劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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聞かれたらマズい話は夜遅くに


深夜の報告

 部屋に戻り研究資料を纏めていた達也だったが、部屋の外に気配を感じ作業を止める。別に見られても問題ない相手なのだが、余程の事が無ければこのような時間に尋ねてくる相手ではないので、達也は来客の相手の方が優先度が上だと判断したのだ。

 

『達也さん、よろしいでしょうか?』

 

「あぁ、構わない」

 

 

 基本的に達也の部屋にロックは掛かっていないが、無遠慮に部屋に入ってくる人間はこの家の中にいない。たまにエリカが突撃してくることはあっても、それはあくまでも外がまだ明るい時間だ。夜も深けたこのような時間にはさすがのエリカも突撃はしてこない。

 

「こんばんは、達也さん。まずはご帰還おめでとうございます」

 

「帰ってこようと思えば帰ってこれたんだが、ここで生活してる人に迷惑が掛かるからな」

 

「達也さんとご一緒出来る事と比べれば、多少の苦労は苦労だと思いませんわ」

 

「それで、こんな時間に何の用だ?」

 

 

 来客――亜夜子に本題に入るよう促すと、年相応の笑みを浮かべていた亜夜子の表情が一変し、四葉家の魔法師としての表情に変わった。

 

「達也さんが封じてくださったパラサイトの完全封印の完了のご報告と、ご当主様からの言伝をお持ちしました」

 

「母上から?」

 

 

 てっきり真夜が直接電話なりをしてくると思っていた達也は、亜夜子に言伝を任せたのが少し意外に感じられた。だが真夜の事だからまだ完全に片付いていないのに自分の相手で時間を使わせるのは得策ではないと考えたのだろうと、達也は自分の疑問に対してそう結論付けた。

 

「今回の件、国防軍との決裂に繋がりましたが、四葉家としては満足のいく結果で終わった事を御歓びになられておりました。後日、直接報告に来られる日を楽しみにしていると」

 

「それだけか?」

 

「九島光宣を早めに処分しなかったことに対しては少し不満げでしたが、概ね満足な結果だとしか仰られておりません。深雪お姉さまと水波さんも無事でしたし、何より達也さんの計画を邪魔しようとしていた輩を一掃出来たわけですから、ご当主様も文句は仰りませんわよ」

 

 

 達也としては、国防軍と袂を分かつのは四葉家的に問題があるのではないかとも思っていたが、既に十師族の中でも頭一つ以上抜きんでていると言われる程の戦力と技術力を有しているので、無理に繋がりを持つ必要は無くなったのだろうと自分を納得させる。その戦力も技術力も達也がいてのものだが、達也が四葉家を裏切る可能性はもう殆どないので、その心配は無用なのだろう。

 

「深雪お姉さまが次期当主になられていたら、このような事にはならなかったかもしれませんが、達也さんが次期当主に決まって四葉家と全面対決をする必要がなくなったことで、今回の結果に繋がったのかもしれませんね」

 

 

 自分が考えていたことを言い当てられたような気がして、達也は思わず亜夜子の顔を見詰める。いきなり達也に見詰められ、亜夜子は場違いな表情を浮かべて視線を彷徨わせるが、達也にその気がないのは亜夜子も分かっているので必要以上に恥じらったりはしなかった。

 

「元九島家の人間はどうしている?」

 

「大人しいものですわ。自分たちが何をしたのか理解しているようで、わめき散らすような事もしませんでしたし、実行犯の九島光宣は達也さんが、その九島光宣に協力した九島真言は師族会議で裁かれましたので、他の人間は数字落ちを受け容れています」

 

「さすがの七草家も、今回は策謀を巡らせることもなかったからな」

 

 

 九島家と七草家が裏で繋がっていたのは、あくまでも烈が存命だった時で、パラサイトの侵攻に手を貸すような事を弘一がするとは達也も思っていない。だが四葉家の戦力を削れる結果に繋がるのなら、僅かな可能性でも手を貸していたと疑うのは当然だった。それだけ四葉家と七草家の関係は悪化しており、真由美と香澄が達也に嫁ぐ事になっていても、弘一は何とかして真夜の鼻を明かしたいと画策しているようなのだ。

 

「娘の幸せを祈るのなら、大人しくしていればいいものを……ウチの父もですが、一度下に見ると素直に実力を受け止められないようですわね」

 

「黒羽さんは兎も角、七草弘一が母上を下に見ていたとは思えないが」

 

「自分なら四葉家の秘密を暴けると過信して、あっさりと返り討ちにされた事を逆恨みして敵対しているだけではありませんか」

 

 

 それ以外にもいろいろと原因はあるのだが、真夜と弘一の関係は改善されること無く今も続いている。このままいけば遠からず完全対立するのではないかと心配している家もあるくらいだ。

 

「それから今回の封印の最大の功労者は文弥ですので、近い内に達也さんから労いの言葉を掛けてあげてください。異性装をリーナさんに見られて相当恥ずかしがっていましたので」

 

「分かった。明日にでも電話をしておこう」

 

 

 文弥の格好は達也も見ているので、文弥がどれ程恥ずかしがっていたかも知っている。亜夜子は達也の返事に満足したのか、長居することなく達也の部屋を辞す。これが真由美なら用事が終わっても居座ったかもしれないが、亜夜子はその辺りをちゃんと弁えているのだった。




双子の弟をちゃんとアピールする亜夜子

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