劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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忙しいから気にしちゃうよな


IFルート 雫の不満

 達也を取り巻くごたごたが一段落したということで、雫は達也を北山家へ招待した。父親である北山潮は出資者であるから達也の状態を知りたがるのは分かるが、達也のことをあまり良く思っていない紅音までもが達也を呼ぶように雫に言い渡したのだ。

 

「ごめんなさい、達也さん。まだまだ忙しいと思うのに……」

 

「気にするな。出資者として現状が気になるのは当然だろう」

 

「お父さんはまだ分かるんだけど、どうしてお母さんまで達也さんのことを呼ぶように言ったのか分からない」

 

 

 以前達也を家に招いた際に、紅音は達也に対して挑発ともとれる行為をしている。そのことが雫は気がかりなのだが、達也にとってあの程度の挑発は物の数には入らないので、あまり気にした様子はなかった。

 

「おー雫! 良く帰って来たな」

 

「お父さん……達也さんも見てるんだから」

 

「ん? ……やぁ司波君。今日はわざわざ出向いてもらって申し訳ないね」

 

 

 すぐに取り繕って見せたが、雫の顔は真っ赤に染まり視線を下に向けている。父親が何時まで経っても娘に溺愛しているのが恥ずかしいのだろう。

 

「お招きいただきありがとうございます、北山さん。それとも『北方さん』と申し上げた方がよろしいでしょうか?」

 

「ここには身内しかいないからね、北山で問題ないよ」

 

 

 達也は『北方潮』からの呼び出してここに出向いているのでそう確認したのだが、わざわざビジネスネームを使う必要は無いと潮は笑いながら達也の気遣いを不要と告げる。潮の後ろでは紅音が複雑そうな表情で達也の身体を全身隈なく調べているような視線の動きを達也は感じ取ったが、指摘するほどでもなかったので気付かなかったふりをした。

 

「それで、わざわざ自分をこちらに招いた理由をお聞きしても?」

 

「そう急かなくても……いや、今や君の研究は世界中の魔法師、また一部の非魔法師からも注目を集めているからね。その中心人物が何時までも現場を離れるのは考えものか」

 

 

 ゆっくりしていけと言おうとして、すぐに現状を考えて悠長にしている場合ではないと結論付け、潮は早速本題に入る事にしたようだ。

 

「前の事故――と一応言っておくが、あの原因は君の研究を妨害したい連中が差し向けたテロではないかと、出資者の間でまことしやかにささやかれているのだが、その点の調査はどうなっているのか、それを聞きたくてね。君の家のことだから、既に裏は取ってあるんだろう?」

 

「そう言うことでしたか。これは他言無用でお願いしたいのですが」

 

 

 達也は潮にあの事故の裏側を説明する。本来であれば四葉関係者ではない相手に話す内容ではないのかもしれないが、出資者であり雫の両親なら言いふらすことはしないだろうと考えて、嘘偽りなく話すことにしたのだ。もちろん、真夜からの許可は貰っている。

 

「――ということです」

 

「なるほどな……だが、一歩間違えれば大怪我を負っていたわけだが、雫を悲しませる結果になるとは考えなかったのか?」

 

「その点はお嬢様から聞いてください」

 

「……なるほど。雫は何か知っているようだね。なら、私はそれで十分だ」

 

 

 結局紅音は一言も発することは無かったが、彼女の用件は達也の無事を確認するというものだったので、達也が北山邸に到着した時点で既に用済みだったのだろう。

 

「ごめんなさい、達也さん。電話でも済むような話だったのに……」

 

「雫が謝る必要は無いだろ。それに、娘の心配をするのは父親として当然だと思うが」

 

「いくら何でも過保護すぎる……」

 

 

 帰りの車の中でも、雫は父親の熱烈歓迎を思い出して俯いてしまう。普段から大袈裟なリアクションを見せる父だと分かっていたのだが、あそこまで激しい出迎えは数える程度しかなかったのだから恥ずかしく思っても仕方がなかったのだ。

 

「お母さんは結局何も話さなかったし……」

 

「俺の無事を自分の目で確かめたかったのだろう。あれだけの事故があったわけだから、普通なら無事で済むはずがないからな」

 

「さすがに達也さんの魔法のことを話すわけにはいかないしね。でも、お父さんは何となく勘付いてるようだけど」

 

 

 さすがに『再成』のことは知らないだろうが、達也が何らかの魔法で傷を無かったことにしたということには勘付いているようだと、雫はそう感じていた。

 

「まぁ、忙しい達也さんの時間を少しでももらえて良かったよ。また暫く会えなくなりそうだし」

 

「まだすべてが片付いたわけじゃないからな。むしろ、これからの方が忙しいだろう。新戦略級魔法のことでも、マスコミが落ち着いたわけでもないし」

 

「まったく……達也さんの研究の重大性が分かっていない人間が大勢いるせいで、達也さんとの時間を確保できなくなってるのが腹立たしい」

 

「雫でもそんなことを考えるんだな」

 

 

 達也は少し意外そうに雫を見詰める。ほのかならそう考えていても不思議ではなかったが、普段感情の乏しい雫がはっきりと言い切ったのが意外だったのだ。

 

「当たり前。私は本気で達也さんのことが好きで、少しでも長く一緒に居たいと思ってるんだから」

 

 

 先ほどとは比べ物にならないくらい顔を真っ赤にしながら告げる雫に、達也は柔らかい笑みを浮かべて彼女の頭を撫でる。初めは驚いた表情を浮かべた雫だったが、徐々に甘えるように頭を傾け、そのまま達也の胸に頭を押し付けるのだった。




恥ずかしくてもしっかりと自分の気持ちは言った方が良い

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