劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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普段からしてそう


深雪の妄想

 達也との買い物を楽しんだ深雪だったが、どうしても水波の様子が気になってしまう。達也や医師が問題ないと診断しているので急に具合が悪くなることはないと理解しているのだが、光宣に連れ去られた時のことが頭を過ってしまうのだ。

 

「水波ちゃん、大丈夫かしら?」

 

「無理に魔法を使おうとしない限り、容態が急変することはないだろう」

 

「達也様がそう仰ってくださっているので安心できるのですが、私は自分で水波ちゃんの様子を見ることができませんので、どうしても気になってしまうのです。また光宣くんみたいに水波ちゃんを連れ去る輩が現れないとも限らないですし……」

 

「水波の情報は何時でも『視』ることができる。たとえ連れ去られたとしても、光宣の時みたいに捜索に苦労はしないだろう。もちろん、水波を連れ去られることなどさせないが」

 

 

 水波は現在、四葉本家にて安静にしている。本人の希望は達也や深雪の側に仕えることだったのだが、深雪が数日は大人しくしていて欲しいと願ったので、四葉本家で安静にしているのだ。見方を変えたら謹慎処分を下されたようにも見えなくは無いが、深雪にそのような意思は無いし、水波の方もそこは勘違いしていない。

 

「達也様が水波ちゃんのことを常時『視』ているのは気になりますが、達也様がそう仰るのでしたらとりあえず気にしないようにします」

 

「連れ去られた時は常時『視』ていたが、こちらに戻ってきてからはそうではない。水波だって常に『視』られていたら気が滅入ってしまうだろうからな」

 

「そうでしょうか? 達也様に常に『視』られているのなら、私なら常に綺麗でいたいと思ったり、恥ずかしい失敗はできないと気合いが入ると思うのですが」

 

「では、試してみるか?」

 

 

 そう言うと達也は、深雪を見詰めだす。まさか肉眼で見詰められるとは思っていなかった深雪は、数秒で達也から視線を逸らして頬を赤らめてしまう。

 

「……やはり達也様に常に見詰められていたら恥ずかしいです。達也様、私が間違っていました」

 

「ちょっとした冗談だったのだが、思ってた以上に顔を赤らめたな……そんなに俺に見詰められたくないのか?」

 

 

 普通なら達也のことが好きすぎて直視できなくなったとか、ポジティブな思考をしそうなシチュエーションなのだが、達也のセリフは実にネガティブだ。普段から物事を悪い方向に考え、それをどう解決するか考えている弊害なのかもしれないが、この勘違いに深雪は先程とは別の意味で顔を真っ赤にする。

 

「どうしてそう思われたのです!? 私は達也様のことを心の底から愛しているというのに……そのことは達也様もご理解していただいていると思っていたのですが」

 

「いや、すまない……あまりにも勢いよく視線を逸らされたからな……」

 

「誰だって達也様に見詰められたら恥ずかしくなって視線を逸らします。しかもあのように至近距離から穴が開くほど見詰められれば……」

 

「悪かった」

 

 

 達也に悪意など無かったのだが、頬を赤らめて涙目で抗議してくる深雪にそう応えることしかできない。深雪の方も嬉しさと恥ずかしさが同居したような視線を達也に向けながら、自分の気持ちを落ち着かせる為に達也を責めているに過ぎないので、彼女の抗議はそれ程長くは続かなかった。

 

「達也様、他の婚約者には先程のようなことはしないでくださいね」

 

「あぁ、するつもりは無い」

 

「もちろん、誰がされても不快な思いをするということはないでしょうが、今以上に達也様の魅力に呑まれてしまうでしょうから」

 

「そんなものか?」

 

「達也様は自己評価が低すぎるのが玉に瑕ですよね。もっとご自身に自信を持たれては如何でしょうか? 達也様はいろいろな意味で特別な方なのですから」

 

 

 深雪が濁した部分は、戦略級魔法の遣い手であり開発者、加えて世界中が注目するプロジェクトの中心人物であり、世界中の魔法師の敵となれる存在。周りの耳を気にして言えなかったことだが、達也にはしっかりと伝わっていた。

 

「深雪がそう言うのであれば、もう少し考えを改めよう」

 

「その方がよろしいかと。一条君や吉祥寺君のように自信満々になるのは考え物ですが、達也様は誰にも真似ができないような実績をお持ちなのですから」

 

「アイツらだって十分な実績があると思うのだが」

 

「達也様と比べればあの二人の実績など無いに等しいと言っても過言ではないと思います」

 

 

 将輝や吉祥寺の実績は世界から認められている程のものなのだが、深雪からしてみれば大したこと無いらしい。もちろん深雪にも将輝や吉祥寺の実績は理解できているのだが、それ以上に達也の方が凄いと彼女は感じており、それが事実だと信じているのだ。

 

「深雪がそう言うのであれば、もう少し自分のことを評価するようにしてみよう」

 

「……いえ、達也様はやはりこのままでよろしいと思います。もし達也様が自信を持たれてしまったら、今以上に達也様に夢中になって自分を抑えられなくなりそうで怖いです」

 

「深雪はどんな俺を想像したんだ?」

 

 

 達也からすれば、この質問は純粋にどんなことを考えたのかを尋ねるものだったのだが、深雪からすれば、達也が自分の妄想内容を理解して意地悪で質問してきているように思え、彼女は顔を真っ赤にして俯いたのだった。




達也が自信を持ったらヤバそうだ……

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