近くのカフェに入った一同は、店内で見知った顔に出会う。今日は用事があるからと言って買い物には同行しなかったエイミィとスバルの二人が談笑しているのが見え、エリカが声をかける。
「二人とも、今日は用事があるって言って無かったっけ?」
「あぁ、だからさっきまで三人で行動してたんだが、紅葉が急用とかで帰ってしまってね。このまま帰るのも味気ないからボクとエイミィの二人でお茶をしていたところさ」
「用事って紅葉と遊ぶ事だったんだ」
共通の知人である為、ほのかや雫はすぐに納得したが、紅葉と交流の無い七草の双子と水波は首を傾げる。学年が下という事もあるが、紅葉は生徒会役員でもなければ風紀委員でもない。その為双子や水波との面識は数える程度しかないので仕方ないだろう。
「スバルの彼女的存在の子よ。まぁ、スバルが達也くんの婚約者になってからは、普通に友達付き合いに変わったみたいだけど」
「というか、ボクは女の子に恋愛感情を懐いたことは無いんだけどね」
中性的でパンツルックが多いスバルに興味を懐く女子生徒は少なくない。その事はスバルも理解しているのだが、スカートを履いて出かけるなど彼女にはハードルが高いため、今でもパンツルックで出かける事が多い。その所為で、見ず知らずの女性から声を掛けられる事も度々あるのだが、本人は声を掛けられるくらいならとあまり気にしていなかった。
「せっかくだから一緒にお茶しましょうよ。付き合いがあんまりないだろうけど、香澄は一緒に生活してるんだし、水波にとっては将来の主人になるんだし」
「達也さんと結婚すれば、水波ちゃんは私たちにも今まで以上によそよそしい態度になっちゃうの?」
「ベゾブラゾフのトゥマーン・ボンバから達也様と私を守った功績を認めてもらって、水波ちゃんも達也様の寵愛を受ける事が許されてるわよ。でもまぁ、水波ちゃんは奥ゆかしいから、婚約者の一人にして欲しいとは言わなかったけど」
「それって、小野先生や安宿先生と一緒ってこと?」
「そうなるわね」
達也はまだ結婚していないが、既に『愛人』が存在する。婚約者選定会議の際に仕事で忙殺されていた二人が、何とかして仲間に入れてもらえないかと行動し、自力で真夜の許にたどり着いたご褒美として認められたのだが、婚約者一同からはあまり良い思いをされていない。その中の一人になったという事を黙っていた水波だったが、彼女に関していえばエリカたちも不快感を懐く事は無く歓迎した。
「それじゃあいずれ水波もあの家に来るの? それとも深雪と一緒に四葉ビルで生活して、達也くんがそっちに行くときに一緒にって感じになるの?」
「その辺りは達也さまのご自由にしていただきたいと思っています。私は深雪様の身の回りの世話をする事も大事な仕事ですので」
「水波ちゃんが望むのなら、達也様とご一緒しても良いのよ? 私は一人でも問題ないから」
「いえ、深雪様のお側を離れるつもりはありません」
元々の主人が深雪であるからなのか、水波は頑なに四葉ビルから引っ越す事を拒む。深雪としては主人としてではなく家族として扱ってもらいたいと思っているのだが、現当主の血縁者である自分に対して、一使用人でしかない水波がそのような態度で接する事が出来るはずがないと理解しているので、無理強いはしていない。その事は水波にも伝わっているので、彼女は今まで以上に深雪を敬う態度をとっているのだ。
「達也さんが高校を卒業するまであと半年。そうなれば私たちみんな『司波』になるんだよね?」
「深雪は既に『司波』だから何も変わらないけど、気持ち的にはやっぱり変わると思うかい?」
「そうね。今までの『司波』と、達也様と結ばれた結果の『司波』では、やっぱり違うのではないかしら」
「まぁ『司波』も一時的で、達也くんが跡を継げば、あたしたちの苗字も変わるんだろうね」
ここには他の客もいるので、エリカは『四葉』という苗字を口にするのを避ける。その事はここにいる全員が理解しているので、誰もエリカの発言を追及する事はしない。
「そういえば深雪、リーナってまだ巳焼島にいるの? それとも、他のところに移動したの?」
「USNAの問題はとりあえず片付いてるらしいから、リーナの逃亡生活は一応終わったわ。今は本家側にある分家の屋敷でお世話になっていて、ほとぼりが冷めたら新居に戻る予定よ」
「仮にも戦略級魔法師だから、USNAとしては引き渡しを要求してるらしいってお父さんが言ってた」
「さすが小父様。そういう情報収集は怠ってないんだね」
「そういうものも取り扱ってるから、軍事情報とかにも詳しくないといけないから」
「そういう難しい話は置いておいて、今は水波さんの復帰を祝って乾杯しようよ! 達也さんの帰還パーティーはしたけど、水波さんの復帰パーティーはしてないんだしさ」
「エイミィ、君は本当に難しい話が嫌いなんだね」
「だって、聞いてても面白くないじゃん」
無邪気な笑みを浮かべて言い放ったエイミィに、全員が苦笑いを浮かべる。だがエイミィの提案はお祭り好きなエリカに刺さり、すぐに飲み物を注文して乾杯をする事になるのだった。
深雪の側、ではなく達也の側の方が気持ち的に嬉しいでしょう