劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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個人戦なら盛り上がったかもしれないが


不機嫌な理由

 さほど衝突は無かったと言え、達也VS光宣の戦いはかなりの盛り上がりを見せた。二十八家同士の戦いという事もあるが、それだけハイレベルな戦いだった事も原因の一つだ。

 

「まさか光宣が特攻に出るとは思ってなかったわね……負けを認めたからこそなんでしょうけども」

 

「達也相手に真正面から挑んだだけ立派なんじゃね? 並みの魔法師だったら、仕掛ける前に逃げるだろうし」

 

「それはあるかもしれないけど、光宣は諦めてなかった感じじゃない。結局ミキと七宝にモノリスを落とされたから負けたけど、光宣個人は負けてないわけだし」

 

「だがあのまま続けたからといって、光宣が勝てたとは思えないが」

 

「それは私だって思ってるわよ」

 

 

 光宣個人としては達也とは勝敗付かずで終わったが、二高として負けた。それが今の試合の正直な感想だと、エリカもレオも思っている。

 

「でも、達也さん相手にあそこまで戦った光宣くんは、凄い魔法師だってことですよね?」

 

「まぁ、並みの魔法師じゃないって事は確かね。達也くんを前に冷静に魔法を繰り出してたし」

 

「だが、互いに決定打に欠けていたよな。達也は兎も角、光宣も大会のレギュレーション以内じゃ厳しかったのかもしれないだろ」

 

「まぁ、達也くんのような『例外』がそうそういるとは思えないけど、確かに光宣の魔法も威力不足は否めない感じだったし、あの二人が本気でぶつかればこの会場が無事かどうかも分からないわけだし」

 

「兎に角これで予選一位で決勝リーグ進出だ。夜のミラージ・バットで三位以上を取れば総合優勝も決定するわけだし、物足りなさには蓋をして達也たちのところに行こうぜ」

 

「そうね」

 

 

 レオとエリカは先程からニヤニヤしながら美月の顔を見ているのだが、見られている美月はその事に気付いていない。彼女の頭の中は、幹比古を労う事でいっぱいなのだ。

 

「美月、控室に入るまでにはその顔、何とかしなさいよ?」

 

「えっ?」

 

「ミキが活躍して嬉しいのは分かるけど、そんな顔でうろうろしてたら不審者確定だから」

 

 

 スカートのポケットから手鏡を取り出し、美月は自分の顔を確認して真っ赤になる。

 

「付き合ってるんだから仕方ねぇかもしれねぇけど、事情を知らねぇ人間が見たら驚くだろうな」

 

「レオ君まで……」

 

「まっ、早くいかないと七草先輩たちに達也くんたちを取られちゃうだろうし、美月が大丈夫ならさっさと行きましょう」

 

「もぅ、エリカちゃん!」

 

 

 エリカとレオにからかわれ、別の理由で顔を真っ赤にした美月だったが、早く幹比古と話したい一心で何とか表情を改め、観客席から控室へと移動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリカが危惧したように、彼女たちが控室についた時には既に真由美たちが控室にやってきていた。そのメンバーの中には、エリカが会いたくない相手もいるので、エリカの機嫌はみるみる傾いていく。

 

「エリカちゃん、分かってるとは思うけど、喧嘩は駄目だからね?」

 

「別に喧嘩なんてしないわよ。そんな事より、美月が照れてた所為で出遅れちゃったじゃないの」

 

「私の所為だけじゃないよぅ……エリカちゃんやレオ君がからかうからでしょ」

 

「あによ。あたしが悪いっていうの?」

 

「そんな事は言ってないけど……」

 

 

 明らかに不機嫌なエリカをどうしたらいいのかと悩み、救助を求める視線を達也に向けた美月に気付いたのか、達也が真由美たちに断りを入れて近づいてきた。

 

「よっ、達也。決勝リーグ進出おめでとさん」

 

「ああ、ありがとう」

 

「幹比古や七宝も頑張ってたじゃねぇか」

 

「そうかな? 僕としては、達也にまかせっきりだったとしか思ってないんだけど」

 

「まぁ、強敵は達也が引き受けてくれてたかもしんねぇが、幹比古だって立派に戦ってただろ? 二高の二人を迷わせ、七宝が仕掛けた罠まで誘導してたわけだし」

 

「あれだって達也が考えてくれた作戦のお陰だよ。僕と七宝君だけだったら、あんなこと考えつかなかっただろうし」

 

「それは俺の性格が悪いって言ってるのか?」

 

「まぁ、良くはないよね」

 

 

 達也の冗談に、幹比古も冗談で返す。お世辞でも達也の性格が良いなど、幹比古には言えない。いい性格をしてるとは思っているが、それは褒め言葉ではないのだ。

 

「ところで、何でエリカは不機嫌なんだい?」

 

 

 あえて達也が触れなかった地雷を、幹比古が盛大に踏み抜く。付き合いが長く、人間として成長していたとしてもこの辺りは相変わらずだ。

 

「何でもないわよ! そんな事よりミキ、美月がさっきから誰かさんを労いたくて仕方ないみたいだから、ちょっと出て行ったら?」

 

「エリカちゃん!?」

 

「僕の名前は幹比古だ! えっと……柴田さん、ちょっといいかな?」

 

「は、はい……」

 

 

 エリカのお陰――とは幹比古は思わないだろうが、美月と二人きりになれるという事で幹比古は彼女を連れて控室を出て行った。

 

「素直に二人きりにしてやれば良かっただろ」

 

「別に良いのよ。あの二人はこれくらい言わないと二人きりになんてならないだろうし。それより達也くん、お疲れ様」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

 ぶっきらぼうな態度でも気分を害した様子が無い達也に、琢磨は「大人な対応」だと感心したが、事情を知っているメンバーは苦笑いを浮かべるのだった。




八つ当たりのお陰で二人きりに

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