劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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よく総隊長が務まってたよな……


リーナのうっかり

 達也が部屋から食堂にやってきてすぐ、水波に呼ばれたリーナも顔を出した。本来ならリーナも手伝うべきなのだろうが、彼女は料理が得意ではない。何度か手伝おうとしたが、深雪から戦力外通告をされてしまい、無理に手伝うことは諦めたのだ。

 

「それにしても、USNAから飛んで帰って来たっていうのに、達也は全然疲れた様子が無いわね。どれだけの想子保有量なのよ」

 

「リーナだって、それくらい出来るんじゃないか?」

 

「できるわけ無いでしょ!? というか、十時間も魔法を行使し続けられる魔法師なんて、USNAでもいるかどうか分からないわよ……」

 

「そうなのか?」

 

「達也様程の想子保有量の魔法師が他にいるとは思えませんし、リーナが達也様の真似をできるとも思えません」

 

「自分でできないって言ったから仕方ないけど、人に言われるとイラっとするわね……」

 

 

 深雪の言葉に少しイラっとしながらも、リーナはそれ以上文句を言うこと無く食事を進めていく。初めて日本に来た時は少し苦戦していた箸も、今ではぎこちなさを感じさせない程度に使いこなしている。

 

「というか、飛行魔法ってかなり疲れる魔法よね? それを十時間も連続で行使し続けられるって、やっぱり開発者だから?」

 

「別に開発者だからということは関係してこないと思うが。それが関係してくるのであれば、大抵の魔法は作った人間が一番上手く使えるということになってしまうが」

 

「リーナのブリオネイクは、リーナ以外には使えないんでしょ? でもその魔法はリーナが開発したわけじゃないんだし、必ずしも開発者だから使えるわけではないって分かりそうなものだけど」

 

「……さっきから深雪の言葉に棘を感じるのは、私の気のせいかしら」

 

 

 さすがのリーナも、深雪にバカにされていることには気付けている。だが何故深雪が攻撃的なのかが分からないので、無闇に喰ってかかることをしていないのだ。その辺りは大人な対応だと言えなくもないが、深雪に確認してしまう辺り、やはり詰めが甘いのかもしれない。

 

「そんなことはないわよ。というか、リーナはこの後どうするの?」

 

「とりあえずUSNA軍を正式に除隊して、日本でスクールライフを楽しみたいとは思ってるのだけど、軍の中枢部がパラサイトに侵されている以上、一度ステイツに戻る必要はあるでしょうね」

 

「そもそも達也様と婚約して日本に帰化した時点で正式に除隊していれば、こんな面倒なことにはならなかったんじゃないの?」

 

「仕方ないでしょ! 私だってそうしたかったけど、戦略級魔法師がそう簡単に国籍を変更できるわけがないでしょうが!」

 

「ましてリーナは国家公認戦略級魔法師だからな。USNA軍がごねるのも仕方がなかっただろう」

 

 

 達也がリーナの援護射撃をしたお陰か、それ以上そのことで深雪にとやかく言われることはなくなった。だがそれでも険悪な雰囲気が流れていると、同席している水波の不安は払拭されていなかった。

 

「達也様、お代わりは如何でしょうか」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「達也って食べるの早いわよね。それでいて不快に感じないのは、やっぱり育ちが良いから?」

 

「俺は別に育ちが良いわけではない」

 

「でも四葉の御曹司なんでしょ?」

 

「リーナ……貴女、婚約した際に叔母様から受けたご説明、ちゃんと聞いていなかったでしょ」

 

「な、何でそう思うのよ」

 

 

 深雪の機嫌が一気に傾いたと、リーナにも感じ取れている。だが何故いきなり深雪の機嫌が悪くなったのか、それが分からない。

 

「達也様の幼少期のお話をしっかり聞いていれば、さっきのような言葉は出てこないでしょうし」

 

「達也の幼少期……あっ」

 

 

 深雪に言われて漸く思い出したのか、リーナはバツが悪げな表情で達也から視線を逸らした。達也はそのことを気にしてはいないのだが、深雪が過剰に反応している所為で、リーナは居心地の悪い思いをし続けている。

 

「わ、私先に失礼するわね! 深雪、水波、ご馳走様!」

 

 

 逃げるように食卓から立ち去ったリーナを視線で追いかけていた深雪だったが、すぐに彼女の視線は達也に向いていた。

 

「達也様、リーナが無神経なことを……後で叱っておきます」

 

「別に気にする必要は無いだろう」

 

「ですが……いえ、達也様がそう仰るのでしたら」

 

 

 まだ何か言いたげな深雪ではあったが、彼女の中では達也の言葉は絶対である。達也の言葉に逆らうなど深雪の中では余程の覚悟が無ければできることではない。

 

「水波ちゃん、後で叔母様からリーナに注意していただくよう進言したいから、付き合ってくれないかしら」

 

「かしこまりました」

 

「母上を出す必要は無いと思うんだが」

 

「達也様を侮辱する行為は、許されることではありませんから」

 

「リーナのあれはうっかりだろう? アイツが何処か抜けているのは、深雪だって知っているはずだ」

 

「そう…ですね……ですが、もう一度釘を刺しておくべきだとは思いますので、叔母様は兎も角私からきつく言っておきます」

 

「まぁ、それで深雪の気が済むのなら……好きにするが良い」

 

 

 これ以上深雪を宥めても効果は無いだろうと感じた達也は、やり過ぎない程度ならと条件を付けて、深雪の自由にさせることにしたのだった。




深雪を怒らせることはうっかりではすまない……

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