劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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妄想くらいは可愛いもの


IFルート 水波の妄想

 巳焼島で一通りの診察を受けたが、魔法演算領域に負ったダメージの影響はなくなっているという達也の判断と同様の結果を受け、水波は一先ず安堵した。

 

「(現状では魔法を使うことができなくなっているようですが、達也様が人工魔法演算領域を私の中に創ってくださるということですので、深雪様のガーディアンとしての職務も続けることができそうです)」

 

 

 既に達也の婚約者に昇格しているので、深雪のガーディアンを辞めたとしても二人の側に居続けることができるのだが、水波は達也を取り巻く状況が落ち着くまでは深雪のガーディアンとしての務めを全うしたいと考えている。

 

「(達也さまと言えば私、達也さまの胸に飛び込んで泣きじゃくったんでした……)」

 

 

 その時のことを思い出して、水波は自分の頬に熱が集まっているのを感じた。その時は達也の目の前で泣きじゃくったことが恥ずかしくて赤面したと自分を誤魔化せたのだが、今はそのような理由では誤魔化せないくらいに、達也への想いが抑えられなくなっている。

 

「(達也さまの胸に飛び込むだなんて、深雪様でも数える程度しかしていないというのに……愛人扱いであった私がそのようなことをしたと深雪様に知られたらお叱りを受けるかもしれませんね……)」

 

 

 水波は自分の行動を他人に言いふらすような趣味は持っていないし、自分のしたことを自慢して悦に浸るような性格でもない。だがその時のことを思い出して頬が緩んでしまうのは、どうしても抑えられなかった。

 

「水波、随分と嬉しそうだが」

 

「た、達也さま……な、何でもございません」

 

「そうか。診察結果は貰って来たんだろう?」

 

「はい。達也さまの仰る通り、演算領域のオーバーヒートはとりあえず収まったと言って良いようです。ですがこちらも達也さまの仰った通り、現状で魔法を使うことはできないようですので、魔法師としての生命は終わったと考えるべきだと言われました」

 

「やはりか……俺の見間違いなら良いと思ったんだがな」

 

「達也さまが見間違えるはずもないでしょうし、私自身も現状で魔法を使えるとは思っていません。魔法を行使する感覚が思い出せないのです」

 

 

 水波の魔法演算領域は完全に封印されているのか、魔法を行使しようとしてもその感覚が思い出せない。パラサイト化したのかという不安も、達也の『精霊の眼』のお陰で懐かずに済んでいるので、水波は現状に何も不満は無かった。

 

「人工魔法師手術は、もう少し待ってもらうことになるが、その間水波は深雪のガーディアンではなく付き人という扱いになる」

 

「それに不満はございません。むしろ調整体魔法師としての存在意義がなくなった私を側においてくださるだけで満足ですので」

 

「……水波のお陰で、俺はUSNAの中枢とのパイプを手に入れたし、四葉家としても大きな利益につながるだろう。既に母上からの褒美は貰っているようだが、俺個人からも水波に何かしてあげたいと思っているのだが、何か希望は無いか?」

 

「達也さまからのご褒美、ですか……?」

 

 

 達也の婚約者として認めてもらっただけで十分な褒美だと水波は考えていたのだが、まさか達也個人からも褒美がもらえるなんて完全に想像していなかったので、水波は咄嗟に希望を言うことができなかった。

 

「(達也さまからご褒美をいただけるだなんて……何処まで願って良いのでしょうか?)」

 

 

 水波は以前達也の半裸を見てしまった時に、達也に躾けてもらいたいという願いを自分が懐いていることに気付いてしまっている。それ以降度々達也に躾けてもらう妄想をして暇をつぶすことがあったのだが、それを実現できるチャンスなのではと考えて、すぐに頭を振る。

 

「(そんなことを願えば、私がメイドとしてあるまじき願いを主に懐いているということが達也さまや深雪様に知られてしまう……ですが、ダメメイドであることを知られれれば、それはそれで躾けてもらえるのでは? ……ダメダメ! そんなことを願っては、達也さまを困惑させてしまう)」

 

 

 達也は同年代の男子と比べても、そういった知識に乏しい方である。強い感情を懐けなくなっているのだから仕方がないのかもしれないが、それを加味しても異性に興味が薄いと水波は感じている。

 

「そ、それでは私のお菓子作りの試食をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「水波は十分にお菓子作りも上手いと思うが」

 

「ガーディアンとして働けなくなってしまった以上、メイドとしてできることを増やしたいと思いまして。それで、レシピを増やそうと考えていましたので、達也さまには新作の試食をして忌憚ない意見をいただけたらと思いまして」

 

「その程度であればお安い御用だ。時間を見つけて声をかけてくれれば、その都度付き合おう」

 

「お願いいたします」

 

 

 達也から快諾を貰い、水波は一礼して達也の側から逃げるように立ち去る。

 

「(もし本気で願えば、達也さまは私のことを躾けてくださったのでしょうか?)」

 

 

 水波の思考は既にそれしか考えられなくなっていたので、一刻も早く達也の前を辞して妄想を楽しみたかったのだ。達也はそんな水波の内情も見透かしていたので、早足で遠ざかる水波の背中を、苦笑いを浮かべながら見詰めたのだった。




ちょっとアブノーマルですけどね……

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