劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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並の相手なら勝てるだろう


パラサイトの進撃

 ミマスは射手の姿が見当たらなかったからくりを理解した。魔法による軌道屈曲だ。矢の軌道に魔法で干渉して、倉庫を回り込ませていたのである。

 

「シールド!」

 

 

 ミマスの反応にタイムラグは無かったが、完全に間に合ったとも言えない。今回浴びた斉射により、グレネードを構えていた兵士とその分隊長を含め二十人以上が負傷、その内十一人が戦闘離脱を余儀なくされた。

 第一弾の重傷者を含め、これで撤退は十七名。この上陸部隊の、三分の一を越えてしまっている。通常であれば全面撤退を視野に入れるべき損耗率だ。彼らの惨状を『グアム』の方でも看過できなかったのだろう。ミマスの頭上を上陸まで搭載艇の護衛に当たっていた無人機が通り過ぎる。おそらく、空から伏兵を掃討する算段だ。

 だが陸地上空に侵入した六機の無人機の内、半数の三機が次々と火を噴いて撃墜された。無人機を迎撃するミサイルは見えなかった。機関砲の音も聞こえなかった。

 

「フォノンメーザー、か……?」

 

 

 ミマスの口から半信半疑の呟きが漏れる。フォノンメーザー自体は、そこまで珍しい魔法ではない。発動には高い事象干渉力が求められる。だが事象改変の内容は比較的単純だ。音波の振動数を極限まで引き上げるだけと言って良い。

 しかし実戦力としての運用は、まさにその「極限まで」の部分がネックになる。高機動の無人航空機を打ち落とす為には一瞬の照射で十分な熱量を発生させる必要がある。固定目標に対する攻撃とはわけが違うのだ。それだけの威力を得る為には「超振動」という表現が大げさではない振動数が必要であり、要求される事象干渉力もそれに見合ったものとなる。

 

「(司波達也がフォノンメーザーを使えるという情報は報告されていない。司波深雪が得意とするのは広域冷却魔法のはずだ。あの二人以外にも、これ程高威力の魔法を使える戦闘魔法師がいたとは……。四葉……やはり、危険すぎる!)」

 

 

 ミマスの心の中に、達也に対する復讐心とは別に、焦慮の念が沸き上がった。三機の無人機が引き上げていく。このまま掃討を続けようとしても――まだ敵を発見すら出来ていないが――撃墜されるだけだと、無人機をコントロールしているオペレーターが判断したのだろう。その間にも、矢の斉射攻撃は続いている。

 

「(私/我々だけで行くぞ)」

 

 

 アレハンドロ・ミマスが念話で同じ部隊のパラサイトに呼び掛けた。

 

「(アレハンドロの/我々の決定に賛同する)」

 

「(賛同する)」

 

「(賛同する)」

 

「(賛同する)」

 

「(私/私たちだけで行こう)」

 

「(行こう)」

 

「(行こう)」

 

「(行こう)」

 

 

 八体のパラサイトがミマスの念話に応えた。

 

「軍曹殿!?」

 

 

 いきなり前進を始めたミマスに、彼を補佐するパラサイトではない魔法師の三等軍曹が、訝しさを込めて大声で呼びかける。

 

「コロンボ軍曹、君に指揮権を委譲する。残った兵と共に帰還せよ」

 

 

 ミマスは足を止めずに三等軍曹へ応えを返し、スターダスト所属のパラサイト八体と共に矢の嵐へ突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海岸線から約五十メートル離れた位置に建つ食糧倉庫。その屋根から無人航空機を三機撃ち落とした堤奏太は、岸壁の方から異質な魔法の気配が近づいてくるのを察知した。

 

「こいつは……これがパラサイトの気配か?」

 

 

 奏太は戦闘中に得た情報を消化する為、声に出して考える癖がある。今もそれが独り言となって彼の口から漏れ出ていた。

 

「慣性操作で貫通力を高めた矢を対物シールドで防ぐとはな。単純な魔法力は新発田の一軍並みか」

 

 

 新発田家は四葉一族の中でも私設軍隊の性格が強い分家だ。暗殺や破壊工作よりも正面突破や拠点防衛を得意としている。新発田家が抱える戦闘魔法師集団は(精神干渉系魔法を使わないという意味での)、物質的な戦闘力ならば分家随一、本家直属の傭兵部隊をも凌駕するかもしれない。

 パラサイトはその新発田家の中核を構成する魔法師に匹敵するパワーがある。奏太は魔法同士のぶつかり合いからそう評価した。

 

「こりゃ、手を貸した方がよさそうだ」

 

 

 守備隊とパラサイトはまだ接触していない。だが近接白兵戦の間合いまで距離が詰まれば、守備隊は苦戦を免れない。彼らの姿は、どちらも奏太からは死角になっていて見えない。だが音に干渉する振動系魔法に高い適性を与えられた奏太にとって、非可聴高周波音を放ってその反射から物体の位置、形状、動きを割り出す程度の真似は簡単だ。その情報を元に、奏太はパラサイトの先頭ではなく最後尾を狙って非致死性魔法『音響砲』を撃ち込んだ。

 音響砲を選択した理由は三つ。一つはピンポイントの狙撃であるフォノンメーザーは魔法の発動を察知されて回避される可能性を無視できないこと。二つ目は、パラサイトの肉体的な耐久力を測ること。そして三つ目は、パラサイトの進軍をペースダウンさせること。殺してしまったらかえってペースを上げてしまうかもしれないと考えてのことだった。

 奏太は音響砲の効果を確かめる為に、続けて『アクティブソナー』の魔法を放った。




今回は並じゃないからなぁ……

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