劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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経験値が違うからなぁ……


真夜の回答

 真夜が待ち受ける部屋へと案内された克人と真由美は、妖艶な笑みを浮かべて二人を招き入れた真夜を見て、克人は眉を顰め、真由美は同性ながら魅了されそうになっていた。

 

「十文字殿、真由美さん、いらっしゃい。紅茶でいいかしら?」

 

「お構いなく。自分は聞きたい事を聞ければそれでお暇しますので」

 

「長くなるでしょうし、飲み物があった方が良いでしょう? 葉山さん、お二人に紅茶を」

 

「かしこまりました」

 

 

 真夜のペースで進められている感じが否めない克人は、真夜の正面に腰を下ろして本題を切り出す。

 

「先日USNAの基地が襲撃された件ですが、あれはそちらの御子息である司波達也殿の仕業か?」

 

「十文字殿は何を根拠に達也の仕業であると言っているのでしょうか」

 

 

 真夜の切り返しに、克人は昨日真由美に話したことをもう一度真夜に話す。克人の話を聞いている間、真夜は終始笑みを浮かべている。

 

「(経験の差なのかもしれないけど、あの十文字くんがペースを乱されているなんてね)」

 

 

 二回りも年上ではあるが、真夜の見た目からはそれ程の経験があるとは思えない雰囲気がある。だが『あの』四葉家の当主なのだから、それは勘違いだということは真由美も分かっている。分かっていながらも、克人がペースをつかめずにいるのが不思議で仕方なかった。

 

「――以上の点から、USNAを襲った正体不明の魔法師は司波達也殿ではないかと考えます」

 

「なるほど、素晴らしい考察ですね」

 

「お認めになるのですか? USNAの基地を襲った魔法師が御子息であると」

 

「本来なら隠す必要はありませんから。達也が行ったのはテロ行為ではなく、パラサイトを殲滅させるための行動ですから」

 

「パラサイトを殲滅? しかしパラサイトを抹殺する方法は確立されていないはず……」

 

「その点は詳しく話せませんが、我が息子である達也は、パラサイトをこの世界から消滅させる魔法を開発し、それを行使したにすぎません」

 

「パラサイトを消滅させる魔法……それはいずれ公表されるおつもりか?」

 

「まだ確立していませんので、今のところは公表するつもりはありません。ですが、達也がその魔法を行使し、パラサイトが消滅したことは確認済みですので、効果を疑う必要はありません」

 

「もしその魔法が本当にパラサイトを消滅することができるのであれば、今すぐにでも公表するべきではないだろうか。日本ではパラサイトの増殖は見られないが、USNAではパラサイトが増殖し、軍の上層部を支配している」

 

「あちらで起こってることに、達也が手を貸す義務があると? あの子の自由を縛ろうとした国の人間がどうなろうと、私どもには関係ありません。もちろん、正式に要請があれば考えますが」

 

 

 真夜はあくまでも笑みを浮かべながら淡々と告げている。その表情が恐怖心を煽るのだが、克人は肩眉を動かすだけでそれ以上の反応は示さなかった。

 

「四葉殿は日本に不利益を被らせるつもりは無いと?」

 

「当然です。むしろ達也の自由を制限する方が国益を損ねる結果になりかねないと思います。十文字殿は如何かしら?」

 

「……俺は司波の全てを知っているわけではありません。ですが、例のプロジェクトを見れば、四葉殿の仰る通りではないかと思います」

 

「達也さんの研究結果は、恒星炉プラントだけでなく、先日の戦略級魔法でもご理解いただいているでしょう。達也さんを自由に動かせばこその国防、そして国益です。それを邪魔する人間は、我が四葉家は許すはずもないでしょう。もちろん、敵対の意思がない人まで相手にしている程暇ではないので、誰彼構わずということはないのでご安心を」

 

「……分かりました。それと、今回の件とは別口なのですが、一つお尋ねしたい」

 

「何かしら?」

 

 

 USNAでの行動には納得がいったようだが、克人はまだ真夜に質問をぶつけるつもりだ。真由美はその事を知らなかったので、克人が何を聞くのかに興味があった。

 

「以前俺は、司波に十師族の一員だなと訊ねたことがあります。しかしアイツは『自分は十師族の一員ではない』と返答しました。嘘を吐いている様子は無かったのでそれ以上追及はしませんでしたが、実際は貴方の息子だったという訳ですが、何故司波はあのような嘘を吐いたのでしょうか」

 

「その時はまだ、達也さんは私の息子として認められていませんでしたし、達也さん自身も四葉家の一員だと思っていなかったのですから、嘘は吐いていなかったのだと思いますよ。十文字殿がどのタイミングで聞いたのかは分かりませんが、恐らくそう言うことだと思いますわ」

 

「自分が聞いたのは二年前の夏――自分が高校三年の時の九校戦のダンスパーティーの時です」

 

「なら、先ほど言った理由だと思いますわ。あの時はまだ、深雪さんが次期当主候補筆頭だったのですから」

 

「分かりました。本日はお時間をいただきありがとうございました。今日聞いたことは、他言しないと約束しましょう」

 

「そうしていただけるとありがたいわね。まだまだ達也さんの邪魔をしたがる輩が多すぎるから」

 

 

 終始真夜のペースだったが、克人も聞きたかったことが聞けたので満足のいく会合だったと言えよう。真由美は何故自分が居合わせなければいけなかったのかと首を傾げたが、穏やかに会合が終わってホッと一息ついたのだった。




いくら克人でも真夜には勝てない

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