劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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最近ドラクエの曲を流しながら作業してるな


達也と潮

 北山邸に到着した達也は早速、潮との面会に臨んでいる。その間雫とほのかは別室で待機しているのだが、その部屋には何故か紅音が同席している。

 

「お母さん、何か用事?」

 

 

 紅音の性格を考えれば、こちらではなく達也と潮の話し合いの場に同席すると思っていた雫は、小首を傾げながら紅音にそう尋ねる。

 

「今回の件、裏で反魔法思想主義者たちが糸を引いているという噂があるのだけども、貴女たちはどう思うか聞いておきたくて」

 

「何故あのタイミングで反魔法主義者が達也さんを襲うの? 今達也さんを襲えば魔法師ではない人たちからもバッシングを受ける可能性だってあるのに」

 

 

 雫の言うように、達也の研究は魔法師だけでなく、魔法師ではない人間にも有益な結果をもたらすことが期待されているものだ。それを邪魔すれば魔法師からだけでなく、そうではない人たちからも非難を浴び、反魔法主義が間違っているのではないかという流れにつながりかねない。

 

「でも司波達也くんを襲った船は国防軍の中でも、反魔法主義思想が強いグループに乗っ取られたものだというのが、国防軍の正式発表。もしそれが本当なのだとすれば、貴女たちが狙われる可能性だってあるじゃないのよ。あの新居が特定でもされたら、あの場所は安全ではなくなるわ」

 

「考え過ぎ。あの場所は四葉家が管理している場所だから、関係者以外は入れないし、パスを持たずに入ろうとすれば、すぐに防犯システムが作動して地下牢行きだって聞いてる。現にマスコミたちもあの家のことは知らないだろうし、知っていたとしても突撃はしてこないと思うよ」

 

 

 魔法師ではない人間たちにも、十師族くらいは知っている。その中でも四葉家が特に危険だということは、知らない人間はいないだろうというくらいに。その四葉家が管理している場所に、好き好んで突撃するような人間は、命を粗末にしていると言っても過言ではないだろう。

 

「でも――」

 

「小母さん。私も雫も、自分たちの意思であの場所で生活し続けているんです。たとえどんな危険が迫ってくるとしても、達也さんと一緒にいたい。それが私たちの気持ちだから」

 

「ほのかちゃん……」

 

 

 紅音はほのかの依存癖を知っている。だからまた達也に依存しているだけなのではないかと疑っていたが、今のほのかの目からは力強い意思が伝わってくる。単に依存しているだけではなく、本気で達也のことを好いている、その気持ちが紅音にも伝わる。

 

「……分かったわ。でも、万が一危険が近づいていると分かれば、貴女たちの意思を無視してでもこちらに戻ってきてもらうから」

 

「分かったよ、お母さん」

 

 

 さすがにこれ以上紅音の言い分を突っぱねれば、自分とも対立する形になってしまうかもしれないと思った雫は、最大級の譲歩で納得するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅音と雫たちがそのような話し合いをしているのと同時刻、達也は潮に入院から退院までの経緯を説明していた。

 

「――つまり、君の研究に反対な連中の仕業ではなく、反魔法主義者の暴走というわけだね?」

 

「詳しく訊問する前に自害してしまったようですので、詳しいことは分かりませんが、本家からの報告ではそのような話だったと」

 

 

 実際は真夜が操って国防軍の印象を下げる目的だったのだが、そのことを馬鹿正直に話す達也ではない。もしあの事故がやらせで、達也に危害がなかったとバレたら、入院していたとされる期間何をしていたのかという疑問が潮から投げ掛けられる。その疑問に答えるわけには、さすがに行かないのだ。

 

「しかし、あれだけの事故だったというのに、短期間の入院で済んだのは不幸中の幸いだと言えるだろうね。それだけ四葉の息が掛かっている医療従事者が優秀だと言えるのかもしれないが」

 

「ご心配をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。他の出資者の方々にも説明しなければいけないのでしょうが、何分今回の事故の所為で研究に遅れが出始めているので、後日書面で連絡しようと思っていたのですが……北山さんには多大なるご心配をお掛けしてしまったようでして」

 

「いやいや、娘の婚約者でもあるからね。君に何かあれば私だけではなく、娘もかなりショックを受けることになる。それが心配なのだよ、私は」

 

 

 潮の親バカっぷりは達也も知っている。前にほのかの恋路を応援する為に別荘に招くくらいのことは平然とやってのける男だ。

 

「今や君は日本の――いや、世界中の研究者が注目する男だ。恒星炉だけではなく、新戦略級魔法師の共同開発者としても、その名を轟かせているのだから」

 

「その点は非常に不本意ではあるのですが……」

 

「まぁ、君とすればマスコミの目を一条将輝君と吉祥寺真紅郎君の方へ向けたかったのだろうがね。それならしっかりと吉祥寺君に口止めしておけばよかったではないか」

 

「彼は俺のことを敵対視していますから、馬鹿正直に話すはずはないと思っていたのですがね……想像以上に馬鹿正直な人間だったようです」

 

 

 達也が苦笑いを浮かべながらそう言うと、潮も楽しそうに笑う。この二人の会談は、終始穏やかな空気で終了したのだった。




欠点は、ドラクエやりたくなっちゃうことか……

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