劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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弘一は主導権を握りたいだけだろ


内なる攻防

 達也が弘一の発言の裏を考えているなどとは気づけずに、真言はすぐに自分が不利にならないように思考を巡らせ、舞衣たちから浴びせられている視線に対する答えを出す。

 

『すぐに家の者全員を改めさせます』

 

『誰がパラサイトの支配下にあるのか、分からないのでしょう? 九島殿お一人では手が足りないのではありませんか?』

 

『七草殿がお手伝いされると言うのか?』

 

 

 弘一の問いかけに応じたのは、真言ではなく剛毅だ。剛毅が口を挿まなければ、真言は黙り込む羽目に陥っていただろう。

 

『思うところがありまして、この一年、当家は知覚系の術者発掘に努めてまいりました。お役に立てると思いますが』

 

 

 弘一が知覚系の魔法師取り込みを熱心に進めたのは、昨年の第一次パラサイト事件の反省を踏まえたものだ。少なくともこの件に関して、弘一の言葉に嘘はない。もっとも、弘一の申し出は善意に基づくものではない。

 

『では、当家もお手伝い致しましょうか?』

 

『いえ、それには及びません。光宣君やUSNAとトラブルを抱えている四葉殿の御手を煩わせるのは、申し訳ないですから』

 

 

 四葉真夜の提案に、それが突然の発言であったにも拘わらず、間髪入れず反論したのがその証拠だ。弘一は調査の名目で旧第九研の研究成果を盗み出そうと企んでいた。

 

「その件は後程、九島殿と七草殿の間で直接話し合われては如何でしょう」

 

『そうだな。十文字殿の言う通りだ』

 

 

 弘一と真夜の間に火花が散るのを予感したのか、克人が割って入り、すかさず剛毅が克人を支持する。真夜としては弘一が無条件で九島家の家内検めに参入するのを防ぎたかったのだが、ここで克人の意見に対して不満を見せれば、こちらが何かを企んでいるのではないかと、痛くもない腹を探られる可能性を考え黙っていた。

 

『そうですね。九島殿、後でお時間をいただけますか』

 

『構いません』

 

 

 真言が弘一に頷いたことで、この場は一旦、けりがついたという空気が生まれる。次の話題に進むべきと判断した七宝拓巳が、改まった態度で達也に話しかけてくる。

 

『司波殿。いえ、四葉殿とお呼びすべきですか』

 

「司波でお願いします」

 

 

 達也がそう答えたのはアイデンティティの問題ではなく、真夜と区別が付きにくいだろうと配慮した結果だ。

 

『では、司波殿。昨晩、平塚の東部海岸近くで報道機関のヘリコプターを奪った魔法師集団と銃撃戦を演じたのは、貴殿でしょうか』

 

「ヘリコプターから銃撃を受け、魔法で反撃・殲滅したのは自分です」

 

 

 達也は微妙に七宝拓巳の発言を修正しながら肯定する。拓巳の言い方では、達也も銃で応戦したように聞こえたので、そこは修正しておきたいと考えたのだろう。

 

『司波殿の反撃が自衛の為のものだったということは、いただいた資料で理解しています』

 

 

 達也の反論に、宥めるようなセリフを拓巳が返す。彼も達也が銃撃戦を繰り広げたとは思っていなかったので、達也の反論も仕方がないと思うところがあっての反応だ。

 

『相手が何者だったか、お分かりですか?』

 

『その連中は、九島光宣の共犯者だったのだろうか?』

 

 

 拓巳が達也を宥めたすぐ後に、五輪勇海と六塚温子が質問を続ける。温子は兎も角五輪家としては、七草真由美を達也に取られたという思いがあるのか、表面上は兎も角裏に刺々しさを感じさせる問いかけ方だと、数人の当主たちはそう感じていた。

 

「分かりません。東アジア系の人相でしたが、日本民族と言われれば頷ける程度の違いしかありませんでした」

 

 

 本当はエリカが遠山(十山)つかさから聞いた話で、襲ってきた相手がイリーガルMAPであることは推測できている。だが昨晩の交戦時点では知り得なかった情報なので、達也は正体不明で押し通そうとしたのだが、彼の回答を打ち消すように、七草弘一が再び口を挿む。

 

『彼らの身元については、私の方で掴んでいます』

 

「何者ですか?」

 

 

 もったいぶる弘一に、克人が答えを促す。達也だけでなく真夜も黙っているのを見て、弘一は内心つまらなそうに敵の正体を明かした。

 

『USNA非合法魔法師暗殺小隊・ホースヘッド分隊』

 

『イリーガルMAPですか……』

 

 

 弘一が明かした名称を聞いて、三矢元が「なる程」と言わんばかりの口調で呟いた。

 

『七草殿、三矢殿、イリーガルMAPとは?』

 

 

 一条剛毅の問いかけに、七草弘一と三矢元の視線が小さく動く。お互いに手許の画面で、相手の表情を窺ったのであり。カメラ越しの譲り合いの結果、説明役を引き受けたのは三矢元だった。

 

『米軍統合参謀本部直属の非合法工作・暗殺部隊です。所属メンバーは全員が対人技能に優れた魔法師で、三つの分隊から構成されています。その内ホースヘッド分隊は対大亜連合を想定して、東アジア系の外見を持つ魔法師で固められた分隊だと聞き及んでいます』

 

『米軍が保有する非合法工作の精鋭部隊ということか』

 

『その理解で大丈夫です』

 

 

 一条剛毅のセリフに、三矢元が頷く。元からの説明を受けイリーガルMAPがどのようなものなのかを理解した剛毅は、誰も触れようとしなかったことへ意識を向けた。




頑なに四葉と呼ばせない達也

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