劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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まぁ仕方ないよな……


深雪の憂鬱

 深雪と将輝が会うに当たって、真夜は亜夜子に二人を監視するよう命じている。もちろん亜夜子一人で監視するわけではないのだが、深雪に知らせてあるのは亜夜子一人だ。

 

「それで、何で僕は女装しなきゃいけないわけ?」

 

「私が達也さんと婚約している事は世間に知られているわけだから、余計な噂を流されない為よ」

 

「僕と姉さんは姉弟なんだから、噂も何も無いだろ」

 

「貴方は自覚していないかもしれないけど、貴方の事を好いている女子は結構いるのよ? そんな貴方と出かけて、嫉妬されて達也さんに迷惑をかけるのは避けるべきだと思うわ」

 

「人気って、僕に女物の服を着せて遊びたいって話でしょ? それくらい知ってるよ」

 

 

 文弥は確かにそっち方面で人気が高い。中性的な顔立ちやさほど大きくない体躯が尚更女性服が似合いそうだと思わせるのだが、彼の人気はそちらだけではない。純粋に文弥の事を想っている女子も少なからずいる。亜夜子はそれを知っているのだが、当の本人はその事を知らないようだ。

 

「兎に角僕は任務でもない限り女装なんてしたくないからね」

 

「あら、これは御当主様直々の任務よ? 任務なら女装するのよね?」

 

「そ、そういう意味で言ったわけじゃないよ! というか、姉さん一人で監視すればいいだろ! 僕は裏方の手伝いをするから」

 

「あの二人が何処に行くか分からないでしょ? 一人より二人の方が都合が良いことだってあるんだし」

 

「そもそも深雪さんが長時間付き合うとは思えないんだけど? 以前一条将輝さんが一高に通う事になった時だって、あまり付き合いは無かったんだろ?」

 

 

 事前に将輝の事を調べてあるので、文弥もその程度の情報は把握している。さすがに将輝がストーカー紛いの行為をしているとは知らないようだが、深雪にアプローチを続けている程度にしか思っていないようだった。

 

「貴方、深雪お姉さまがストーカー行為に遭っているを知らないの?」

 

「ストーカー行為? 仮にも十師族の次期当主が相手なんだよね?」

 

「次期当主にして新戦略級魔法師、その所為で調子に乗っているのよ」

 

「立場的には達也兄さんと同じなのに、何でそんなに調子に乗るのさ」

 

「達也さんと普通の男子を同じように考えちゃダメよ。達也さんには殆ど欲はないけど、普通の男子なら自分が特別な存在になったら好きな相手にアピールできると思うんじゃないの? まぁ、全く以て特別な存在なんかじゃないんですが」

 

 

 亜夜子の容赦のない言い分に、文弥は少し将輝に同情する。だが深雪が迷惑しているのだから諦めさせるしかないと、文弥は渋々亜夜子からのオーダーを引き受ける事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面会当日、深雪は朝からテンションが下がっている。将輝と会うのは午後からなので、午前中は普通に生徒会室に顔を出していた。

 

「深雪先輩、ご気分が優れないのですか?」

 

「そんな事はないわよ。ただちょっとこの後憂鬱な事があるだけ」

 

「憂鬱な事? 深雪先輩がそのように表現するなんて、余程の事なのでしょうね」

 

「あっ、それって前に雫に相談したっていうあれ?」

 

 

 泉美は分からなかったようだが、ほのかは深雪が憂鬱になっている原因に心当たりがあった。別に口止めしていなかったから雫がほのかに話していても不思議ではない。

 

「えぇ……何度もお断りしているのにしつこくてね……これで諦めてくれるといいんだけど」

 

「達也さんはその事を知ってるの?」

 

「もちろんよ。でも同行してもらうわけにもいかないから……」

 

「そう…なんだ……」

 

 

 そもそも達也は今本土にいない。巳焼島でESCAPES計画の研究の指示を出しながら自分も研究に勤しんでいるはず。これ以上達也に迷惑を掛けたくないと深雪が考えているのは、ほのかにも理解出来ていた。

 

「先ほどからお二人は何のお話をしているのでしょうか?」

 

「深雪が一条君に言い寄られているのは、泉美ちゃんも知ってるよね?」

 

「えぇ、お聞きしておりますが」

 

「何度も文書でお断りの返事をしてるんだけど、諦めてくれないみたいなの。それで直接会ってお断りする事になってるんだって。向こうは気持ちを伝えるチャンスだとか思ってるのかもしれないけど」

 

「そういう事でしたか……ですが、将輝さんはそこまで粘着質だとは思いませんでした」

 

 

 同じ十師族の一員として、泉美は当然将輝とも面識がある。だが彼女の記憶の中では、将輝はそこまで一つの事に執着するような性格ではなかったとされている。

 

「初めての一目惚れだから、諦めきれないんじゃないかな。そこだけ聞けば一条君に同情しなくもないけども、深雪が婚約を発表してからアプローチを始めたんじゃ遅いよ」

 

「婚約を発表する前からされていたとしても、深雪先輩にはご迷惑でしかないのではありませんか?」

 

「そうね……一条君にも何度も言っているのだけども」

 

「そうだったのですね……深雪先輩も大変ですわね」

 

「今日でケリがつけばいいのだけど」

 

 

 深雪としてはこれ以上将輝に付き合うつもりは無い。直接会って諦めてくれればいいと真夜は考えているようだったが、深雪はそこまで楽観視していない。むしろ直接会う事で向こうが勘違いしていなければ良いがと、この後会う将輝がどう思っているのかが不安になり、ますます憂鬱な気分に陥った。




間接的な被害者・文弥……

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