劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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実に危ない……


危うい状況

 双子との電話を終えた水波は、深雪が待つ部屋へと戻り、深く頭を下げた。

 

「深雪様、外部との連絡を許可してくださり、誠にありがとうございました」

 

「良いのよ、水波ちゃんと泉美ちゃんたちはお友達だし、香澄ちゃんは達也様の婚約者の一人。言ってはいけないことはいくら身内とはいえ言っていないでしょうから、水波ちゃんの無事を泉美ちゃんに伝えるのは、水波ちゃん本人の方が都合が良かったのよ。もちろん、そんな理由が無くても、水波ちゃんが電話をしたいと言えば許可したのだけども」

 

 

 深雪個人で許可を出したのではなく、達也から真夜に話が行き許可が出ているのだが、深雪は細かい説明は省いた。水波の方も深雪個人で許可を出したとは思っていないので、そこらへんの説明は不要だと深雪が判断したのだ。

 

「それで、泉美ちゃんたちは元気だったかしら?」

 

「はい。電話越しではありましたが、以前と変わらぬ関係でした」

 

「光宣くんにやられた時の傷は、もう良いのかしらね?」

 

「それ程深手ではなかったようですし、泉美さんは光宣さまと再戦するつもりだったようです」

 

「泉美ちゃん、普段は冷静だけど、熱くなると香澄ちゃん以上に執着するみたいだしね」

 

「香澄さんはそれ程執着心が強い方ではないですから」

 

 

 普段は香澄の方が熱血担当のように思われているが、実際は泉美の方がねちっこいと深雪も水波も思っている。七宝家との確執の件から香澄の方がけんかっ早いイメージなのは仕方ないのかもしれないが、あの時は泉美も七宝家からの喧嘩を買っているのだから同罪であろう。

 

「水波、今ちょっといいか?」

 

「はい達也さま」

 

 

 深雪と談笑をしているところに達也が顔を出し、水波はすぐにかしこまった態度で達也に返事をする。達也は少し苦笑いを浮かべたように見えたが、すぐに何時も通りの真顔に戻った。

 

「お前の検査結果が出たのだが、やはりパラサイト化の兆候は見られなかった。なので、巳焼島に隔離しておく必要はない。水波が望むのなら、深雪と二人でマンションに戻ることもできるが、どうする」

 

「私個人の気持ちは達也さまと深雪様のお側にお仕えさせていただきたいのですが、達也さまの研究の妨げになるのでしたら、私はマンションに戻ります」

 

「別に妨げにはならないだろう。七草先輩のように好奇心からあちこち見て回られたら気が散るかもしれないが、水波はそんなことしないだろう?」

 

「達也様、それは七草先輩に失礼ですよ」

 

 

 達也を咎めるようなセリフだが、深雪の表情は明るい。彼女も真由美ならそれくらいやりそうだと感じているのだ。

 

「でしたらもう暫く、こちらで生活させていただいてもよろしいでしょうか? 長い間達也さま、深雪様と離れていたので、お二人の給仕をしたくてしたくてたまらないのです」

 

「体調不良がないのなら止めはしないが、無理をしていると判断したらすぐに休ませる。それでも構わないのなら、水波の好きにすると良い」

 

「ありがとうございます」

 

「良かったわね、水波ちゃん」

 

 

 達也はそれだけ確認すると、すぐに部屋を出ていってしまったが、深雪も水波も不満そうな表情を打変えることはない。それだけ達也が忙しいということを理解しているのと共に、そんな状況にもかかわらずこちらの気持ちを尊重してくれたことに感謝しているからだ。

 

「これでしばらくは、私と水波ちゃんだけで達也様の御世話を出来るわね」

 

「あの、さっきから私もいるんだけど……」

 

「あらリーナ、いたのね」

 

「完全に意識から追いやってたでしょ……達也が忙しい今、貴女の護衛は私の仕事なのだけど?」

 

「この場所なら危険は少ないから、貴女は自由にして良いわよ? USNAに戻るのもいいし、そのまま達也様と敵対して消されても私は一向に構わないのだけど?」

 

「いや、達也と対立したいなんて思わないわよ……実力を発揮出来ない時でも勝てなかったんだから、今の達也に私が勝てるなんて思ってないし……」

 

「まぁ、USNAは今大変な状況だしね。達也様と敵対してる暇があるなら、さっさと内情を落ち着かせた方が国民の為になるでしょうし」

 

「というか、USNAが大変な状況になった半分くらいは、達也が関係してるんだけど?」

 

「そうかしら? 達也様の御力に嫉妬したクラーク親子が自爆した結果なのではなくて? そもそも達也様と対立しようだなんて考える人間がトップにいるなんて、USNAは本当に大丈夫なのかしら?」

 

「それ、どういう意味よ!」

 

「だって、貴女が最初に派遣された理由だって、達也様を見つけ出してUSNAの言いなりにする為でしょう? それができなかったら消し去る算段だったんだろうし、そういう人間がトップにいる国が発言権を持ってて平和は保たれるのかしらって意味よ」

 

「お二人とも、ヒートアップするのはそこまでにしていただけませんか? もしお二人が魔法大戦を始めた場合、今の私には防ぐ術も無ければ、止める術もないのですから」

 

 

 魔法が使えなくなっている水波が正直に告げると、深雪もリーナもバツが悪そうに視線を逸らして、それがクールダウンにつながった。結果として水波が二人の魔法大戦を止めたのだが、本人にその自覚は無かったという。




水波、大戦果

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