劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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世界的な技術者が本気を出せばこれくらいは楽勝


エリカ用の新魔法

 どれくらい待たされるのだろうと思っていた二人だったが、達也が口を開いたのは意外とすぐだった。

 

「エリカ、魔法式を刀で斬れないか?」

 

「はっ?」

 

 

 エリカは何を言われたのか分からないという顔だ。幹比古も似たような表情で達也を見詰めている。

 

「魔法の本体は魔法式だ。魔法式を破壊できれば、魔法を無効化できる」

 

「……その程度のことは知ってるけど。でも魔法式を斬るって……何処を斬れば良いのよ? 魔法式は身体の表面に描き込まれているわけじゃないよね?」

 

「無論、情報次元だ」

 

「いったいどうやって!?」

 

「魔法を使う時と同じだ。エリカ、お前は自己加速魔法を使う時、どうやって自分の身体という対象を定めている? 肉体の手で魔法式を描き込んでいるのか?」

 

「まさか。そんなのもちろん、イメージで……」

 

 

 答えている途中で、エリカが「あっ!」と声を上げた。

 

「それと同じだ。魔法を認識する感覚で捉えた敵の魔法式を、魔法を放つ、謂わば『心の手』で『想子の刃』を振って斬れば良い」

 

「なる程……」

 

「魔法式を斬る為の刃は、起動式を用意してやる。そうだな……二時間待ってくれ。とりあえずあり合わせの機材でCADの試作品を用意しよう」

 

「二時間!?」

 

「あり合わせって……アハハ」

 

 

 幹比古が素っ頓狂な声を上げ、エリカが乾いた笑い声を漏らす。

 

「それまで練習を続けていてくれ」

 

 

 達也は二人の反応を気にした素振りも無く、校舎へ足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也がモノリス・コードの練習場に戻ってきたのは、本人が予告した通り二時間後のことだった。背後には深雪とリーナ、そして何処で合流したのかレオが続いている。

 

「エリカ」

 

 

 達也が細長い携帯端末形態のCADをエリカに手渡す。エリカが眉を顰めたのは、手を塞ぐ携帯端末形態が彼女の戦闘スタイルに合わないからだろう。

 

「想子ブレード創出の魔法は常時発動型だ。いったん起動すれば、終了する為の魔法を使うまでループキャストで発動し続ける」

 

 

 無論、その程度のことを達也が考慮していないはずはなかった。

 

「フーン……。じゃあ、CADはポケットに入れっぱなしで良いのね?」

 

 

 眉間の皺を消したエリカの問いかけに達也が頷く。

 

「実態のある刀と実態の無い刀の二刀流になる。最初は戸惑うかもしれないが、エリカなら使いこなせるはずだ」

 

 

 そして達也のこのセリフに、エリカが満更でもなさそうに口角を上げた。

 

「そこまで言われちゃ、張りきらないわけにはいかないわね」

 

「……子猫もおだてりゃ木に登る」

 

 

 ボソッと呟いたのはレオだ。聞こえる程度の声量だったので、この場にいた全員にその呟きは聞こえていた。

 

「何か言った!?」

 

「空耳だろ。何が聞こえたんだ?」

 

 

 即反応したエリカに、レオが恍けて見せる。

 

「しらばくれる気? 子猫も……って、んっ?」

 

 

 追及を続けようとしたエリカだったが、自分が再現しようとしたフレーズに違和感を覚えて言葉に詰まってしまう。

 

「じゃ、俺はあっちで見物させてもらうわ」

 

 

 レオはエリカに背中を向けて、片手をヒラヒラと振りながら救護班の待機場所へ向かった。

 

「俺たちも少し離れていよう」

 

「はい、達也様」

 

「オーケー」

 

 

 達也の言葉に深雪とリーナが頷く。

 

「エリカ、分からないことがあったら遠慮なく聞いてくれ」

 

「う、うん。ありがと」

 

 

 エリカは達也に返事をしながら、なおも納得のいかないという顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリカに声が聞こえない距離まで離れたところで、リーナが小声で達也に話しかける。

 

「ねぇ、達也。レオは何を言ったの? 普通は『豚もおだてりゃ木に登る』じゃない?」

 

「木に登った子猫が高い枝から下りられなくなった、という話を聞いたことが無いか?」

 

「ああ、そういう意味でしたか」

 

 

 達也の説明を聞いて、納得の声を上げたのは深雪だ。その隣ではリーナが不満そうに達也と深雪を交互に睨みつけている。

 

「聞いたことある気がするけど、それが? 深雪、自分だけ納得してないで教えてよ」

 

「つまりね、リーナ。木に登っているうちはどのくらい高い所にいるのか自覚せず、いざ下りようとしたら高さに目が眩んで竦んでしまう子猫のように、調子に乗って自分の実力を過信すると痛い目に遭うぞ、と西城君は警告したのよ」

 

「レオも耳に痛いことを言う。十分な安全マージンは確保しているつもりだが、エリカが無理をしないように注意して観戦するとしよう」

 

 

 深雪のセリフを受けて、達也は自分に言い聞かせるような口調で呟いた。

 

「もう一つ質問があるのだけど」

 

「何だ?」

 

「あの魔法式って達也が創ったのよね? それって他校の生徒が納得するのかしら?」

 

「魔法式自体は公表するつもりだから問題ないだろう。まぁ、エリカ以上に使いこなせるやつが出てくるとは思わないが」

 

「つまり、達也がエリカ専用に創った魔法ってことになるの?」

 

「君の『ヘビィ・メタル・バースト』だってそうだろう?」

 

「あれは戦略級魔法……いや、個人専用に創られたという意味では一緒なのかな?」

 

 

 イマイチ納得していない様子のリーナだが、反論しようにも言葉が見つからなかったのでそれ以上何も言えなくなってしまった。ヘビィ・メタル・バーストは公開されていないので、一概に一緒だと言えないという反論は、リーナには見つけられなかったようだ。

 その日、西の空が赤く染め上げられる頃には、エリカは魔法式斬殺ならぬ『魔法式斬壊』の対抗魔法を自分のものにしていた。




戦略級魔法と同列視しちゃいかんでしょ……

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