。達也は左腕に巻きつけたCADを操作して、軽く地面を蹴った。

 達也の使った魔法で、平衡感覚がおかしくなった人の間を縫うように進みエリカの腕を取る達也。

 

「走れ!」

 

 

 短く命令した達也に、エリカは一瞬何があったのか考えたが、今はそれよりも逃げる事が先決だと思いなおし頷き、走り出した。

 校舎の影まで逃げた達也は、此処まで来れば大丈夫だろうと思いエリカの方に向き直った。

 

「エリカ、だいじょう……」

 

 

 振り返った先に見たものは、制服がはだけてネクタイが抜き取られていて、胸元がはっきりと見えるエリカが立っていた。

 

「見るな!」

 

 

 エリカの声とほぼ同時に達也は回れ右をして視線を逸らした。いくら不慮の事故とは言え、クラスメイトの胸元をジロジロと見る趣味は、達也には無かった。

 

「見た?」

 

「………」

 

「見・た?」

 

 

 布が肌を擦る音が聞こえなくなったと言う事は、エリカは服を調え終えたのだろうと考えた達也は、謝る為にもう一度エリカの方に向き直った。これで未だ終わってなかったら目も当てられない状況になってただろうが、エリカはキチンとネクタイを締め、ボタンを上まで止めていた。

 

「(あの状況になったのは、エリカが制服を着崩していたからじゃ……それだけでは無いんだろうがな)」

 

 

 キチンと制服を着ていたエリカを見て、達也はそんな事を思っていた。謝ろうと思っていたのだが、エリカの泣きそうな顔を見て謝罪は逆効果だろうなと思い何も言わなかったのだ。

 

「馬鹿!」

 

 

 達也の脛を目掛けてエリカの右足が伸びてきた。何も言わない達也に対しての抗議のつもりだったのだろうが、達也の脛は樫の棒で叩かれても平気なほど鍛えられているので、普通の靴では蹴った本人が痛みを感じるのだ。

 

「(足大丈夫か? も言わない方が良いんだろうな)」

 

 

 実際にエリカの顔を見た訳では無いが、きっと涙目になってるのだろうなと思った達也は、余計な事は言わずにエリカの後ろについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリカが勧誘合戦でもみくちゃにされていたのとほぼ同時刻、二人の成績優秀者もまたもみくちゃにされていた。ほのかと雫である。

 

「い、痛いです……」

 

「これって勧誘じゃない……」

 

 

 四方八方から手が伸びてきて、しかも周りの人たちは自分たちを押しつぶす勢いで身体をぶつけて来る。雫の言う通り、最早勧誘では無くなってるのかも知れない。

 

「きゃっ!?」

 

「何?」

 

 

 そんな人垣を掻き分けて、自分たちを持ち上げる謎の二人組みが現れ、ほのかと雫はあっさりとその二人に連れて行かれてしまった。

 

「こいつらだよね?」

 

「あぁ間違い無い。今年の入学試験の実技二位と三位だ」

 

 

 入試の成績は本人にも告げられないのに、如何してこの二人はそんな事を知ってるんだろうと雫は不思議に思ったが、ほのかにそんな事を疑問に思うほどの余裕は無かった。

 

「止まれ! そこの不良生徒!」

 

「おっ、摩利じゃん!」

 

「卒業したお前らが、如何して此処に居る!」

 

 

 ほのかと雫を拉致ったのは、萬谷と風祭と言う学園OGだった。摩利とは浅からぬ縁があるようだ。

 その後魔法を使っての逃走劇を演じた萬谷と風祭は、自分たちが所属していたSSボードバイアスロン部にほのかと雫を入部させる事に成功したのだった。自分たちは摩利から逃げる為に勧誘は後輩に任せて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず機嫌の直ったエリカと共に、達也は第二体育館、通称「闘技場」に来ていた。エリカの強い要望があったために付き合った形なのだが、意外と面白いなと達也は思っていた。

 

「ふーん、魔法科高校なのに剣道部があるんだ」

 

「何処の学校にも剣道部くらいあるだろ」

 

 

 達也の何気無い返事に、エリカは驚いたような顔で達也を見た。見られた達也も、何故そんな顔で見られるのかと思ったが、如何やら自分の常識は世間とはズレていたようだと達也は思い知る事になった。

 

「魔法科高校では、剣道じゃなく剣術をやる生徒の方が多いから、剣道部は珍しいのよ」

 

「そうなのか、剣道も剣術も同じだと思ってたよ」

 

「本当に意外ね……達也君は武器術の腕も相当だと思うのに……あそっか!」

 

 

 少し考え込んだと思ったら、急に大声で納得したような声を上げたエリカを、周りに居た人たちは少しキツめの視線を向けた。

 

「達也君って武器術に魔法を併用するのは当たり前だと思ってるでしょ! 魔法以外にも、闘気とかプラーナとかで体術を補完するのが当たり前だと思ってるんじゃない?」

 

「当たり前じゃないのか? 身体を動かしてるのは筋肉だけじゃないんだぞ?」

 

「達也君には当たり前でも、他の人にはそうではないのよ」

 

「なるほど……俺がズレてたのは分かったから、そろそろエリカもズレに気付いたら如何だ?」

 

「ズレ? ……あっ、失礼しました」

 

 

 自分が大声を出していて、周りから注目されていると自覚したエリカは、恥ずかしさのあまり頬を真っ赤に染めて小さくなった。達也もそれ以上は追及せずに、大人しく視線を下に降ろした。 

 その視線の先で、レギュラークラスの女子が綺麗に一本を決めていたのを見て、達也は感嘆の息を吐いた。鮮やかに決まったかに見えたのだが、エリカは不満そうにしていたのを見て、達也は何かあったのかと尋ねた。

 

「だってさ、台本通りの一本なんてつまらないじゃない? これって演習じゃなくて殺陣だよ殺陣」

 

「いくら真剣勝負だと言っても、仕方ないんじゃないか?」

 

「何でよ?」

 

「本当の意味での真剣勝負は、要するに殺し合いだからな。そんなものを学校で見せる訳には行かないだろ」

 

「……大人なんだね」

 

「思い入れの違いだと思うが」

 

 

 達也は自分が大人だと思った事は無い。子供だとも思っては無いが、少なくとも自分が大人だと勘違いした事は一度も無いのだ。

 エリカが台本通りだと言った演習を終えた女子が面を外した。すると周りから色ボケしたような声が上がった。

 

「あれって、二年前の全国女子剣道大会準優勝の壬生紗耶香じゃない! 通称剣道小町とか言ってマスコミに取り上げられてた」

 

「準優勝だろ?」

 

「……優勝者はルックスが」

 

「なるほど」

 

 

 今の時代も成績よりも見た目なんだなと納得した達也だったが、そんな事を思ってられる時間は短かった。一人の男子生徒が、剣道部の演習に乱入したのだ。

 

「かなり面白そうな展開ね! 近くで見ましょう!」

 

「おいエリカ!」

 

 

 自分の腕を引っ張って下に降りていくエリカを見て、達也はコッソリとため息を吐いたのだった。




次回漸くイザコザに入れそうです……長かったなぁ。

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