劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この人も凄い人だからな


葉山の確認

 将輝から得た情報を伝えなければならない相手は、友人たちだけではない。思いがけず時間を喰ってしまったが、達也はほのかたちの見送りを深雪に、エリカたちの案内を水波に任せ、四葉本家への直通回線を開いた。

 

『達也様、如何なさいましたか』

 

 

 ヴィジホンに出た葉山は達也への接し方を、主筋の人間に対するものへとすっかり切り替えている。彼だけではなく、本家の使用人は既にほとんどの人間が、達也に対する態度を改めていた。達也としてはそこまでされることに慣れていないので、普段なら葉山の口調に文句を付けるところだが、今はそれどころではないので挨拶もそこそこに本題へ入った。

 

「先ほど、一条将輝から情報提供を受けました。USNAの強襲揚陸艦と駆逐艦が巳焼島に迫っているそうです」

 

『然様でございますか』

 

「そちらでも掴んでいたのですか」

 

 

 問いかけながら、達也は意外感を覚えていなかった。

 

『強襲揚陸艦グアム、それに駆逐艦ロスおよびハルでございますな。日本に接近しているのは認識しておりましたが、目的地までは特定しておりませんでした』

 

「しかし、予測はしていた?」

 

『はい。達也様と同様に』

 

 

 葉山の決めつけに、達也は反論しなかった。気分を害されることもない。巳焼島は先月上旬にもパラサイト化したスターズを中核とする部隊の奇襲を受けている。巳焼島の事業に関わっている四葉家の者に、襲撃があれで終わりと考えている者はいなかった。

 

「では私がお伝えするまでもありませんでしたか」

 

 

 達也は国防軍と本格的に決別して以来、意識として一人称を「私」に変えている。

 

『いえいえ、決してその様なことは。迎撃の準備は整っておりましたが、日時が明日と特定できたのは助かります。ところで一条様はどちらからこの件をお知りになったのでしょう?』

 

「父君の一条殿が国防軍内の個人的な伝手から聞きつけてこられたそうです」

 

『そうですか。私どもも手の者を参謀部に潜り込ませておるのですが……』

 

 

 画面の中で、葉山が手許に目を落とす。おそらく、その工作員が何をしているのか確認しているのだろう。

 

『……どうやら本日は首都近郊の基地に派遣されているようです』

 

「タイミングが悪かったようですね」

 

『そのようですな。国防軍や防衛省の諜報員を、もう少し増強することに致しましょう』

 

 

 葉山の独り言じみた弁明に、達也は何もコメントしなかった。ヒューミント――人の手を介した諜報活動は黒羽家の管轄事項であり、彼が口を出すべきことでもなければ、口を出す必要もない。

 

『それは後日対応すると致しまして、明日の襲撃については直ちに増援を派遣するよう、手配致します。ただ今スタンバイしておりますのは新発田家の部隊ですが、パラサイトへの備えとして津久葉家にも出動を要請しますか?』

 

「その判断は本家にお任せします」

 

『承りました。奥様に何かご伝言はございますか?』

 

「それでは、こうお伝えください。『東道閣下とのお約束を果たすべく、全力で臨む』と」

 

 

 達也の言葉に、葉山の表情が固まる。

 

『……僭越ながら、おうかがいしても?』

 

「何でしょう」

 

『達也様……マテリアル・バーストを、お使いになるのですか』

 

 

 達也は「心配要らない」とばかりに、薄らと笑った。

 

「あれを使わなければならない局面は、発生しないでしょう」

 

『では?』

 

 

 葉山が極短い一言で、達也の真意を問う。

 

「俺の魔法はマテリアル・バーストだけではないと、世界に理解してもらいます。使い所が限定されている戦略級魔法に頼らなくても魔法は抑止力となり得ると、世界中に見せつけてやるつもりです」

 

 

 達也はこの場で具体的な答えを返さなかった。

 

『然様でございますか……。かしこまりました』

 

 

 葉山がモニターの中で深々と一礼する。具体的な説明はせずとも、達也の決意は十分に伝わっていた。誤解しようの、無い程に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也との通信を終えた葉山は、すぐに真夜に報告すべく書斎を訪れた。

 

「奥様、達也様から例の強襲揚陸艦と駆逐艦が明日、巳焼島への攻撃を仕掛けると判明したとのご報告がございました」

 

「あら、意外と早いわね……勝成さんたちには連絡しておいてくれましたか?」

 

「それはもちろん。また、津久葉家の派遣に関しては、本家に任せるとのことです」

 

「そう……それで、達也さんはどのように対処すると?」

 

 

 真夜の問いかけに、葉山は一度間をおいてから真夜の目をしっかりと見つめて答えた。

 

「達也様は『東道閣下とのお約束を果たすべく、全力で臨む』と仰られました。また、『マテリアル・バーストを使う局面にはならない』とも」

 

「そうですか。達也さんがそう言ったのであれば、そうなのでしょうね」

 

「真夜様」

 

「何かしら?」

 

 

 普段は「奥様」と呼ぶ葉山が自分のことを名前で呼んだのを受け、真夜はそれだけ葉山が重要なことを確かめようとしているのだと理解し、表情を消した。

 

「達也様は自らを抑止力として世界中に宣伝し、巳焼島や周囲の安全を確保しようとしているのでしょうか」

 

「達也さんにしかできない方法で、達也さんがやるのだから、それでいいじゃないの。四葉家には害はないのだし、何より達也さんの力を世界中に知らしめることができるのだから」

 

 

 確かに達也がしようとしていることは、四葉家に損益を発生させるものではない。だが達也の自由がますます無くなってしまうのではないかと、葉山はそのことが気がかりだった。




成功したら真夜さん大興奮だな……

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