劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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心配するのは分かる


帰還の報告

 いくら達也が問題ないと言っていたとしても、パールアンドハーミーズ基地から巳焼島まで休憩なしで飛行魔法を行使し続けたのを、深雪が黙って見逃すはずも無く、帰還してすぐ達也はベッドに押し込まれた。時間的にもベッドにいるのが普通なのだが、達也はすぐにでも本家へ帰還の連絡をするつもりだったのだが、それは深雪が代わりにするということで、今深雪は水波を伴って本家へ連絡すべく着替えをしている。

 

「こうして水波ちゃんと一緒に着替えるのは久しぶりね」

 

「そうですね。私が入院する前ですから」

 

 

 本来手伝いなど必要ないのだが、深雪がどうしてもと水波に頼んだのでこのような状況になっている。ちなみに、リーナは危険は無いと判断して自分の部屋に戻っている。護衛としてどうなのかとは思うが、今の巳焼島には危険は少なく、また達也が巳焼島に戻ってきているので、リーナの護衛としての任は解かれたと判断したのかもしれない。

 

「水波ちゃん、どうして光宣くんについて行こうと思ったの?」

 

「それは……」

 

 

 ここで八雲に言われたことを深雪に話すことは簡単だ。そうすることで自分が罪の意識から逃れられるかもしれないと考えたが、それは許されることではないと思い直し、水波は沈黙を貫いた。

 

「言いたくないのなら構わないわ。でもこうして戻ってきてくれたことが、私は本当に嬉しいの」

 

「深雪様……」

 

「前にも言ったかもしれないけど、水波ちゃんは私にとって単なる使用人ではないのよ。勝手かもしれないけど、妹のように感じている」

 

「光栄です」

 

「だから水波ちゃんが連れ去られた時、私は自分を責めたわ。どうして光宣くんを停めてしまわなかったのかって」

 

「達也さまがそのことをお許しになるとは思いません。達也さまは深雪様に無用な殺生をして欲しくないと思っている様子ですし、あの時申し上げた通り、光宣さまを止めるのは達也さまのお役目。深雪様がそのことを気にして躊躇ってしまったのは、仕方がないことだと思います」

 

 水波は、自分が光宣より価値のある人間だとは思っていない。だからあの時深雪が魔法を使ったとしても、水波はそれを防いだと確信している。その結果自分が魔法を使えなくなってしまったら、深雪が気に病むということは考えずに。

 もちろんたった一回の魔法行使で魔法演算領域が焼き切れるとは言い切れないが、深雪の魔法力は水波のそれとは比べようがないくらい高い。たった一回の魔法行使が命取りになる確率は低くは無かっただろう。

 

「水波ちゃん、光宣くんと一緒に行動していた時のこと、詳しく話してくれるかしら」

 

「もちろんです」

 

「あっ、今すぐにってわけじゃないのよ。水波ちゃんにも心の整理をする時間が必要だろうし、今日は叔母様にご報告したらすぐに休んでちょうだい。水波ちゃんはまだ、完全に治ったわけじゃないのだから」

 

「そのことも含めて、御当主様にご報告しなければならないことがあるようです」

 

「何かしら?」

 

 

 深雪はまだ、水波がパールアンドハーミーズ基地で入院していたということを知らない。それどころか、光宣がどうなったのかも聞いていない。彼女にとって重要だったのは、達也の無事と、水波の帰還だけだったので、達也から詳細を聞いていなかった。

 そもそも詳細を知らない深雪が本家へ報告できるはずがないのだが、今回の報告はあくまでも達也と水波が無事巳焼島に帰還したことと、台風の影響で暫くはマスコミの心配もないという報告のみ。それならばUSNAで起こった詳しい事情を知らない深雪でも報告できる。だから深雪は達也をベッドに押し込んでまで代理を申し出たのだ。

 

「叔母様、まだ起きていらっしゃるかしら」

 

 

 深雪は達也のことが心配で起きていたが、現時刻は既に午前一時近く。普通なら連絡を躊躇う時間だが、真夜も達也の帰還を待ち望んでいるかもしれないので、報告はしなければならないと深雪は思っている。真夜へ直通の番号へ電話を掛けると、ニコール目でつながった。

 

『お待ちしておりました、達也様』

 

「葉山さん、深雪です」

 

『深雪様でしたか。それで、達也様は如何なさいました?』

 

「達也様は長時間の魔法行使後ですので、無理にでも休んでいただいております。ですので、私が代わりに叔母様へご報告をと」

 

『かしこまりました』

 

 

 電話越しに恭しく一礼したのが深雪には分かった。そして電話越しに真夜が楽しそうにしているのも、雰囲気から感じ取った。

 

『深雪さん、わざわざこんな時間にゴメンなさいね』

 

「いえ、ご報告はするべきだと思いますので」

 

『それで、達也さんだけでなく水波ちゃんも無事なのかしら?』

 

「精密検査はまだですが、達也様も水波ちゃんも問題なくご帰還されました」

 

『そう。とりあえず一安心かしらね』

 

「USNAで起こったことの詳細は、後程達也様からご報告為されると思いますが、今はいち早く達也様のご帰還をご報告しなければと思い、このような時間にご連絡差し上げた次第です」

 

『その判断は正しいわね。私も達也さんの帰還を待ち望んでいたの。これで安心して寝られるわね。それじゃあ達也さんには、明日の十時くらいに報告してちょうだいって言っておいて』

 

「かしこまりました。それでは叔母様、お休みなさいませ」

 

『えぇ、深雪さんも』

 

 

 その一言で通信は切れ、深雪だけでなくただ同行していた水波も肩の力を抜いたのだった。




達也なら問題ないと思っているが、それでも心配してしまう深雪

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