劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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人外も動揺する


パラサイトの動揺

 予想を超えた激しい抵抗に、リゲルは焦りを抑えられなかった。彼はパラサイトだ。リゲルの動揺は、同じくパラサイトのベラトリックスにも、アルニラムにも、他のパラサイトにも伝わってしまう。

 指揮官が部下に動揺を見せるのは厳禁だ。そうと分かっていても、リゲルの焦燥は高まっていくばかりだった。彼は搭載艇の針路上最も近かった巳焼島東の港湾地域ではなく、北岸の道路を上陸地点に選んだ。今回標的が島の東側に建設中のプラントではなく、西岸にいると推測される魔法師の暗殺だからだ。東岸の港に上陸すれば、建設済み、あるいは建設中である多くの建物の間を通っていかなければならない。迎撃部隊を潜ませる遮蔽物も多い。

 だからといって西岸に直接上陸するのも得策ではない。西岸の建物群は、以前魔法師用の監獄に使われていた堅固な物だと分かっている。脱走対策の火器も充実しているだろう。

 対して、北岸の道路は西の旧監獄施設と東の恒星炉プラントを結ぶ見晴らしの良い車道。ここを通っていけば伏兵を心配する必要が無いし、海に向いた火砲を警戒する必要もない。ターゲットが迎撃の為に自分から姿を見せる可能性も低くない。

 そう判断して、リゲルは上陸地点を北岸、東寄りの地点に定めた。消波ブロックを乗り越えるのには一苦労したが、そこを越えてからは迎撃の砲火も迎え撃つ魔法も無く、搭載艇は無事岸に着いた。上陸までは順調すぎる程、順調だったのだ。今にして思えば、そこで「簡単すぎる」と疑うべきだったのだろう。

 搭載艇に運航クルーを残し、上陸部隊全員が堤防を乗り越えて道路に立った瞬間、礫混じりの爆風が彼らを襲った。上陸部隊に向けて放たれたのは、攻撃手段として最もポピュラーな魔法、圧縮空気弾。圧縮空気の塊に砕いた溶岩を混ぜて、着弾と同時に圧縮状態を解放し、爆風で礫を飛ばしたのだと思われる。

 空気塊と一緒に釘や鉄片を飛ばして魔法の攻撃力を上げるのは、戦場で普通に使われているテクニックだ。この島はほとんどが冷えた溶岩で出来ている。礫の材料は幾らでも調達できる。溶岩を灼熱にして飛ばさなかった分だけ、むしろ人道的と言えるだろう。

 しかしこの攻撃で、上陸部隊の半数が戦闘力を失った。残っているのは魔法の気配を鋭敏に捉えてシールドを張った魔法師と、礫に打たれた程度の怪我ならば無視できるパラサイトだけだ。魔法師でない兵士は全滅だった。死者は少ないが、負傷者は冷えた溶岩の礫が身体の至る所に食い込んで、血塗れで倒れ、呻いている。

 リゲルもやられているばかりではなかった。前述の通り、この場所は見晴らしが良い。上陸時点では丘の向こうに掘った穴に隠れていて見えなかった敵の姿も、追撃の為に塹壕からでてきた今ならば見えている。リゲルは部隊に反撃を命じ、自らも魔法を放った。だが彼の魔法は、迎撃隊の先頭に立つ長身の青年魔法師に阻まれた。

 リゲル自身の身長は百七十五センチと平均的だが、部下のアルニラム少尉は百八十三センチ、ベラトリックス少尉は百八十四センチ。だが彼の魔法を防ぎ止めた青年は、さらに背が高い。おそらく、百九十センチ近くあるのではないだろうか。敵の中でも、突出した長身だ。相手が道路よりも高い丘の斜面に立っていることもあるのだろう。まさしく「立ちはだかられている」ように、リゲルには見えた。

 

「なんて魔法力だ!」

 

 

 隣に来たベラトリックスの吐く悪態が、リゲルの耳に届く。リゲルも全くの同感だった。今やアルニラムも加わって三人がかりで魔法を撃ち込んでいるのに、青年魔法師の防御は小揺るぎもしない。それどころか三対一にも拘わらず、隙を見て撃ち込まれる青年の魔法を防ぐ為に、リゲルもベラトリックスもアルニラムも、その都度、攻撃を中断して防御に専念しなければならなかった。

 

「(我/我々は『降雷(サンダー)』を使う。合わせろ)」

 

「(了解)」

 

「(了解)」

 

 

 リゲルたちはパラサイト同士の意識共有によりタイミングを合わせて青年魔法師――勝成に放出系魔法『降雷(サンダー)』を撃ち込んだ。

 さすがはスターズの恒星級と言うべきか、衛星級のミマスと違いこの三人は使える魔法の種類が著しく制限されるという、パラサイト化によるマイナスの影響を受けていない。いや、少しは影響が出ているのかもしれない。だがこの三人は元々使える魔法の種類が多かった為に、デメリットとして顕在化していないだけだろうか。

 兎に角、三人で同じ魔法を選択して魔法式同士の干渉による威力低下を回避し、威力を合算して叩きつけることに成功する。残念ながら相乗効果で三の三乗と言うわけにはいかず、単純な威力の加算だ。それでも単独で攻撃する場合のおよそ三倍になる威力の電撃が頭上から勝成を襲う。

 勝成はその電撃を捻じ曲げた。一歩も動かず、身体を揺らすこともせず、空気の電気抵抗分布を変えて電子の束を少し離れた地面に吸わせる。そして雷光が消えた瞬間、勝成の反撃がリゲルたちを襲った。




勝成も強いからな

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