劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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心配なのは仕方ないよな


双子の会話

 USNAに水波が連れ去られたことは、婚約者の香澄の耳には入っていたが、泉美の耳には入っていない。その違いから、泉美は水波が未だに青木ヶ原樹海のどこかにいるのだろうと思っていた。

 

「香澄ちゃん、私たちも青木ヶ原樹海に行きませんか?」

 

「青木ヶ原樹海? そんなところに何しに行くのさ」

 

「そんなところ? 水波さんがそこにいるかもしれないというのに、私たちが行く理由になると思うのですが。光宣くんに水波さんが連れ去られた原因も、私たち七草家の落ち度の部分も大きいですし」

 

 

 泉美のセリフに、香澄は漸く納得したように頷いた。

 

「そっか、泉美は知らなかったんだったね」

 

「何を?」

 

「水波は今、光宣に連れ去られてUSNAにいるらしい」

 

「USNA? 何故そんなところに水波さんを連れて行ったのでしょうか? 克人さんや国防軍の方たちでは青木ヶ原樹海から探し出すことはできなかったと聞いているのですが」

 

「達也先輩がずっと監視していたから、僅かな解れから光宣の結界を破って隠れ家に乗り込んだらしいよ。まぁ、いろいろな邪魔が入って光宣のことは取り逃がしちゃったらしいけど、水波の居場所は分かってるらしいし」

 

「そのようなことができるのでしょうか?」

 

「まぁ、お姉ちゃんとは違う特殊な眼を持っているらしいから、そのくらいはできるみたいだよ」

 

 

 達也の事情を全て話すわけではいかないので、香澄はその部分は濁して泉美に事情を説明する。

 

「司波先輩ならそれくらいできても不思議ではないとは思っていましたが、まさか本当にできるなんて思いませんでした……」

 

「泉美も達也先輩のことは認めてるんだね」

 

「そ、そんなことはありませんが……ですが、初対面の印象からその後のいろいろなことを鑑みれば、あの人ならそれくらいできて当然と思ってしまうのも仕方がないのではありませんか? ましてやお姉さまや香澄ちゃんの婚約者なのですし、あの四葉家の次期当主なのですから」

 

「同じ十師族の次期当主でも、将輝さんじゃこうは行かないだろうけどね」

 

「司波先輩と比べるのは将輝さんにとって酷ではないでしょうか?」

 

「そうかな? 自分から達也先輩に勝負を挑んだような人だよ? あの人、司波会長が達也先輩と正式に婚約してから婚約を申し込んできたんだしさ」

 

 

 香澄のセリフに、泉美は当時の怒りがふつふつと蘇って来た。達也と婚約したことは泉美にとっても衝撃的ではあったが、発表後に深雪と会った時、今まで以上に魅了される笑みを浮かべていた深雪の姿と、将輝から婚約の申し込みがあったと聞かされた後の表情を思い出したのだろう。

 

「深雪先輩の幸せを邪魔するような人が、褒められる必要はありませんわね。あの戦略級魔法だって、吉祥寺さんは共同開発だと発表していますが、実際吉祥寺さんがしたことは将輝さんに合わせた最終調整くらいでしょうしね」

 

「多分そうなんだろうけども、泉美……顔が怖いよ?」

 

「深雪先輩の幸せの邪魔をする輩など、私が成敗してやりたいくらいですよ」

 

「いや、泉美一人じゃ将輝さんに勝てないでしょう? ボクと二人だって怪しいんだから」

 

「それは…そうですが……なら、闇討ちすればいいだけでは!」

 

「物騒すぎるって……泉美の行動の所為で七草家が十師族陥落になっても良いの? お父さんに何を言われるか分からないよ?」

 

「それは……」

 

 

 ただでさえ一度死んだ身なのだから、これ以上十師族の地位が危ぶまれることは避けたい弘一が、娘の暴挙の所為で十師族の地位を失ったとなれば何をしてくるか。泉美はその事を考えてさすがに闇討ちは止そうと決めた。

 

「というか、どうして泉美がこの家にいるのさ?」

 

「今更ですわね。お姉さまや香澄ちゃんが動き出す時に私もすぐに動けるよう、最低限の荷物を持ってこちらにお世話になっているんじゃないですから」

 

「お世話にというか、ボクの部屋に勝手に居座ってるだけじゃん。許可書はちゃんと出してもらったけどさ」

 

「ウワサ通りのセキュリティですものね。無断で近づこうとした時、本気で死を覚悟しましたわ」

 

 

 初め泉美は、無断でこの新居に入ろうとして四葉家が誇るセキュリティの餌食になり掛けた。運よく真由美がいてくれたお陰で不審者ではないと証明できたので、泉美は敷地外に戻ることができ、その後四葉家の人間が泉美にゲストパスを発行してくれたお陰で、こうして香澄の部屋で生活出来ているのだ。

 

『香澄ちゃん、ちょっといいかしら?』

 

「お姉ちゃん? どうぞ」

 

 

 同じ敷地内で生活してるが、真由美はあまり自分の部屋を尋ねる事は無かったのにと、香澄は首を傾げながら部屋に招き入れる。

 

「泉美ちゃんもいるわね。ちょうど良かった」

 

「私にもご用でしょうか?」

 

「それで、何の用なの、お姉ちゃん?」

 

「さっき巳焼島から連絡があって、水波さん、帰ってくるそうよ」

 

 

 真由美の言葉を理解するまで、双子は数秒要した。だが意味が解り次第にその事を実感し、思わず抱き合ってしまった。

 

「早ければ明日にも貴女たちに電話があるそうだから」

 

「そうですか――あら? 香澄ちゃんの話では水波さんはUSNAに連れ去られていたはずですが、誰が連れ戻してくれたのでしょうか? 司波先輩は今、大怪我で入院中でしょうし」

 

「「………」」

 

 

 その事を上手く説明できる自信がなかった真由美と香澄は、揃って泉美から目を逸らしたのだった。




最後の最後で上手く説明できななんて……

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