劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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もう一緒に住んでるようなものなので変更


雫からの提案

 今日の臨時師族会議は、達也にとって後味の悪いものとなった。イリーガルMAPとの交戦を責められなかったことは上首尾だが、戦略級魔法師として事実上暴露されてしまったのは、自分の失態では無いとはいえ、いただけない結果だ。

 しかし、スッキリしない気分を何時までも引きずっていては、深雪に余計な心配をさせてしまう。彼は気持ちを強引に切り替えて、前日から予定していた通り学校から帰宅した深雪、リーナと一緒にほのかが入院している病院へ向かった。

 

「ハイ、ほのか! 体調はどう?」

 

 

 病室に入って、リーナがほのかへ真っ先に話しかける。その後ろで、達也と深雪が微妙な無表情を浮かべていた。

 実を言えば深雪は、達也が最初に声を掛けた方がほのかは喜ぶだろうと思って控えていたのである。達也も深雪の考えを汲んで、まず自分が容態を尋ねようと準備していた。ところが、リーナがノリと勢いで、その段取りを壊してしまった。あらかじめ打ち合わせしていたことではないから、リーナを非難するわけにもいかない。その結果が、達也と深雪の一時的な表情喪失だった。

 もっともこれは、達也たちが気を回し過ぎた嫌いもある。ほのかはリーナの明るい声に、気落ちなど欠片も匂わせず笑顔で応えた。

 

「どこも悪いとこはないよ。入院と言っても、用心の為の検査入院だから」

 

「そうか。それは良かった」

 

 

 ほのかの返事を受けて、達也が態勢を立て直して会話に割り込む。

 

「達也さん……すみません、ご心配をお掛けしました」

 

 

 ほのかが恐縮しながら、隠しきれない笑みを零す。達也が自分のことを心配していないとは考えていなかったが、こうして気に掛けていることを態度で示されると、やはり喜びを禁じ得ないのである。

 

「ほのかが謝ることじゃない。むしろ謝らなければいけないのは俺の方だ、今回は巻き込んでしまって、すまなかった。エリカにも、迷惑を掛けたな」

 

 

 病室には達也たち以外に、エリカと雫もお見舞いに来ている。達也はまずほのかに頭を下げ、エリカにも謝罪の言葉を向ける。

 

「そんな! 達也さんが悪いわけじゃないです!」

 

「そうね。悪いのはあの悪党どもよ。幸い、ほのかにも美月にも怪我は無かったんだし、達也君が責任を感じる必要は無いんじゃない?」

 

「本当に、怪我が無くて良かったわ。ほのかと美月だけじゃなく、エリカや西城君や吉田君にも」

 

 

 深雪の言葉は彼女の紛れもない本心だが、これ以上何度も達也に謝罪させないためのものでもあった。

 

「そうね。美月も学校を休んでいたけど、昨日あんなことがあって大事を取っているだけだし。レオとミキは……あの程度でどうにかなるタマじゃないでしょ」

 

 

 エリカの言う通り、美月は大事を取って本日は自宅で休養。レオと幹比古は女の子の病室、それも個室だからと遠慮しているわけだった。

 

「私も、達也さんの責任とは思わないけど」

 

 

 それまで黙っていた雫の発言は、ここまでの流れとニュアンスが異なるものに聞こえた。雫がじっと、達也を見詰める。その顔に、笑みは無い。

 

「二度とこんなことが起きない様に、達也さんがほのかを守って欲しい」

 

「ええっ!?」

 

 

 雫の、軽口ではあり得ない、本気の口調。本気の表情に声を上げたのは、ほのか。エリカもリーナも、驚きを露わにしている。深雪の顔には何故か、驚きも怒りも無かった――その代わり、笑ってもいない。

 

「守れと言うのは、具体的に何を指して言っているんだ」

 

 

 雫の言葉に応える達也の声音は「覚悟を問う」ものに感じられた。そしてその問う相手はほのかであり雫だ。

 

「達也さんが特殊な眼を持っていることは知っている。その眼を使えば、何処にいても相手の状況が把握できるのも」

 

「あぁ」

 

 

 雫たちだけではなく、婚約者たちには『精霊の眼』のことは話してあるので、達也は特に否定せずに雫に話の先を視線で促す。

 

「それを常時使うのは達也さんの負担になるということも知っている。でも今回ほのかが巻き込まれた一端は達也さんにもあると思う」

 

「雫、それは違うよ。私が不用心に出かけた所為で――」

 

「ほのかは黙ってて」

 

「あっ、うん……」

 

 

 ほのかとしては自分の不注意でこんなことになり、達也に後始末を任せてしまった気分なのだが、雫の剣幕に圧されて言葉を呑み込む。

 

「達也さんも巻き込まれただけなのかもしれないけど、それでほのかが危険な目に遭ったのは紛れもない事実。達也さんには常時ほのかを見守る義務があると思う」

 

「だが常に『視』られていることが、ほのかの負担になると思わないのか?」

 

「達也さんなら分別があるし、ほのかがお風呂に入ってたり着替えてたりしてるところを覗いたりはしないでしょ? まぁ、ほのかが見られてるかもって勝手に興奮するかもしれないけど」

 

「そ、そんなことしないもん!」

 

 

 親友に痴女疑惑を投げ掛けられ、ほのかは大慌てで否定する。その所為で深雪やリーナから「本当に?」と疑わし気な視線を向けられたのだが、ほのかはその視線に気づけるだけの余裕が無かった。

 

「分かった。ほのかだけでなく、自衛手段の少ない婚約者たちには眼を向けておこう」

 

「お願い」

 

 

 ほのか個人ではなく他の婚約者たちも含めておくことで、特別視ではないということをはっきりさせておく必要があると達也は考えての発言なのだが、雫の表情は何処か不満げだった。




ほのかならありえそう……

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