劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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初めから決まってますけど


水波の決断

 光宣の説得を終えた達也は、視線を水波に移した。いきなり達也に見詰められて照れそうになった水波だが、達也の視線がその勘違いを許さなかった。

 

「水波、後はお前が決めろ」

 

「………」

 

 

 何を、とは達也は言わない。水波もそれを尋ねない。何を決めなければいけないのか、この期に及んで理解できていないわけがない。光宣を殺したくない、だがパラサイトになる決意もできない。ましてや達也や深雪の側を離れる決意など、できるわけがない。

 

「(何を悩んでいたのでしょう、私は……答えなんて、初めから決まっていたというのに)」

 

 

 一度深雪たちを裏切った負い目はあったが、そのことは既に赦しを貰っている。一生側に仕えることで償うと自分の中で決めている。問題は、何時暴走するか分からない自分の中にある爆弾だけだったのだ。それに対する解決策があるのなら、それを選ぶのが一番問題なく事が治まるのだ。

 

「達也さま、お願いいたします。私を人造魔法師実験の被験者にしてください」

 

「分かった。それで光宣、お前はどうする」

 

「どうする、とは?」

 

 

 ここで自分に話が振られるとは思っていなかったのだろう。光宣は本気で意味が分からないという表情で達也に尋ねる。

 

「パラサイトとして俺に殺されるか、人間に戻って師族会議に裁かれるか、どちらがいいかと聞いているんだ」

 

「師族会議に裁かれるとして、僕はどうなると思います?」

 

「九島閣下の死は、表向きには病死ということで片が付いているからな。そのことで裁かれることは無いとは思うが、無罪放免ということにもならないだろう。それなりの罰はあると思え」

 

「ですよね。でも、死ぬよりかはマシです。水波さんが生きている姿を、見ることができるのなら」

 

「分かった。ではまず光宣、水波に取り憑かせたパラサイトを水波の中から取り除け。その後、お前の中のパラサイトを殺す」

 

 

 そう宣言した後、達也は光宣の同行者であるレイモンド・クラークに目を向ける。

 

「お前はどうする」

 

「どうするって?」

 

「ここで俺に殺されるか、USNA当局に引き渡されるか」

 

「……後者を選択するよ」

 

 

 こうして光宣たちの抵抗は幕を下ろし、レイモンド・クラークは即時USNA当局に引き渡された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光宣の中のパラサイトをこの世から消し去り、水波に人工魔法演算領域を埋め込んだ数日後、達也は光宣を連れて緊急師族会議が行われる魔法協会関東支部に姿を現した。ここには達也を敵対視している百目鬼支局長がいるが、顔を合わせることもなく会議室へ足を運んだ。

 

「司波、態々すまんな」

 

「いえ、この件は俺から説明するべきでしょうし」

 

 

 会議室には既に十師族の当主が顔を揃え――半分以上はモニター参加だが――その中で達也と親交がある克人が達也を出迎えた。

 

「それでは司波殿、パラサイト事件の顛末を報告してください」

 

 

 証言者の達也、そして当事者の光宣が席に着いたのを確認してすぐ、七草弘一がそう発言をし、モニター越しで数人の当主が視線で達也を促した。達也は話せる範囲でことの顛末を説明し、光宣の処分を師族会議に委ねると発言した。

 

『司波殿。九島光宣殿の中にいたパラサイトは、本当に消し去ったのですね?』

 

「はい、光宣の中にいたパラサイトは、もうこの世界に存在していません。ついでに四葉家の秘術で、光宣は一時的に魔法を使えなくなっています」

 

『四葉家の、秘術……?』

 

 

 モニター越しから一条剛毅が疑いの目を向けてくるが、達也はお構いなしに話を進める。

 

「光宣についての説明は終わりました。自分はこれで退席してもよろしいでしょうか」

 

『何か急ぎの用事でも?』

 

「皆さまもご存じの通り、恒星炉プロジェクトの件でいろいろとありますので」

 

 

 そう言われては強く出るわけにもいかない。今や達也のプロジェクトは世界中から注目を集めていると言える。その邪魔をしたとなれば、幾ら十師族といえどもただでは済まないだろう。

 

『達也さん、後のことは私たちにお任せください。貴方は貴方のするべきことをなさってください』

 

「ありがとうございます、母上。では、自分はこれで失礼致します」

 

 

 真夜に許可を出され、達也はそそくさと一礼をして会議室を後にした。何人かまだ何か言いたげな様子はあったが、達也はそれに付き合うことはせず――付き合う理由もないので、一切の視線を無視して魔法協会関東支部を後にした。

 

「やぁ、達也君」

 

「師匠……わざわざ出向いていただかなくても、この後ご報告に向かうつもりでしたのに」

 

「いやいや、まさか九島光宣の中のパラサイトだけを滅ぼすとはね。さすがの僕も想定外だよ」

 

「光宣を取り逃がしたらいい顔はされないと仰っていましたから、光宣を捉えたうえで、問題視されていたパラサイトを滅ぼしただけです」

 

「相変わらず君は僕の想像の上を行くね。他の方々は分からないけど、東道閣下は今回の結果に満足してるようだよ。君は人間に対する抑止力だけでなく、妖魔に対する抑止力にもなったってね」

 

「恐縮です」

 

 

 全く心の篭っていない達也の返事に、八雲は苦笑いを浮かべる。今回の件で達也は、ますます人間としての普通の生活から遠ざかったことを思ってのことか。それとも、もう自分では達也を抑えきれないということに対してかは、達也にも分からなかった。




レイモンドの選択肢はそのままですけど、光宣も水波も無事人間に戻りました

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