劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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普段はする側ですけど


エリカへの訊問

 達也が運転する車で帰って来たエリカは、運悪くその場面を見ていた雫とほのかから訊問を受ける羽目になってしまった。

 

「どうしてエリカが達也さんと二人きりでドライブに出かけてたわけ!?」

 

「場合によっては他の婚約者全員を招集する必要がある」

 

「そんな大事にしないでよね!? あたしはただ、美月に付き添って欲しいって言われてデートの待ち合わせ場所に行って、そこに達也くんがミキと現れて、その帰りにこっちに寄る用事があるから乗せてもらっただけよ! そもそもあたしを訊問する前に深雪でしょうが! あの子は達也くんと空のドライブを楽しんでるんだから」

 

「確かにエリカが言いたいことも分かるけども、深雪と張り合っても無駄だから」

 

 

 雫のどこか口惜しそうな雰囲気に、エリカもそれ以上何も言えなくなってしまう。立場だけを見ればここにいる全員と深雪は同じなのだが、達也が全員を同じように扱っているかと言われれば否だ。達也に残されている感情で、異性に対する感情よりも深雪に向けられる愛情の方が強いのだから仕方がないのかもしれないが、それでも深雪が優遇されていると感じてしまうのは、それだけここにいる全員が達也のことを想っているという現れかもしれない。

 

「というわけで、あたしは抜け駆けしたわけじゃないし、ほのかたちに責められる謂われはないの!」

 

「それでも達也さんと二人きりでドライブというのは羨ましいって思っちゃうのは仕方ないでしょ。私たちは達也さんとお喋りする暇すらないんだから」

 

「それは達也くんの現状を考えれば仕方がないじゃないのよ。あたしだってろくに話せてないんだから」

 

 

 確かに達也と二人っきりの状況だったが、エリカは盛大に照れてしまいろくに達也と話せていない。だがそれでも雫やほのかから見れば羨ましいことには変わりはないのだ。

 

「兎に角エリカは抜け駆けしたんだから、今後達也さんに余裕ができてきた時には少し我慢してもらうことになるからね」

 

「なんでよ! ほんとに偶々達也くんと会って、同じ場所に向かうから送ってもらっただけなのに」

 

 

 雫から無慈悲な宣告を下され、エリカが声を荒げたタイミングで達也が部屋から出てきた。

 

「何をさっきから騒いでるんだ?」

 

「達也くん、二人に説明してよ」

 

「何を?」

 

 

 急に説明しろと言われても、達也には何故エリカが二人から責められているのか分からない。なので達也のこの態度は恍けたとかではないのだが、エリカは達也がこの状況を楽しんでいるのではないかと疑いを持った。

 

「達也くん、あたしが二人に責められているのを見て楽しんでるの? あたしはただ、偶然達也くんと会ってここに帰って来ただけなのに!」

 

「達也さん、本当に偶然だったの?」

 

「あぁ。俺は幹比古に用事があったから車で吉田家へ向かい、美月とデートだというからその近くまで車で送り、聞きたいことを教えてもらったお礼にお茶でも奢ろうと入った店が待ち合わせ場所で、先に美月とエリカがいたというだけだ。そしてこの家に用事があったからエリカも乗せて帰って来ただけで、エリカと待ち合わせをしていたわけじゃないんだから、完全に偶然だ」

 

「ほらぁ!」

 

「……達也さんがそう言うなら偶然なんだろうけども、それでもエリカが羨ましいのには変わりないから」

 

「ところで、エリカは何で二人から責められてるんだ?」

 

「あたしが達也くんとドライブデートをしたって二人が言い掛かりをね……純粋に送ってもらっただけで、それ以上のことなんてなかったって言っても信じてもらえなくて」

 

 

 自分で言っていて情けないのか、エリカの語気は徐々に弱くなっていき、最後の方は聞き取るのに苦労するくらいだ。だが達也は読唇術を使えるので音として聞こえなくても何を言ったのかは理解できるので問題は無かった。

 

「エリカとは特別何かをしたという訳でもないんだし、二人ともそれくらいで勘弁してやってくれないか? 今度時間ができたら、二人も乗せるから」

 

「約束ですよ! 二人同時じゃなくて、個々にお願いしますからね!」

 

「あ、あぁ……約束しよう」

 

 

 想像以上のほのかの喰いつきに、さすがの達也も圧倒されてしまう。雫の方もほのかのように身を乗り出して喰いつくということはしなくても、顔は嬉しそうにしている。

 

「って、達也くん……もう巳焼島に帰っちゃうわけ?」

 

「元々余裕があるわけじゃなかった研究に横槍が入ってしまったからな。今は一分一秒でも早く巳焼島に戻り、後れを取り戻す必要がある」

 

「達也さんが悪いわけじゃないって分かってるんですけど、それでもなるべく早く帰ってきてくださいね? 約束ですからね!」

 

「ほのか。達也さんだって好きで忙しくしてるわけじゃないんだし、あんまり迫るのは可哀想。達也さん、無理はしないで」

 

「あぁ、分かっている」

 

「それじゃあ達也くん。早く帰った方が良いよ? そろそろ七草先輩とかが帰ってくるから」

 

「そうだな」

 

 

 この場に真由美が加われば、ますます巳焼島へ帰る時間が遅くなると達也も思ったので、彼は引きつった笑みを浮かべて新居を後にした。乗って来た車で四葉ビルに向かい、そこから巳焼島へ向かうのだろうと、エリカは遠ざかる車を見詰めながら寂しさに蓋をしたのだった。




誤解も解けて一安心……?

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