劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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人食い虎のシーンはカット予定です


影の存在

 今日は論文と発表原稿とプレゼン用データを学校へと提出する日だが、鈴音も五十里も達也も直前まで終わらないという無計画っぷりは持ち合わせていないので昨日のうちに提出用の記録メディアは仕上げてある。

 こうして昼休みに集まってるのは最後の見直しをするためだ。とは言っても確認する内容は主に提出要項に関わる形式点検を行う為だ。三人で分担してチェックした後、遥の助言に従い鈴音が廿楽に直接手渡す事になっている。

 

「小野先生が助言してくれたのは、昨日の事と関係あるのかな?」

 

 

 自分の分担が終わったところで五十里がポツリとつぶやいた。

 

「そうかもしれませんね」

 

 

 既に自分の作業を終わらせていた達也がまだ作業中の鈴音の邪魔にならない様に小声で答えた。

 

「学内ネットを覗こうと思ったら校内から侵入するのが一番簡単だからね」

 

「それでも簡単ではありませんけどね」

 

「そうだね。でも司波君なら出来るでしょ?」

 

「五十里先輩でも出来ると思いますよ。覗くだけならある程度知識があれば出来ます」

 

「でも盗むとなるとそうはいかないよね」

 

 

 達也と五十里が若干物騒な会話をしている間に、鈴音も最終チェックを終えて身体ごと振り向いた。

 

「昨日の襲撃者ですが、本当に本校の生徒だったのですか?」

 

 

 提出物をそろえながら会話に加わる鈴音。若干疑いながらの質問だが、それはある意味で仕方の無い事だった。

 

「いえ、多分としか言えません」

 

「制服も手に入れようと思えば入手出来ないものではありませんから」

 

 

 五十里は本気で多分だと思っているのだが、達也には心当たり……というか存在を確認して相手が誰だか分かっているのだ。それでも誰だか言わないのは彼女の背後関係を気にしての事だ。

 

「……五十里君も千代田さんも生徒名簿を閲覧出来るはずですが?」

 

「顔を見たのは花音ですし……横顔をチラッと見ただけですから。一口に女子生徒と言っても三百人近くいますので……ある程度絞込みが出来なければ特定は無理です」

 

 

 五十里は生徒会役員として、花音は風紀委員長として生徒名簿を閲覧する権限が与えられているため、顔写真と全体写真をチェックするのは簡単に出来る。だが実際に花音がチェックしてみたのだが五十里が言ったように一瞬横顔をチラッと見た程度では三百人近く居る女子生徒から一人を見つけ出すのは難しく、早々に花音が音を上げたのだった。

 

「司波君は如何です? 構築中の魔法式を破壊する時に顔は見ませんでしたか?」

 

「残念ですが」

 

「そうですか……分かりました。各自細心の注意を持って行動しましょう」

 

 

 鈴音がそう結論付けてこの場は解散となった。念のため達也は提出物を幾何学準備室に持っていく鈴音の警備を申し出ようとしたが、廊下に服部と桐原の気配を感じ取ったために実際は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チェックを終えて教室に戻ると、達也の姿に一早く気がついたエリカが話しかけてきた。

 

「今日は早かったんだね」

 

「チェックだけだからな」

 

 

 達也の席に座っていたエリカは、大人しく席を空け達也がそこに腰を下ろした直後に机の端に腰掛けたのだった。

 

「何の話しをしてたんだ?」

 

 

 授業までは少し時間がある為に、達也はさっきまで話していた内容を聞いた。別に内容が聞こえた訳では無く興味を持ったのではなく、美月が若干不安そうだったのが気になったから聞いただけなのだ。

 

「視線を感じるんだってさ」

 

「視線?」

 

 

 エリカの答えに達也が反応を見せ、美月に視線を固定した。

 

「今朝から何だか嫌な視線を感じるんです……こっそりと隙を窺ってるような気味の悪い視線でして……」

 

「ストーカーの類か?」

 

「私をストーキングする人なんて居ませんよ」

 

 

 一番ありそうな可能性を挙げた達也だったが、美月は大げさに首を振って否定した。達也同様美月も自己評価が低いのだ。

 

「それに、私を狙ってるんじゃなくってもっと大きな網を構えてるような感じが……」

 

「幹比古は何か掴んでないか?」

 

 

 達也が幹比古に聞いたのはあくまで可能性を考えての事だった。だが幹比古は達也が自分に聞いてきたのは、何か確信があるような気がしていたのだった。

 

「達也も気がついてたのかい?」

 

「いや、確信も無ければ美月に言われるまでそんな事があるなんて知らなかった」

 

「そう……柴田さんの言うように今朝からずっと精霊が不自然に騒いでるんだ。多分誰かが式を打ってるんだと思う」

 

「シキって式神とかってSBの事か?」

 

 

 幹比古のセリフの中に気になる単語があったので、レオは幹比古に質問をした。そして幹比古は軽く頷いて説明を続けた。

 

「僕たちが使う術式とはタイプが違うみたいで上手く捕まえられないんだけど、何処かの術者が探りを入れてきてるのは間違いない」

 

「幹比古」

 

 

 幹比古が説明を終えると、達也がちょっと怖い感じの声で名前を呼んだ。

 

「何か気になる事があった?」

 

「今『自分たちと違う術式』と言ったよな?」

 

「うん、そうだけど?」

 

「それは神道系とは違った術式と言う事か? それともこの国の古式魔法とは異なる術式と言う事なのか?」

 

 

 自分が何気無く漏らした一言の意味を改めて突きつけられ、幹比古の表情が厳しく引き締められた。

 

「……我が国の術式じゃない、と思う」

 

「えっ、それって他国のスパイって事か?」

 

「そうなんじゃない?」

 

 

 驚きの表情で聞いたレオとは対照的に、エリカはあっさりと、興味の薄い感じで答えた。

 

「随分と派手に動いてるんだな」

 

「まったく、警察は何してるのかしらね」

 

「エリカちゃん?」

 

 

 達也の一言でエリカの矛先が警察に向いた事に美月は疑問を抱いた。だが達也と幹比古はエリカが憤ってるのではなく、身内のだらしなさに苛立ってるような声色に疑問を抱いた。

 

「達也、僕の方で調べてみる」

 

「そうか。だが深追いはするなよ」

 

「分かった。それに僕一人で出来る事なんて高が知れてるから」

 

 

 達也に期待されてると気付き、幹比古は少し照れくさそうにそう続けた。ちょうど会話が途切れたタイミングでチャイムが鳴り、午後の授業が始まる。エリカは慌てて自分の席に戻り端末で課題に取り組み始める。

 

「(千秋の背後に居るのは密入国者の魔法師か? なんにしても付け込まれたのは俺の責任なんだろうな)」

 

 

 早々に課題を終わらせ、さっきまでの会話の内容から千秋の過激な行動の裏には何か厄介事が見え隠れしてる事に、達也は人知れずため息を漏らしたのだった。




周の催眠が解けたあと、千秋を如何するか悩み中です。

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