劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

2136 / 2283
今年に入って何度目だ…


IF世界 巳焼島来訪

 達也が水波を連れてUSNAから帰って来た翌日、巳焼島には四葉分家から達也の見舞いという名目で人が来ることになっていた。表向きには次期当主の見舞いに見えるので不自然さはないだろうが、何故このタイミングでと問われたら少し言い訳が苦しいと深雪は感じている。

 

「達也様、何故亜夜子ちゃんと夕歌さんがここにやってくるのでしょうか? 本家への報告は勝成さんがしてくださっているので、確認しに来る意味は無いと思うのですが」

 

 

 深雪のセリフは、彼女の本音であることには変わりないのだが、百パーセント本音を言っているというわけではない。彼女の本音は、この島に自分と水波、そしてリーナ以外の達也の婚約者が来ることが気に入らないだけなのだが、それを正直に言うような性格はしていないので、それらしい理由で疑問を呈しているのだ。

 

「次期当主が入院したのに、本家から誰も来ないのも問題だと母上が許可してのことだ。彼女たちに何か考えがあるのかもしれないし、母上が選んだだけなのかもしれない。その辺りは本人たちに確認するしか知りようがないからな」

 

「そうかもしれませんが……ですが、巳焼島の現状を考えれば、四葉関係者をこれ以上ここに集結させるのは逆効果になると思います。ただでさえ国防軍の一部の人たちが、この島に駐留軍を置くべきだと主張しているというのに」

 

「あの二人は戦闘員ではないから、刺激することにはならないと思うが。そもそも俺と深雪がいれば、大抵の敵なら対応できるだろう?」

 

「達也様に頼っていただけるのでしたら、深雪はどのようなことでもする所存です」

 

 

 実際達也一人でも大抵の敵なら片が付くだろうが、ここで深雪も含めることで彼女の機嫌を取っておくほうが、二人が来た時に落ち着いて対応してくれるだろうと達也は考えたのだろうと、同席している水波はそう感じた。

 

「達也さま、間もなくお二人を乗せたヘリが到着するとの連絡が」

 

「分かった。さすがに出迎えはできないので、深雪とリーナに任せる」

 

「かしこまりました」

 

「何で私が……って、達也が公に姿を出せるようになるまでは、私が深雪の護衛だったわね」

 

「依頼を忘れたわけではないと分かって安心した」

 

「リーナ、貴女達也さまの代役としての自覚が足りないのではなくて? 家の中でなら別にいいけど、外に出る時に護衛として働かないと、貴女ただの穀潰しなんだからね?」

 

「その言い方は止めてって言ってるじゃないの! ちゃんと付き添うから安心してよね!」

 

 

 二人が言い争いながらヘリポートへ向かうのを見送って、達也は苦笑いを、水波は心配そうな表情を浮かべる。本音を言えば水波が付き添いたかったのだが、達也が体調面を考えてリーナに行かせたということが理解できているので、出しゃばらずに見送ったのだが、リーナで大丈夫なのだろうかという不安が、水波の心を支配していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巳焼島に到着した亜夜子と夕歌は、出迎えが深雪とリーナであることに少しがっかりした様子だったが、この島の周辺にいるマスコミや軍関係者のことを思い出し、すぐに当然かという表情になる。

 

「夕歌さん、亜夜子ちゃん、達也様の為にご足労戴きありがとうございます」

 

「お礼は必要無いわよ、深雪さん。私たちは分家の人間であり、達也さんの婚約者。むしろ今日までお見舞いに来られなくて申し訳なく思っているわ」

 

「それで、達也さんの容態は如何なのでしょうか?」

 

「詳しい話は移動しながら話しましょう。ここで話すような内容でもありませんし」

 

 

 深雪が先頭を歩き、その後に夕歌、亜夜子と続き、リーナが殿を務める。後方から襲いかかってくるような敵はいないのだが、この布陣が一番安全だとリーナが考案し、深雪もそれを採用しての格好だが、夕歌も亜夜子も特に不満もなくこの並びを受け容れた。

 

「この地下通路なら問題ないわね。それで、達也さんはUSNAから無事に戻ってきたのね?」

 

「はい。今は水波ちゃんと一緒に部屋で待ってもらっています。さすがに達也様ご自身が出迎えをするわけにもいかなかったので、私とリーナが代理を務めました」

 

「達也さんの実力なら何も問題なかったとは思いますが、勝成さんからの報告を聞く限り、随分と手加減された様子ですわね」

 

「さすがにUSNAと全面戦争するわけにもいかないでしょうから、この結果は妥当だと思うけど。深雪さんはどう思うかしら?」

 

「私も夕歌さんと同じ意見です。そもそもの目的は水波ちゃんの奪還、そしてワイアット・カーティス上院議員からの依頼の達成ですから」

 

 

 順番的にはカノープス救出の後に水波を奪還したのだが、あくまでも深雪の中では水波の奪還が重要であり、カノープス救出はオマケでしかないようだ。

 

「スターズ総隊長として、貴女はどんな気持ちかしら?」

 

「ベン――カノープス少佐を救出してくれたので、監獄が機能停止になったということには眼を瞑りますし、パラサイトを葬り去ってくれたことはこちらとしてもありがたいことだと考えます。というか、私は既にスターズ総隊長ではないのですけども」

 

 

 表向きには発表されていないだけで、リーナは既に退役したのだ。リーナの指摘に、夕歌は「そういえばそうだったわね」と言いたげな表情で小さく頷いた。




完結までしっかりしなくては…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。