劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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終わりです 学生証って何時貰うんでしたっけ


最終回 望む未来に向けて

 卒業式から三週間後、魔法大学から送られてきた学生証を眺めながら、ほのかがにやにやとしているのを雫とエリカが呆れながら眺めている。

 

「ほのか、いつまでにやけてるの?」

 

「だって、これで形だけでも深雪と並べたわけだし、達也さんにも抱いてもらったんだよ? 顔が緩んじゃうのは仕方が無いよ」

 

「達也くんは一週間も前に巳焼島に戻っちゃったけどね」

 

 

 卒業式から二週間は、達也も都内にいた。以前から公言していた「高校を卒業するまで」という枷が無くなった途端、婚約者たちが一斉に達也を求めた結果、巳焼島へ出発するのが二週間遅れた形となったのだが、その影響は今のところ達也側には表れていない。むしろ新居でその時のことを思い出して恥ずかしがったりにやけたりする人物の方が目立っているくらいだ。

 なお学生証を見てにやけているのは、そこに記されているのが「光井ほのか」ではなく「司波ほのか」だからである。これは雫やエリカも同じなのだが、ほのか程表情に出したりはしていない。

 

「苗字だけでそんなに嬉しいことかなぁ?」

 

「エリカは最初からそんな感じだよね」

 

「だって『CHIBA』が『SHIBA』に変わっただけだからね。CからSになっただけだし」

 

「確かに、エリカにとってはちょっとした変化でしかないね。でも、千葉を名乗ってたのって高校時代だけなんでしょ?」

 

「まぁね。それよりほのか、何時までもにやけてないで買い物に行きましょうよ。余り必要ないとはいえ、新しいモノを仕入れておきたいって言ったのはほのかなんだし」

 

「そうだった。すぐ準備するから待っててね!」

 

 

 自分から誘っておいて忘れていたことを思い出し、ほのかは大慌てで準備を済ませる。その際、学生証が視線に入り表情がにやけかけたが、何とか堪えて雫とエリカを呆れさせないよう努めたのだが、二人はほのかを見て呆れた表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 師族会議の結果、光宣の身柄は四葉家が責任を持って監視した方が良いという結論になり、光宣は今巳焼島の一区画に軟禁されている。軟禁と言っても、島内であれば基本的に外出は自由で、島内施設も普通に利用できる。

 

「光宣さま、ご気分は如何でしょうか」

 

「水波さん。よかった、普通に生活出来ているようだね」

 

「光宣さまが達也さまの提案を受け容れ、私からパラサイトを取り除いてくださったお陰です」

 

 

 達也は水波に人工魔法演算領域を植え込む手術を既に済ませており、水波は以前と同じように魔法を使うことができている。まだ完全に使いこなせていないのは、天然の魔法演算領域と人工の魔法演算領域で多少の違いがあるからだろう。

 

「僕は水波さんを救うには、人間を辞めてもらうしか方法がないと思っていた。でも、達也さんの研究は水波さんから魔法を奪うわけでもなく、なおかつ人として生活できる結果をもたらしたんだね」

 

「光宣さまがこうして生き続けられているのも、達也さまのお陰ですから」

 

「それにしても、どうして僕からパラサイトが抜け出すのと、僕が人として死ぬのにタイムラグがあると知っていたんだろう」

 

 

 光宣が疑問を呈したタイミングで、監視の一人である女性が姿を見せる。

 

「それは恐らく私が関係しているのではないかと」

 

「ミアさんが?」

 

「私も以前、パラサイトに寄生されていました。ですが、私からパラサイトが抜け出たタイミングで達也さんが私を人として生き返らせてくださったのです。その知識を応用して光宣さんを人間に戻したのではないでしょうか」

 

「そうだったんだ……ははっ、最初から達也さんに敵うはずないって分かってたつもりだったんだけどな……」

 

「光宣さま……」

 

 

 自嘲気味に笑う光宣を、水波は複雑な感情で眺める。既に水波も達也との『行為』を済ませているので、今更光宣に揺らぐことは無いのだが、それでも光宣が自分の為に人間を辞めていたという事実が、彼女の中に残っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思いがけず長い期間巳焼島を離れていた達也だが、仕事に忙殺されることは無く無理のない生活を送っていた。魔法大学の入学式には参加する予定だが、ギリギリまで巳焼島を離れられないのも事実。彼の忙しさに深雪とリーナは何とも言えない気分を味わっていた。

 

「せっかく結婚して側に居られるのに、ダーリンは忙しそうよね」

 

「リーナ……貴女、大学でもその呼び方でいくつもり?」

 

「さすがに呼ばないわよ。でも、深雪の前くらいでは良いでしょう?」

 

「何故私の前なら良いと思ったのか聞きたいくらいよ……」

 

「だって、前々から深雪は私たちの前で達也とイチャイチャしていたんだから、少しくらい私に付き合っても文句は言えないでしょう?」

 

「別にいちゃついてなんて無いわよ」

 

 

 卒業式の時に達也が将輝を退けてくれたお陰で、深雪と達也の結婚に異議を申し出る家は無くなった。だがそれと同時に、自分一人だけが許されていた、達也と同じ苗字を名乗ることができなくなったことに、深雪は少し不満を覚えている。もちろん、それを達也以外に覚らせることはしていない。

 

「達也様がいらっしゃる」

 

「えっ?」

 

 

 何もない空間を見詰めたと思ったらそう宣言した深雪に、リーナは遂に頭がおかしくなったのかと思ったが、一分も経たない内に本当に達也が部屋に現れた。

 

「同じ妻でも、私は他の人よりも達也様と長い時間を過ごしているのよ。まだまだ、これだけでは譲れないからね」

 

「何の話だ?」

 

「なんでもありません、お兄様。いえ達也様――いえ、旦那様」

 

 

 目一杯甘えた声で達也にすり寄る深雪と、多少困惑しながらもそれを受け容れる達也を見て、リーナは胸焼けするような気分を味わい、深雪に仕返しするのは無理そうだと自分の浅はかさを恥じた。

 

「達也、少しは落ち着いた生活は送れそう?」

 

「まだしばらくは無理だろうな。まだまだ片付けなければならない問題が多すぎる」

 

「そうですね。ですが、達也様ならできると、深雪は信じております」

 

 

 これからの未来にどのような困難が待ち構えていようと、達也ならば解決できる。深雪はそう信じて疑っていない。また、深雪の思いを達也が無碍にするはずもないとリーナも分かっているので、深雪が願えば達也はどんな無理難題も解決するだろうと確信していた。

 劣等生として入学した高校生活は終わり、次なるステージへと駒を進めた達也。彼が望む未来が訪れるのは、もう少し先の話になるだろう。




はい、終わりです。長らくご愛読ありがとうございました。原作は続いていますが、自分の作品はここで終わりになります。達也が平和に過ごせる世界は訪れるのでしょうか……

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