全てのごたごたが片付き、達也の周りに落ち着きが戻ってきたこともあり、達也は巳焼島から本土へと生活拠点を戻し、マンションと新居、そして巳焼島のローテーションで生活することとなった。とはいっても、週末は巳焼島で生活する以外は、以前と同じなのでさほど苦労はしていない。
「それで、何故リーナがこのマンションで生活しているのかしら? 貴女は新居に部屋があるのではなかったかしら?」
「仕方ないじゃないの。私の方のごたごたは、まだ落ち着いていないんだから」
「そうだったかしら? 貴女は正式にこちらで生活することを許されて、もう同胞狩りなんてしなくても良くなったんでしょう?」
「そっちでは落ち着いてるけど、私がアンジー・シリウスだったことを知っている日本軍の人たちが、何時私が日本に牙を剥くかどうか分からないからと四葉家に抗議したらしいわよ」
「そうなの?」
深雪はリーナではなく、背後に控えている水波に尋ねる。
「はい、そのように伺っております。真夜様より、暫くリーナ様をこちらで生活させて欲しいと頼まれております」
「それで今日のデートにリーナもついて来ているのかしら」
「私だって達也の婚約者だもの。同行しても問題は無いわよね? というか、何故わざわざ待ち合わせなどしたのかしら? 達也にこっちまで迎えに来てもらえば良かったじゃないの」
達也は巳焼島からこちらに戻ってくるので、部屋で待っていればそのままデートに出かけられるのだが、深雪は一度だけ待ち合わせをしてデートに出かけるというシチュエーションを体験したいと考えており、水波もまたそれに賛同した。
「達也様!」
「待たせたか?」
「いえ、今来たところです」
本当は三十分以上待っていたのだが、それは単純に深雪たちが早く来ただけであり、達也も約束の時間より早く到着している。入り込みにくい雰囲気に負けずに、リーナが達也に声をかける。
「ハイ、達也。所用は片付いたのかしら?」
「あぁ、だからそんなに心配しなくても問題は無いぞ」
「べ、別に心配なんてしてないんだから! 私はただ、達也が途中で島へ戻らなくてはいけなくなり、深雪の機嫌が傾くのが心配なだけで」
「あら、それはどういう意味かしら?」
「別に深い意味はないわよ。ただ深雪は達也が一緒にいてくれなくなったら機嫌が悪くなるでしょう? ただでさえ戦略級魔法に相当する魔法の遣い手なのだから、魔法を暴走させられたら大変だもの」
「正真正銘戦略級魔法師に貴女に言われたくないわよ。というか、私だって魔法を制御する力が上がっているのだから、そう簡単に暴走させたりしないわよ」
「あの、お二人とも達也さまが苦笑いを浮かべております」
「「あっ……」」
達也の前だということをすっかり忘れ、何時も通りに言い争いを始めた二人は、水波の言葉で我に返り揃って視線を逸らせる。そんな二人を見て――主に深雪だが――達也は優しい笑みを浮かべる。
「差し迫った危険は無くなったから、少しくらいは良いんじゃないか?」
「ですが、達也様を取り巻く状況はまだ完全に落ち着いたわけではありません。せっかく達也様がお時間を作ってくださったというのに、リーナとの言い争いでその貴重な時間を無駄にするなど」
「確かにそうよね。私たちの言い争いなんて何時だって出来るのだもの。今は、達也がせっかく時間を作ってくれたんだから、四人でデートを楽しみましょう」
「わ、私はあくまで護衛であって――」
「水波ちゃんだって達也様の婚約者になったのだから、そんな卑屈になる必要はないのよ? そもそも、水波ちゃんはUSNAで達也様の胸に飛び込んだんだから、今更一歩引く必要はないじゃない」
「そ、そのことは忘れてください!」
あの時はただただ達也に慰めてもらいたかっただけであり、邪な気持ちがあったわけではない。だが改めて他人に――深雪に指摘されると恥ずかしくなってしまうのだ。
「とりあえず行きましょうか。まずは、この間雫が教えてくれた美味しいお店にでも行きましょうか」
「その後は深雪が好きなケーキバイキングをやってるお店かしら? さっきまで熱心にそのお店のことを調べていたものね」
「リーナだって行きたいって言ってたじゃないの! というか、水波ちゃんの回復祝いも兼ねてのお出かけなのだから、ケーキは必要でしょう?」
単純に自分が食べたいと言い切れない深雪は、水波を隠れ蓑にして先ほどまでの行動を正当化する。水波もケーキは好きなので深雪の言い訳にツッコミを入れたりはしなかった。
「ところで、支払いはもちろん達也持ちよね?」
「何故そんなことを聞くんだ?」
「だって、日本人のデートは男性が全て払ってくれるのでしょう?」
「貴女、何時の時代の話をしているのよ……まぁ、達也様の資産なら問題なく払えるでしょうけども、必ずしも男性が支払いをするわけではないのよ」
「そうなの? まぁ、達也が女性に払わせるわけ無いでしょうけども」
自分で払わなくても良いと確認したので、リーナは心置きなく食事を楽しみ、その後のケーキバイキングでも深雪に負けないくらいケーキを楽しんだのだった。ちなみに、水波も初めは遠慮していたのだが、深雪とリーナにつられるように楽しんだのだった。
支払い全部男性持ちという考えは好きじゃない