達也の読み通り、大亜連合との戦争に勝利した新ソ連軍は、日本海を南下してきている。リーナはそんな危機的状況にも拘わらずに何時も通り過ごしている達也に質問をぶつける。
「達也はいかなくてもいいわけ? 貴方の魔法があれば新ソ連が領海内に入ってきた時点で無力化出来るでしょう?」
「領海内に入っただけで消滅させたら、新ソ連から何を言われるか分からないぞ? そもそも向こうの事は向こうの人間に任せてあるから心配はない」
「向こうの人間? そう言えば貴方、新戦略級魔法の開発をしていたわね……まさかそれを誰かに使わせるつもり?」
「明らかな戦闘態勢を見せられれば、頭の固いお役人も許可を出すだろうからな。それに、戦略級魔法師が増える事は、日本にとっても悪い事ではない」
「そうかもしれないけど……」
完全に軍に対する未練が無くなった今、リーナは日本に戦略級魔法師が増えるという事に対して特に思う事はない。むしろ自分もUSNAの戦略級魔法から日本の戦略級魔法師になってもいいとさえ思い始めているくらいだ。
「それで、その新戦略級魔法師になる人間って? 私も知ってる人?」
「顧傑を追跡していた時に会っただろ? 一条将輝だ」
「あぁ、あの『クリムゾン・プリンス』とか言われてる……確かに見た目は良い方だし、魔法師としての資質もなかなかだったけど、その人って確か、深雪に求婚してるのよね? さすがに身の程知らずじゃないかしら」
リーナは、例え達也と深雪が本当に血の繋がった兄妹だったとしても、深雪が将輝の求婚を受け容れるとは思っていなかった。先にリーナ自身が言ったように、容姿も魔法師としての資質も悪くはないのだが、圧倒的に深雪とは釣り合っていないと感じているからである。
「というか、そのクリムゾン・プリンスって達也のライバルとか言われてるんじゃなかったっけ? 達也が本気を出せば相手にならないだろうけども」
「そんな事当たり前でしょ? というかリーナ、貴女一条君如きが達也様と同レベルだと思っているのかしら?」
「立場的には似てるけど、さすがに同レベルだとは思わないわよ。そもそも私は、達也の実力を正確に把握しているわけじゃないんだし……」
話としては聞かされているが、リーナは達也の魔法を間近で見た事があるわけではない――いや、見た事はあるのだが、それが達也の魔法だと認識していなかったので、彼女は当時何が起こったのか分かっていなかった、というのが正しいかもしれない。
「前に映像で達也と戦っているところを見たけど、あの程度で冷静さを失うなんて、戦士として失格。ステイツじゃ前線に出れるまで相当時間がかかるわよ」
「戦士としてではなく、選手として失格だったはずなのだけど、相手が達也様で、一瞬の出来事だった所為でお咎めは無かったのよ。その所為で反省する事もせずに、達也様を敵視し続けるなんて……その上正式に決定した婚約を破棄させようとさせるなんて。人としても失格だと私は思ってるわ」
「うわっ、辛辣ね……いっその事、本人を前に言ってあげたら? そうすれば少しくらいは身の程を理解出来るんじゃない?」
「残念だけど、顔を合わせたくないのよ。顧傑捜索の際に一時的に一高に通っていたんだけど、その時もしつこく付き纏われたし」
「そこまで行くと、一種のストーカーなんじゃないの? 一度相談した方が良いわよ?」
「あの……お茶の用意が出来ました」
あった事もない将輝に少し同情しているようなミアが、二人の会話に割って入る。よく見れば達也も呆れている様子だったので、深雪とリーナはお茶を飲みながら気持ちをリセットさせる事にした。
「それにしても、新ソ連はどういった目的で日本に侵攻を始めたわけ?」
「戦争犯罪人である大亜連合の戦略級魔法師・劉麗蕾の引き渡しを拒否したとして侵攻を開始した。まぁこの亡命も疑わしいものではあるがな」
「……どういう意味?」
リーナは劉麗蕾が十四歳の少女だということを知っている。幾ら戦略級魔法師とはいえ十四歳の少女が、戦争犯罪人として処刑されるのを受け容れられるかと言えば無理であろうと思っている。少しでも助かる可能性があるのなら、亡命もあり得るのではないかと考えていたのだが、達也は違う考えを持っているようなので、彼女はその考えを聞きたいと思い達也に尋ねる。
「劉麗蕾の他に彼女の護衛部隊も一緒に日本にやってきている。捕虜ではなく亡命であるという事で劉麗蕾と引き離される事を拒んでいるようだが、俺にはその連中が新ソ連のスパイで、日本に侵攻する名目を作る為に劉麗蕾を唆し亡命させたのではないかと思える」
「さすがに穿ちすぎじゃないかしら? 大亜連合の中に裏切り者がいるかもしれないけど、それが戦略級魔法師の護衛の人間である可能性なんて、殆どゼロだと思うけど」
「あら。戦略級魔法師なのに裏切り者の烙印を押された貴女がそれを言うの?」
「私はステイツを裏切ってなんかいないわよ! というか、今は達也と話してるんだから深雪は黙っててよ!」
またしても深雪とヒートアップしてしまい、リーナは達也とミアの二人から呆れられ、深雪からは簡単に挑発に乗る残念な少女と思われるのだった。
将輝、出番ないけどフルボッコ……