劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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姉妹で雰囲気がだいぶ違う


IFルート 平河姉妹

 達也の事故を出先で知った小春は、急いで新居に帰ってきて顔を真っ青にしている千秋に声を掛けた。千秋は小春が帰ってきたことに気付いていなかったようで、暫くは反応を示さなかったが漸くその声に反応を示した。

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「千秋、詳しいことは何も聞いていないの?」

 

「聞いてないもなにも、誰も何も知らないはず……そもそもまだ向こうも落ち着いてないようだし、今電話しても詳しいことは聞けないって……」

 

 

 落ち着いた分析をしている妹に、小春は自分がそれだけ動揺していたのかと理解し深呼吸をする。一方の千秋も、実は自分の考えではなく先程真由美と鈴音が話しているのを聞いただけなのだが、訂正するだけの気力は残っていない。

 

「とりあえず落ち着いてから連絡した方が良いのは確かね。しかし、達也さんが襲われる理由って何なのかしら……」

 

「そもそもの問題として、あれは本当に事故じゃないの?」

 

「狙いがあからさまだったし、事故ではないと思う。そもそも警備船があんな事故を起こすとも考えられないし……」

 

「そうだよね……」

 

 

 まさかその警備船が反魔法主義思想の軍人が占めているとも、ましてや事故自体が四葉家のパフォーマンスだなんて考えもしない平河姉妹は、どうにかして達也の容態を確認できないかと巳焼島にいる深雪に電話を掛けようとしては、まだ早いのではないかと躊躇う。そしてそんなことを何十回か繰り返した後に、雫と真由美からとりあえずは大丈夫そうだという話を聞き安堵し、千秋は小春の部屋を訪れた。

 

「お姉ちゃん、とりあえず達也さんは大丈夫だって」

 

「私も七草さんから聞いたわ」

 

「北山さんたちは巳焼島にお見舞いに行くみたい」

 

「七草さんも、行くって言っていたわ。まぁ、北山さんの家は大富豪だし、七草さんは十師族の一員だから、巳焼島までの足を確保するのも簡単なのでしょうけども」

 

「私たち一般市民はなかなかヘリなんて用意できないもんね……」

 

 

 小春も千秋も、それぞれのヘリに乗せてと頼めるほど仲がいい相手ではないので、お見舞いに行くことは諦めている。それでも羨ましいと思ってしまう気持ちは、我慢出来なかった。

 

「とりあえずお見舞いに行った人に、達也さんの状況を尋ねることしかできそうにないわね……」

 

「結局は待つことしかできないんだね、私たちは……」

 

 

 四葉家に頼めば巳焼島に連れていってくれるかもしれないとも考えたが、自分たちが申し出たら他の婚約者たちも巳焼島に行きたいという気持ちを抑えられなくなり、結果達也に迷惑をかけるかもしれないと自重し、二人は巳焼島へ向かうメンバーを羨ましげに見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際は偽装入院だったと、新居に帰って来た達也から聞かされ、小春は安堵、千秋は憤慨する。

 

「達也さんの魔法を考えれば当然と言えば当然でしたけども、そんなことを考えられないくらい動揺してたんですから」

 

「というか、北山さんたちは知ってたんだよね? だったら教えてくれても良かったんじゃないの?」

 

「雫たちは四葉家の嘘を広める手伝いをしてもらっただけで、気持ち的には話したかったんじゃないか?」

 

「どういうこと?」

 

 

 冷静さを失っている千秋は、達也の言葉の意味が理解出来ずに喰ってかかる。小春は千秋を諫めようと口を開いたが、達也がそれを手で制して説明を始める。

 

「嘘を嘘として貫き通すには、嘘だと思われないようにする必要がある。四葉家の人間だけが言っていることは疑われたかもしれないが、まだ四葉家の人間ではない雫やほのか、四葉家と微妙な関係である七草家の人間である真由美さんが言えば、嘘に信憑性が出てくる。だから巳焼島に来たメンバーには本当のことを話して、嘘を広める手伝いを頼んだんだろう」

 

「つまり、私たちがお見舞いに行っていたら、私たちがその手伝いをさせられていたと?」

 

「恐らくはな。だから別に雫たちが特別だという訳ではない」

 

「そ、そんなこと考えてないし」

 

 

 明らかに動揺する千秋を見て、小春はクスッと笑みを零す。姉に笑われて恥ずかしかったのか、千秋はそっぽを向いて頬を膨らませる。

 

「それで、周りの目を誤魔化してまでしなきゃいけなかったことは、ちゃんとできたの?」

 

「完全とはいかなかったが、必要最低限の結果は残せた」

 

「私たちは達也さんの真の目的は知らないし、聞こうとも思わない。ですが、今後はあのようなことはしないと約束してください。本当に、生きた心地がしなかったんですから」

 

 

 千秋のように喰ってかかるようなことはせず、懇願するように告げる小春に、さすがの達也も罪悪感を覚える。小春以外にも似たようなことを言ってきた相手はいたが、小春程達也に罪悪感を抱かせた相手はいない。

 

「申し訳ありません。今後はあのようなことはないと思いますので」

 

「本当ですね?」

 

「恐らく、としか今は言えません……まだ巳焼島を狙っている連中とはケリがついていませんので」

 

「それってベゾブラゾフとかエドワード・クラークとかでしょ? 達也さんが相手にしなきゃいけない理由って何さ」

 

 

 千秋からの質問には答えず、達也はスッと遠くを見詰めた。その目を見て、近い内にまた騒動に巻き込まれてしまうのだろうと、二人は状況が落ち着くのはもう少し先だと覚ったのだった。




達也の勘は当たりそうだ

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