劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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二十日連続更新してました。まったく気付かなかった……


衝突

 工房見学を終えた達也たちは、食堂で昼食を摂っていた。学校の施設は生徒全員が平等に使える為、此処では二科生だからと言って遠慮する必要は無いのだ。

 

「意外と美味いな、此処の学食」

 

「アンタは口に入れば全部同じなんでしょうけどね」

 

 

 料理の感想を言ったレオに、エリカが憎まれ口を叩く。その結果再び口論になるのだが、最早これがこの2人の当たり前になりつつあるのだ。

 2人には当たり前になりつつも、美月には当たり前とは思えないようで……

 

「だから如何して言い争うんですか! エリカちゃんもレオ君も仲良くして下さい!」

 

 

 このように毎回注意する美月を、達也は苦笑いを堪えながら見ているのだ。助けようとしない時点で、達也も2人と同類なのかもしれないが。

 

「お兄様!」

 

 

 3人を眺めていた達也の背後から、嬉しそうな事が聞こえてきた。達也はもちろん、エリカも美月もその声の主が誰だか分かったのだが、レオだけは深雪が声を掛けて来た理由が分からなかった。

 

「お兄様って誰だ?」

 

「アンタの頭じゃ推理出来ないでしょうけどね」

 

「何だと!」

 

「エリカちゃん! レオ君も!」

 

 

 お決まりの展開になりかけたが、美月が止めたおかげで口論にはならなかった。

 

「俺の妹だ」

 

「へぇ……達也、妹居たんだな」

 

 

 端的に説明した達也は、深雪の方を振り返って迎え入れようとしたのだが、昨日同様大勢の人を引き連れている(勝手について来てるだけだが)妹を見て、苦い笑いを浮かべたのだった。

 

「(如何もうちの妹は人を引き寄せる力が強すぎるようだな)」

 

 

 容姿だけでも十分魅力的なのだが、他人には本心を見せない所為か性格まで魅了する結果に繋がっているのだ。深雪の本心を知っている達也としては、苦笑いで済ませられないのだが。

 

「ハイ深雪、待ってたわよ」

 

「こんにちは、深雪さん」

 

 

 気さくに挨拶を交わすエリカと美月、その2人に嫉妬の篭った視線を向ける一科生女子が何人か居たのを、達也だけが気付いたのだった。

 

「それでは皆さん、私はお兄様と一緒に……」

 

 

 別れの言葉を言いかけた深雪のセリフを、森崎がぶった切った。

 

「君たち、この席を譲ってくれ」

 

「ッ!」

 

 

 森崎の言葉に、深雪の表情が歪んだ。歪んだと言っても、じっくりと観察して漸く分かるか分からないか程度の歪みなのだが、彼女の兄、達也にはその事がはっきりと分かったのだ。

 

「(この場は堪えろ)」

 

「(は、はい……)」

 

 

 アイコンタクトで深雪を抑える事にした達也は、暫く成り行きを見守る事にした。

 

「如何してアンタみたいなヤツの言う事を聞かないといけないのよ!」

 

「そうですよ! 私たちはまだ使ってるんですよ!」

 

「二科が何を言う。ここは魔法科高校だ。実力が全ての世界で、補欠如きが粋がるな!」

 

「ちょっ!」

 

「言い過ぎ……」

 

 

 他の一科生が森崎の言葉に頷く中、ほのかと雫だけは非難の目を向けていた。その事に気付いた達也は、彼女たちなら深雪と上手く付き合えるだろうと思っていたのだった。

 

「深雪、俺はもう行くよ」

 

「え、はい……」

 

 

 これ以上は騒ぎが大きくなりすぎると判断した達也は、食事を途中で切り上げて席を立った。

 

「おい達也!」

 

「感じ悪い! 私ももう行く!」

 

「エリカちゃん!」

 

 

 達也に続くように、レオ、エリカ、美月の順に席を立ち食堂から去っていく。

 

「さぁ司波さん、席が空きましたよ」

 

 

 達也たちを退けた事に満足したように、森崎が深雪に席を勧める。だが……

 

「結構です。私は別の場所で食事を摂りますので、皆さんで使ってください」

 

 

 素っ気無いの見本みたいな態度で言う深雪に、殆どの一科生は驚いた。特に森崎の反応は凄かった。

 

「光井さん、北山さん、行きましょうか」

 

「えっ……」

 

「分かった」

 

 

 深雪に呼ばれ、焦るほのかをフォローするように雫が頷いた。達也たちを非難していた森崎に、賛同では無く非難していたのを深雪も気付いていたのだ。

 

「あの…司波さん……」

 

 

 置いてかれた一科生たちは、その場に立ち尽くすしか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也に従うように席を立ったエリカたちだったが、あの一科生の態度に腹立たしさを感じていたのだった。

 

「司波君! 何であっさり席を譲っちゃったのよ!」

 

「そうだぜ達也! あんなやつらぶっ飛ばせばよかったじゃねぇか!」

 

「喧嘩は駄目ですよ! でも、確かに司波君なら勝てそうでしたけど……」

 

 

 好戦的な2人を諌めながらも、美月も達也があっさりと席を譲った事が気に入らないようだった。

 

「あれ以上口論してたら、周りに迷惑だろうからな。それに、あいつらでは深雪の相手は務まらないさ」

 

「……どういう事?」

 

「さぁね」

 

 

 誤魔化すように歩くスピードを上げた達也に、エリカたちは慌ててついていった。この時の達也のセリフが理解出来たのは、放課後になってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の演習見学でもイザコザがあったエリカたちと森崎たちだが、放課後の校門でももめにもめていた。

 

「いい加減にしてください! 深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言ってるじゃないですか!」

 

 

 意外な事に、最も熱くなってるのは美月だった。

 深雪が達也と一緒に帰ると言っているのに、森崎たち一科生がそれを善しとはせずに、自分たちと話す方が深雪のためになるとか言い出したからだ。

 

「お兄様、美月って意外と好戦的なのですね」

 

「千葉さんにつられてる感があるけどな」

 

 

 一科生と二科生がもめているのに、その原因の兄妹は一歩離れた場所からその騒動を眺めていた。

 

「深雪は如何したいんだ?」

 

「決まってます! 私はお兄様とご一緒したいです!」

 

「そうか……」

 

 

 あまりの即決に、思わず苦笑いがこぼれそうになったが、今その表情を見せれば自分も巻き込まれるかもと思い踏みとどまった(既に巻き込まれてるのだが)。

 

「大体、貴方たちに深雪さんとお兄さんを引き裂く権利があるんですか!」

 

「ちょっと美月…そんな、引き裂くだなんて」

 

「?」

 

 

 何故だか深雪が頬を赤く染めている。達也は今の状況でそんな表情をする深雪の事を、不思議そうに眺めていた。

 

「一科生には一科生の話があるんだ! 二科生(ウィード)が口を挟むな!」

 

「同じ新入生じゃないですか! 今の段階でどれだけの差があるって言うんですか!」

 

 

 美月の言葉に、森崎がキレた……ように達也は思った。森崎の事を知っている達也は、今の言葉は彼を刺激するには十分過ぎると分かったのだ。

 

「そんなに見たいなら見せてやる! 才能の差ってヤツをな!」

 

 

 キレた森崎が、腰につけていたホルスターからCADを引き抜いた。如何やら相当頭にキタんだろうなと、暢気に眺めていた達也だった。




ちょっと気持ち悪い感じで終わってしまって申し訳ありません。ですがこれ以上続けると長くなるので此処で終わらせてもらいました。

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