劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

2111 / 2283
内容が内容なだけに……


水波へ説明

 水波が何を考えたのか、深雪は手に取るように理解できた。深雪は達也ほど相手の表情から考えを読み取る力に長けているわけではないが、今の水波の表情はそれ程分かり易かったのだ。

 

「水波ちゃんの心配はもっともだけども、今回得た新しい後ろ盾は、スポンサーとは別口よ」

 

「別口……ですか?」

 

「今回水波ちゃんを救出する際に日本からの出国を手助けしてくれたUSNAの艦船――もっと言えばその艦船を動かした上院議員が、達也様の新しい後ろ盾よ」

 

「ですが、USNAの人間が達也さまの後押しをしてくれた理由は何なのでしょうか? USNAはむしろ、達也さまの自由を制限したい側だと思うのですが」

 

「確かにディオーネー計画に関わっている人間は、達也様の自由を無くしたいと思っているでしょうけども、今回はあちら側にも十分な益があるのよ」

 

 

 水波の不安げな表情を受けて、深雪は何時も以上に優しい表情、優しい口調で水波に話しかける。水波は自分の所為で達也に不必要な縛りを与えたのではないかと怯えているようなので、深雪はその勘違いをゆっくりと解消することに決めたのだ。

 

「今回水波ちゃんが入院していたパールアンドハーミーズ基地に向かう前に、達也様はミッドウェー監獄を襲撃しているの。これはパールアンドハーミーズ基地襲撃の際に妨害されるのを嫌ったのではなく、それが上院議員様からの依頼だったからよ」

 

「USNAの上院議員が、USNAの基地を襲って欲しいとオーダーしたのですか?」

 

 

 深雪は水波の疑問は尤もだと思った。もし事情を知らなくてそこだけを聞かされていたのなら、深雪も同じ疑問を懐いただろう。

 だが深雪は達也がその依頼を受けた時、その場所に同席していた。だから水波のような疑問は懐かなかったし、もしその場にいなかったとしても、達也が依頼を受けたなら、何らかの益があるのだろうと考えたかもしれない。

 

「水波ちゃんも知っているだろうけども、USNAの軍中枢部は今、パラサイトに侵略されているの」

 

「えぇ、存じております」

 

「その所為でリーナが日本に逃げ帰ってくる羽目になってしまい、その手伝いをした無実の軍人がミッドウェー監獄に収監されてしまったの」

 

「……その軍人を助け出して欲しいという依頼だったのですか?」

 

 

 水波は深雪の話を聞いて達也が受けた依頼内容を推理する。だがそれだけのことで達也に力を貸すだろうかという疑問が残っていたので、彼女の口調は何処か自信なさげだ。

 

「半分は正解ね。具体的には、その上院議員の身内の軍人を脱獄させて欲しいという依頼だったの。政治家として見下されているのが気分が悪いということで、閉じ込めた側の都合以外で彼を解放したかったらしいのよ」

 

「その襲撃者として、達也さまが選ばれたということですか」

 

「達也様も水波ちゃんを連れ戻す為にアメリカに行かなければいけなかったし、リーナからも頼まれていたからちょうど良かったのよ」

 

「あっ……その捕らえられていた方というのは」

 

「リーナの副官みたいな感じな人ね。ベンジャミン・カノープス少佐よ。水波ちゃんも名前くらいは聞いたことあるんじゃないかしら」

 

「顧傑捜索の際に達也さまと戦ったUSNAの軍人の名だったと記憶しております」

 

 

 水波は直接顧傑の捜索に加わってはいないが、情報は持っている。その際にベンジャミン・カノープス少佐の名前は見ていたので、彼女も名前だけは知っている。

 

「そのカノープス少佐を救い出すのを条件に、達也様の出国に手を貸してくださり、今後達也様と懇意にしてくれると約束してくれたのよ」

 

「そのことは御当主様やスポンサー様たちも納得しているのですね?」

 

「もちろんよ。いくら達也様が強大な力をお持ちだからといって、国内で戦争をするつもりはないようですし。そもそも達也様にお話しする前に叔母様にお話ししていたようですし、叔母様からスポンサーにも話は行っていたようです。万が一止められても良い様に、八雲先生が正式に発行された公用旅券を用意してくださっていましたし」

 

「僧都さまが……」

 

 

 水波が光宣に付いて行く決心をしたのは、八雲に達也と深雪の未来の為になるからという言葉を信じてのことだ。それが今回のことなのかは分からないが、間違いなく自分が光宣に連れていかれたから、達也は新たな後ろ盾を得、国防軍との縁を切ることができた。それは達也の未来にとって非常に良いことだということは、水波も理解出来ている。

 本来であれば国防軍と対立することになるのは、達也にとってマイナスにしかならないと思うだろうが、深雪から聞かされた佐伯の考えは、どう受け止めても達也にとって迷惑でしかない。佐伯が旅団長を務める一〇一旅団に在籍したままでは、達也の未来は閉ざされてしまっていただろう。

 

「そういうわけだから、水波ちゃんが必要以上に恐縮する必要はないのよ。それに、達也様だって仰っていたけど、水波ちゃんは私たちの家族なのだから。家族が連れ去られたら迎えに行くのは普通のことなのよ」

 

「些か規模が大きすぎるとは思いますが……」

 

 

 家族が誘拐されたら助け出したいと思うのは確かに普通だと水波も思う。だがその相手が国外に連れ出されたら、普通の人間は自分で助け出すことはできないだろう。それが出来てしまう達也を改めて凄いと思ったのと同時に、自分はそこまで必要とされていたのかと、少し自信を持つことができたのだった。




最後の水波の一言に尽きる……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。