劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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確たる証拠が無いと思ってるのだろうか


リーナの追及

 ハワイ州オアフ島、現地時間七月二十九日正午。日本時間七月三十日午前七時。エドワード・クラークとブラジルの国家公認戦略級魔法師ミゲル・ディアス、その弟アントニオ・ディアス、および多数のパラサイトを乗せた強襲揚陸艦『グアム』が、随伴する二隻の駆逐艦と共に日本へ向けて出港した。

 日本軍の情報部は、『グアム』の出港自体は把握していた。だがクラークをはじめとする追加されたクルーに関する情報は掴んでいなかった。

 その攻撃目標が日本であることも、まるで知らなかった。『グアム』の目的は通常の訓練航海だろうと、この時点の日本軍は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日本軍に対して、新ソ連の情報部は強襲揚陸艦『グアム』にエドワード・クラークとミゲル・ディアスが乗り込んでいることを探り出していた。情報部が事実として掴んでいたのはそれだけだが、ハバロフスクに滞在中のベゾブラゾフはその情報から『グアム』の目的が司波達也の抹殺にあることを正確に推測していた。

 達也に手痛い敗北を喫しても、新ソ連におけるベゾブラゾフの権威は損なわれていない。たとえ個人的な推測であっても、彼の言葉には軍を動かく影響力があった。

 ハバロフスクの東シベリア軍司令部はベゾブラゾフの助言に従い、カムチャッカ半島から最新鋭のミサイル潜水艦『クトゥーゾフ』を出港させ、ビロビジャン基地に配置されている極超音速ミサイルの発射準備に着手した。いずれも目標は、日本の巳焼島。

 この様に巳焼島奇襲作戦についてはベゾブラゾフが日本軍は素より、エドワード・クラークよりも一枚上手を行っていた。しかしアメリカ本土で対日戦略を根底から揺るがす事態が進行しているとは、ベゾブラゾフの知性を以てしても、推察すらできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 USNA連邦軍参謀本部直属魔法師部隊・スターズの本部基地は、ニューメキシコ州ロズウェルの郊外にある。――なお『ロズウェル事件』で有名な旧ウォーカー空軍基地ではない。

 そのニューメキシコ現地時間七月二十九日午後五時、日本時間七月三十日午前七時。一機の小型VTOLがスターズ本部基地に到着した。その機体は連邦軍が所有する素性のハッキリした物だったが、来訪をあらかじめ知らされていなかった基地の職員は突然の着陸に少なからず右往左往する羽目になった。

 目的も告げずに着陸した小型機を、予定外の時間外業務に従事したマーシャラ(滑走路誘導員)や整備員が不満と不安を懐いて取り巻いている。その視線の中、小型機から壮年の士官が下りてきた。スタッフの間にざわめきが走る。続いて機内から姿を見せた若い女性の姿に、ざわめきがどよめきに変わった。

 二人は、基地の職員が良く知っている人物だった。最初に下りてきた長身の男性はスターズ第一隊隊長、ベンジャミン・カノープス少佐。二人目の赤毛で仮面をつけた女性はスターズ総隊長、アンジー・シリウス少佐。スタッフの間で、「本物か?」というささやきが交わされる。

 しかし彼らの間に広がった無秩序な騒動は、三人目が姿を見せたことでピタリと収まった。その老紳士は、政治に興味が薄い若者でも名前くらいは聞いたことがあるという高い知名度を誇る大物政治家だ。軍に所属する者ならば、士官でなくても顔を知らないでは済まされない。影のCIA長官とも噂される上院議員、ワイアット・カーティスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カノープスとアンジー・シリウスに変身したリーナは、基地に着いてすぐウォーカー司令と会うことができた。ワイアット・カーティスが強くそれを望んだからだ。

 司令官室でウォーカーと、デスクを挟んで対面するリーナ。ウォーカーの背後には彼の副官が、リーナの背後にはカノープスとカーティスが控えている。ウォーカーはカーティスに別室での饗応を申し出たのだが、カーティスはそれを断り、代わりにクッションの効いた椅子を持って来させて一人だけ腰を下ろしている。

 

「シリウス少佐、バランス大佐のサポートは完了したのか?」

 

 

 金色の瞳を光らせて無言で敬礼するリーナに、ウォーカーは短い答礼の後、そう尋ねた。リーナは日本に逃亡する際、バランスの業務を手伝いという名目で脱走の嫌疑を免れている。ウォーカーの質問は、それを踏まえた一種の嫌味だ。

 

「今回の帰国については、バランス大佐の御許可も得ております」

 

 

 リーナはその嫌味を、事務的な口調で受け流した。そのセリフはカーティス上院議員だけでなく、バランス大佐も味方につけていると匂わせるものだった。

 

「それで、用件は何だ? 単なる帰投報告ではあるまい」

 

 

 ウォーカーはリーナの背後に控えるカーティス議員に目を向けながら、本題に入るよう促した。彼の口調は階級を盾に取る威圧的なものだったが、リーナは怯まず、躊躇わず、即、それに応じた。

 

「ウォーカー大佐、貴方は基地司令として叛乱を鎮圧する立場にありながら、事後的に反逆者と共謀してカノープス少佐を冤罪で処罰しましたね? また、ベガ大尉、アークトゥルス大尉らの同盟国に対する不法な攻撃を幇助した疑いもあります」

 

「バカげたことを」

 

 

 吐き捨てるようにそう言って、ウォーカーは一層威圧的な――というよりむしろ、脅迫するような目次でリーナを睨んだ。




リーナが現れた時点で負け確

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