劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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その想像はな……


想像で嫉妬

 女子に囲まれているなら嫉妬もしただろうが、達也の周りには男が集まっている――亜夜子はいるが――ので、深雪は穏やかな雰囲気を漂わせている。その姿は高校生男子には刺激が強すぎるのか、深雪の顔を見ては顔を真っ赤にして走り去っていく他校の生徒が大勢出ていた。

 

「さっきから男子たちが会場を走り去っていってるから何かと思えば深雪の雰囲気に耐えられなかった奴らだったのね」

 

「あらエリカ。エリカのその恰好を見て照れてる男子生徒たちもいると思うけど?」

 

「あたしのこの格好なんてそれ程珍しくないと思うけど? 水波だって、家では似たような恰好をしてるんでしょ」

 

「確かに水波ちゃんも休みの日は似たような恰好をしているけど、普通の家では珍しいんじゃないかしら? どう思う、水波ちゃん」

 

 

 深雪に問われ、水波は首を傾げる。彼女も普通の出自ではないし、自分にとってはメイド服はある意味制服なので、おかしいとは思っていなかったので、問われても答えようがないのだ。

 

「まぁ深雪たちの実家? って言って良いのか分からないけど、メイド服なんて当たり前なのかもしれないけど、普通の人が見たらこの格好はコスプレよね」

 

「でもエリカは可愛らしいから、その服を着てたらますます魅力が増しちゃうのかもしれないわね」

 

「深雪に言われても嫌味にしか聞こえないんだけど」

 

「ところでエリカ、さっきから渡辺先輩が泣きそうな顔でこっちを見てるんだけど?」

 

「ほっとけばいいのよ」

 

 

 エリカが深雪と話している為、会場にいる人間の殆どが摩利に声をかける形になり、九校戦関係者の中には摩利のことを知っている人も多くいるので、その都度驚かれたり感心されたりして困っているのだろう。

 

「いい加減お兄さんとの事を認めてあげたら?」

 

「認めるも何も、あたしは別に反対してるわけじゃないわよ。そもそも達也くんを間に挟まなければ報告にも来られなかった臆病者なんて、最初から興味ないし」

 

「その態度が認められていないって思っちゃうんじゃないの?」

 

「どうかしらね」

 

 

 いい加減本気で泣きそうな雰囲気になったのを感じ取ったので、エリカは仕事に戻っていく。その後姿を見送ってから、深雪はほのかたちと合流した。

 

「エリカと何を話してたの?」

 

「大したことは話してないわ。いい加減お兄さんと渡辺先輩の事を認めてあげれば良いのにとは言ったけど」

 

「エリカも複雑なんだと思うよ。家庭の事情だって言ってしまえばそれまでなんだろうけども」

 

「ほのかだって、ご両親とはあまり上手くいって無いんじゃなかったっけ? だから一人暮らしをしてるんでしょ」

 

「それはまぁ……でも、エリカは実家で生活してるのに家族と上手くいって無いわけだし、私とは事情が違うじゃない? だから色眼鏡で見てこなかったお兄さんが取られたと思って嫉妬しちゃってるんじゃないかな」

 

「深雪だったらどう? もし達也さんと普通の兄妹で、誰か違う女性と結婚するって聞かされたら」

 

「………」

 

 

 深雪だってその事を考えたことが無いわけではない。そもそも自分は達也のお嫁さんになる事などありえないと思い、何とか他の男性を意識しようと考えていた事もある。だがどうしても達也以外の男性を異性として意識する事が出来ず、自分が次期当主に指名されると思っていたあの慶春会前一週間は本気で鬱になりそうなほど悩んでいた。

 だが結果として自分は次期当主として指名されることも、達也以外の異性を婚約者として宛がわれることも無くなり、こうして達也の婚約者の一人として生活出来ている。この状況に不満はないと言えるほど、彼女の精神は平穏だ。

 もし達也が真夜の子供ではなく深夜の子供で、自分が次期当主として別の誰かを婿に迎え入れる事になっていたらと想像し、深雪は次第に不機嫌になっていく。

 

「み、深雪様」

 

「……ありがとう、水波ちゃん」

 

 

 無意識に魔法を暴走させそうになり、深雪は水波の声で現実に意識を戻せた。その事に対するお礼だったのだが、水波は恐縮したような表情で一礼し、再び深雪の後ろに控える形をとる。

 

「深雪が達也さん以外の男の人を異性として認識出来ないのとは違うのかもしれないけど、他の人にお兄さんを取られた気持ちはわかるんじゃない?」

 

「そうね……もし私が次期当主として選ばれていたら、私は達也様の婚約者にはなれなかっただろうし、他の男の人を婿として招き入れる形になっていたでしょう。頭ではそうしなければいけないと分かっているけども、心のどこかで拒んでたかもしれないわね」

 

「もし達也さんの婚約者が一人しか認められなかったとしたら、今頃一高の女子生徒の半分くらいが深雪の手に掛かってたのかもしれないんだね」

 

「そこまではしないと思うけど……いえ、言い切る自信が無いわね……」

 

 

 今も自分がのけ者にされていると感じて別の婚約者に嫉妬を覚えるのに、もし誰か一人が達也の事を独占していたと考えると、自分を抑えきる自信が無くなるなと深雪は思い、そして苦笑いを浮かべる。

 

「達也さんが特例として認められて、本当に良かったね」

 

「そうね。それはほのかも雫も思ってる事でしょ?」

 

 

 深雪の言葉に、二人は笑顔で頷き、そして平和な今を過ごせて幸せだと改めて思ったのだった。




一高内に死体の山が……

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